6月6日、スポーツ庁の有識者会議「運動部活動の地域移行に関する検討会議」は、公立中学校における休日の部活動を地域の民間スポーツ団体等へ移管することを骨子とする提言をまとめた。想定される移行パターンは、地域のスポーツクラブへ移行する、外部指導者に指導を委託する、教員が「兼職兼業」として報酬を得たうえで指導する、の3つとし、2025年度までに全国の公立中学校で実現することを目標とする。まずは休日の移管が対象となるが、平日の移行も奨励される。学校をスポーツ振興の拠点と位置付けてきた体育教育からの大きな転換である。
背景には少子化による生徒数の減少、学校の統廃合がある。今、地方はもちろん都市部であっても部活動の維持は困難であるという。しかし、地域への移行はこれ以外の効用も大きい。多様なスポーツ体験や地域の多世代との交流は子供たちにとって有益だ。また、提言では指導法やハラスメント禁止など専門知識をもった指導者育成の必要性も示された。勝利至上主義のもと看過されてきた人権侵害の根絶は大いに歓迎したい。そして、何よりも最大のメリットは教師の長時間サービス残業からの解放である。現場の “献身” に支えられてきた部活動がようやく正常化に向かうということだ。
そもそも教師は足りていない。文部科学省の調査によると2021年4月の始業日時点、全国の公立小中高校と特別支援学校において、正規教員の定員を臨時教員で補えていない “教員不足” は2558人に達する。絶対数の不足はもちろんであるが、問題は最長1年契約という非正規の臨時教員の多さである。2020年度で教員定数の7.5%に達する。この背景には教員採用の裁量が国から自治体に移管されたことに伴い、人件費における自治体の財政負担が増したことがある。要するに非正規が財政上の調整弁となっているということだ。
標高4800m、ブータンの秘境ルナナに赴任した若い教師と村の子供たちの交流を描いた映画「ブータン 山の教室」(2019年、パオ・チョニン・ドルジ監督)の一場面、教師が子供たちに将来の夢を問う。ある子の答えはこうだ。「ぼくは先生になりたい。先生は未来に触れることが出来るから」。7日、岸田政権が閣議決定した「骨太の方針」は “人への投資” を掲げた。高度人材への投資は急務である。一方、国全体の教育水準の向上も持続的成長の実現に必須である。部活動の地域移行も最終的には費用負担の問題となるだろう。教員採用すらおぼつかない自治体に公的補助の余力は乏しい。国の未来を担うのは子供たちだ。であれば、公教育に対して国はどうコミットするのか、明確なビジョンと責任を打ち出す必要がある。