11月19日~20日、「りんごの里信州・飯田と絶景の秘境を歩く旅」と題した飯田市モニターツアーに参加した。ツアーは飯田市役所 “結いターン移住定住推進課※” と同市出身で全国各地の田舎再生を支援するNPO法人えがおつなげて(北杜市)の曾根原久司代表、同じく地元出身で内外の旅行企画と地方創生に取り組む㈱せかいをつなぐ(調布市)の市瀬達幸社長、編集者でライターの外島美紀子氏が中心となって準備、高質な観光コンテンツで新たな関係人口の創出をはかることが狙いである。青山学院大学教授で青山学院ヒューマン・イノベーション・コンサルティング㈱代表取締役の玉木欽也氏、(一社)能登里海教育研究所の浦田慎主幹研究員、そして、筆者の3人が招待された。
ツアーはJR飯田線の飯田駅からスタート、秘境駅、茶畑、温泉、古民家宿、天竜峡、りんご狩り体験とまさにフルコース、名所や絶景は期待通りの素晴らしさだ。人口当り日本一を誇る焼き肉店の多さが象徴する “焼き肉愛” や伊那谷固有の昆虫食など地域の食文化への理解も深まった。難所続きの鉄道敷設を率いたアイヌの川村カネト氏の逸話、独特の所作で名高い大名行列の由来など、沿線の歴史や文化を語ってくれたのは真空管ラジオの再生工房を営む勝野薫氏だ。
ハイライトは当地に生きる若い3人の物語。中井侍のお茶農家、二代目七郎平、静岡に生まれ岩手大を卒業し、この地に根付く。「茶摘みに必要な資質は運動能力」と楽しそうに語る彼に “秘境” のイメージはない。お茶栽培にとっての適地であることが、彼がここを選んだ理由であろう。築130年の古民家宿 “燕と土と”、オーナーは都会でのホテル修行を経て地元へUターンした起業家だ。「妻は来年、認定農業者となる」と目を細めつつ、事業拡大への意欲を語る。そして、りんご農家 “たつみ農園” の四代目。彼は、「観光客はもちろん地元との関係づくりが大切だ」と説く。従来、横のつながりが希薄であった地区の農家に声をかけ、地域全体でのイベントを仕掛ける。
まさに三者三様ではあるが、共通するのはそれぞれの未来への信頼である。彼らのフィールドがこの地であることの必然性もそれゆえである。筆者と同じ立場でツアーに参加した浦田氏が飯田線の貨物輸送の歴史を解説してくれた。今は無人駅となった駅からも多くの資材や産品が出荷されていた。かつて、それらの地にもその必然性があったということだ。地域の多様性はなぜ失われたのか。標準化と効率化への画一的な要請が過疎を促した背景にあるとすれば、今はまさに転換期である。そこに住む人、その地を訪れた人が、その地に自分自身の未来を描くことが出来るか、その機会をいかに創出するか、行政の役割も小さくない。がんばれ、飯田市。
※結いターン:飯田の語源である“結い(助け合う)の田”とUターン+Iターン=UI(ユイ)を掛け合わせた造語