
12月17日、日本ASEAN友好協力50周年特別首脳会議が開催、岸田氏は中国を念頭に「日本はASEAN諸国の平和と安定のパートナーとして、法の支配にもとづく自由で開かれたインド太平洋(FOIP)を推進する」と表明したうえで、共同ビジョンに「海洋安全保障協力を含む安全保障協力を強化する」との文言を書き込んだ。
日本、フィリピン、ベトナム、インドネシアは中国と海洋領有権で対立する。日本はこの4月、非軍事に限定された政府開発援助(ODA)とは別に安全保障分野における資金協力の枠組み「政府安全保障能力強化支援(OSA)」を創設、同様の問題を抱える国との連携強化をはかりたい考えだ。しかし、彼らにあっても対中国政策には温度差があり、米中対立には中立的でありたいというのが本音である。OSAはあくまでも「二国間の問題」であるとされ、共同ビジョンへの明記は見送られた。
日本とASEANとの関係は半世紀を経て大きく変わった。8月に発表された「日ASEAN経済共創ビジョン」に記されたとおり両者は公正で互恵的な経済共創の実現を目指すパートナーであって、既に支援する側と支援される側という関係ではない。否、もはや日本は選ばれる立場にある。筆者は先週、久しぶりにインドネシアを訪問した。ジャカルタ名物の渋滞は相変わらずで日本車のシェアも高い。しかし、明らかに中韓勢の存在感が増している。街を走り回るEVタクシーはBYD(中国)ブランドであり、イオンモールの催事スペースに並べられたクルマはHYUNDAI(韓国)のEV、“IONIQ 5”だ。
さて、筆者のインドネシア出張の目的は政府公認のハラール認証機関LPPOM MUIとの日本における独占代理契約の調印である※。インドネシアは人口2億4千万人を擁する内需型の成長市場であるが、資源やインフラ分野を除くと日本勢は出遅れている。イスラム教にもとづく生活習慣や文化の違いが要因の一つであるが、今回の提携を通じて、これらについても日本語でサポートできる体制を整えた。懸念は無用だ。そうそう、現地の外食チェーンのスタッフはサンタの帽子をかぶっていたし、商業施設のクリスマスイベントは親子連れでいっぱいだ。あれ?とも思ったが、みんな屈託なく楽しんでいる。敷居は意外に高くない。是非とも新たな可能性にチャレンジしていただきたい。
※LPPOM MUIとの業務提携について:株式会社矢野経済研究所、LPPOM MUIと「ハラール認証代理業務」に関する独占契約を締結(2023年12月14日)

政府肝入りの「異次元の少子化対策」の財源が明らかになりつつある。政府は2024年度末から児童手当の支給対象を現在の中学生から高校生へ拡大させることを決定しているが、これに合わせて高校生世代がいる世帯を対象に所得税と住民税の扶養控除の適用範囲を一律に引き下げる。これは高校生への支援が他に対して手厚くなることへの措置であると説明されるが、子育て世代間における “アメとムチ” 的な発想に “異次元の” という表現はすっかり色褪せる。
少子化対策には年間3兆円を越える財源が必要となる。規定予算内での調整や歳出改革では間に合わない。そこで “支援金制度” の導入である。政府は2024年度からの3年間を “加速化プラン” の実施期間と位置付けるが、これに対応する形で2026年度から2028年度まで1人あたり500円程度を公的医療保険に上乗せする計画だ。医療保険は企業も半額を負担するため社会全体で取り組むという大義にも合致する。しかし、保険料ではあるが、実質的には増税であり、こどものいない世帯からの不満が燻る。
後期高齢者の自己負担割合も引き上げる。出産育児一時金の財源にその一部を充当することで現役世代の負担を抑制する。しかし、そもそも後期高齢者の医療制度を健康保険制度から切り離した狙いは「現役世代による財政支援で後期高齢者の医療負担を軽減する」ことにあった。つまり、これは当初の制度設計に相反する策であって、すなわち見通しの甘さと政策の行き当たりばったり感を浮き彫りにさせるものである。
一方、ここへきて子育て支援策に新たな駆け込みもある。5日、こども世帯への生命保険料における控除引き上げ案が報じられた。住宅ローン金利の優遇、住宅リフォーム減税といった施策に加えての “生保優遇” には当然ながら「特定業種への偏り」や「低所得層に恩恵が及びにくい」ことへの批判があがる。
世代間、ライフスタイル(こどもの有無)、所得階層間、これらの対立をどう解消するのか。縦割り型の発想を越えた、抜本的な制度設計が必須である。“辻褄合わせ” ではすべてが中途半端となろう。結果、誰もが将来への確信を失う。少子化対策が最優先課題であるとすれば、今まさに「異次元」の覚悟が問われる。

今日、11月30日、国連の気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)がスタートする。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は21世紀末時点における世界の平均気温を産業革命前比+1.5℃に抑えるためには「2035年時点で対2019年比60%の削減が必要」と指摘しており、これを公式な目標数値として成果に書き込めるかが会議の焦点である。“60%” という数字は5月の広島サミットでも確認されており、G7議長国である日本の覚悟も問われる。
今回の会議ではパリ協定で定めた「5年ごとに削減目標の達成度を検証し、それを踏まえて目標を再設定する」ルールがはじめて適用される。会議前に公表された検証結果によると「現状では “1.5℃目標” の達成は不可能」とのことであり、上記 “60%” の意味もここにある。加えて、議長国が合意を目指す “2030年までに再生可能エネルギーの導入量を3倍に” とする提案やEUが重視する “化石燃料の削減・廃止” を巡る議論の行方も注目される。
COP28を控えた11月20日、国際的な非政府組織(NGO)オックスファムが「気候変動が世界の格差を助長している」とのレポートを発表、「2019年、世界の超富裕層1%が排出する温暖化ガスは世界の排出量の16%に相当、自動車、道路輸送の排出量を上回るとともに100万基の風力タービンの効果を相殺する。影響は洪水、海面上昇、砂漠化、食料危機など多岐にわたり、被害は途上国に集中する。一方、1%の超富裕層の所得に60%の税を課すことで英国の排出量を上回る削減が実現でき、加えて化石燃料から再生可能エネルギーへの移行費用として6.4兆ドルが調達できる」という。
COPでは常に先進国と途上国が対立する。オックスファムの言葉を借りれば、豊かな国は “disproportionately(不釣り合い)” なほどの責任を有している、ということだ。一方、この問題において常に “途上国” として振る舞ってきた中国が「再生可能エネルギー3倍案」については米国とともに支持を表明するなど個々の主題ごとに各国の利害は錯綜する。中東産油国の反発は当然予想される。ただ、今回の議長国はまさに中東の産油国、アラブ首長国連邦(UAE)で、議長はアブダビ国営石油会社のCEOを兼務するジャベル産業・先端技術相である。それゆえの懸念もある。しかし、それゆえにこそ大胆でリアルな調整力を示していただきたい。

NTT法廃止に向けた自民党の原案がまとまった。具体的には来年の通常国会で「研究成果の開示義務」を撤廃させたうえで、遅くとも2025年の通常国会までにNTT法の完全廃止を実現するよう政府に提言する。NTT法は1985年、日本電信電話公社の民営化に際して制定された。固定電話の全国一律ネットワーク維持や研究成果の公開を義務づけるなど、公共公益性の維持と通信業界における公正な競争を促すことが狙いである。
これに対して、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルを含む電気通信事業者や公共性の維持を不安視する地方自治体等は「反対」を表明、慎重な政策議論を要望する「連名要望書」を10月19日付で提出している。11月7日、NTTは「NTT法のあり方に関する見解」を発表、引き続き他の事業者に公平なネットワークを提供すること、NTT東西とNTTドコモを統合する考えはないこと、公正な競争は電気通信事業法で、外資規制については外為法等でカバーすべきであるなど、NTT側のロジックを展開した。
一方、競合する通信大手3社は11月14日付の共同リリースで反論する。問題の根底にあるのは、25兆円もの国民財産を投じて構築されたNTTの通信基盤は単なる一企業の固定資産とは異なる、という点だ。グループ再統合に対する警戒も根強い。一方、地方にとっての懸念はユニバーサル・サービスの後退である。これに対してNTTは「民営化時に株式を政府に割り当てた。よって資産は株主に帰属する」と主張、また、全国一律サービスの維持についても電気通信事業法で規定されているとする。
通信環境は固定電話が主流であった時代とは大きく異なる。通信分野における国際競争力を強化し、新たなテクノロジーに対応した競争環境を整備するためにも法律の見直しは不可避である。とは言え、そもそも今回の見直しは、防衛費増の財源確保に向けて「5兆円に相当する政府が保有するNTT株式の売却」が提案されたことが契機となった。さすがに自民党原案でも防衛費の財源問題とは切り離された格好になっているが、時限を明記した原案のどこかにそれは燻っていないか。技術革新のスピードは待ったなしだ。検討を先送りすべきではない。しかし、結論ありきの拙速な議論で通信の未来を規定すべきではない。公共性と公正な競争環境の確立に向けて、オープンな議論に期待する。

11月6日、独立行政法人国立科学博物館、通称 “かはく” は、8月7日から11月5日にかけて実施したクラウドファンディングの結果を発表した。“地球の宝を守れ、かはく500万点のコレクションを次世代へ” との趣旨でスタートしたプロジェクトは目標1億円を開始後9時間でクリア、最終日までに支援者56,562人を集め、支援総額は国内クラウドファンディング史上最高額915,560千円に達した(最終集計額は11月13日に確定予定)。
資金使途は返礼品を含む間接経費に3.2億円、コレクションの充実、標本や資料の維持管理に4.4億円、他館とも連携した収蔵標本のレプリカ作成や災害リスクへの準備、巡回展の実施などに1.6億円を予定しているとのこと。政府も博物館の自主的な予算獲得の取り組みを支持するとともに「安定的な博物館運営に取り組む」と表明した。
学術・芸術・文化活動に対する支援形態は国によって異なるため一概に比較は出来ない。とは言え、文化予算における日本の低さはやや突出している。各国の国家予算に対する文化予算比率と国民一人あたり文化支出額は以下のとおり。韓国1.24%、6705円、フランス0.92%、7079円、ドイツ0.36%、2744円、イギリス0.15%、2810円、日本、0.11%、922円である。因みに所管官庁を持たず民間による自主運営をベースとする米国は同0.04%、545円、それでも絶対額では1803億円、日本の1166億円を上回る※1。
コロナ禍の初期、政府は「不要不急の外出自粛」の徹底を国民に求めた。結果、芸術、文化、娯楽産業は社会からはじき出された。状況は世界も同様だ。そうした中、ドイツの文化支援策が注目された。施策の規模、質、スピード感の見事さに異論はないだろう。しかし、最大の支援は「連邦政府は芸術支援を優先順位の一番上に置く」「文化は良き時代においてのみ享受される贅沢品ではない」「文化は民主主義の根幹である」といったメルケル首相やグリュッタース文化行政担当相からの、すなわち国家からのメッセージである。“かはく” のクラファンは大きな成果である。しかし、それは国の取り組みの物足りさも意味する。人類共通の資産をいかに未来へつなぐか、文化支援の在り方を見直す契機としたい。
※1)出典:令和2年度文化庁委託事業「諸外国の政策等に関する比較調査研究」報告書(一般社団法人芸術と創造)

10月31日、政府の経済対策案がまとまった。最大の関心事となった “減税” は、物価高対策としての “一時的な措置” であることを明記したうえで所得税納税世帯1人あたり4万円(所得税3万円+住民税1万円)の定額減税とし2024年6月から開始する。一方、住民税非課税世帯には3月決定分の3万円に加えて7万円を給付する。ただ、減税案については与党内にも「物価の状況次第では延長を」、「所得制限をかけるべき」といった声もあり、与党税調は年末までに最終案をとりまとめる。
政府は減税に拘る。政府の立場は “一律の現金給付は国難の際に限定されるべき” であって、減税はあくまでも “税収増に対する直接還元” とのロジックである。そう、矛盾はここにある。そもそも今回の経済対策は急激な物価上昇に対する生活支援が目的ではなかったのか。そうであれば優先されるべきは緊急性であり、消費の浮揚効果という点では消費税減税がもっともシンプルでメッセージ性も高い。もちろん、期間は “賃金上昇が物価に追いつくまで” とするのが自然だ。
今回の経済対策では生活支援を目的とした “減税” と給付に加えて、賃上げ促進、イノベーション投資、経済安全保障の強化や中小企業、スタートアップ支援など多岐にわたる企業向けの税制優遇措置も盛り込まれた。個々の政策趣旨は理解できる。しかしながら、長期的な視点に立って取り組むべき構造問題と “ロシアのウクライナ侵攻によって” という枕詞で説明される事案に対する施策の混在は、経済対策の趣旨を分かりにくくするとともに、中身も総花的にならざるを得ない。結果、効果も薄まる。
10月20日に幕を開けた臨時国会には、首相や閣僚を含む国家公務員特別職の給与改定に関する法案が提出された。一般自衛官の給与増に異論はない。しかしながら、国民生活の支援策に先んじて閣僚自らの報酬引き上げを国会にはかることにバツの悪さを感じないあたりに国民感情とのズレが垣間見える。この9月期、沖縄電力を除く大手電力9社の決算は経常最高益を記録した。要因は “値上げ” である。一方、政府は物価対策としてガソリン・電気・ガス代の補助を来年3月まで延長することを決定済だ。原資はもちろん税金である。ここにももやもや感が残る。再度、施策の全体像を見直し、矛盾や重複がなく、もっとも効果を実感できる施策に集中いただきたく思う。