今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2022 / 02 / 04
今週の“ひらめき”視点
そごう・西武売却へ。「なくてもいい」存在からの脱却は可能か

2月1日、セブン&アイ・ホールディングスはそごう・西武売却の報道について「あらゆる可能性を排除せず検討している。しかし、決定事項でない」旨、リリースした。とは言え、コンビニ事業への集中を求める所謂 “モノ言う株主” からの圧力が強まる中、再建の見通しが立たない百貨店事業の切り離しは必然の流れである。投資ファンドを軸とした譲渡手続の詰めは恐らく最終段階にあるものと推察される。

2021年、コロナ禍2年目の全国百貨店の売上高は4兆円強、長期間の営業自粛を強いられた前年を上回ったものの、コロナ前と比較すると依然2割減の水準にとどまる。そもそもかつて12兆円あった市場が1/3の規模へと縮小した要因は、テクノロジーの進化を背景とした消費行動の急激な変化と主要顧客であった中間層の喪失である。つまり、変化は構造的であって、コロナ禍はそのスピードを加速させたに過ぎない。

2006年、そごう・西武の買収を仕掛けたのは鈴木敏文氏(当時会長)、狙いは「社会階層によって小売業態が細分化されている米国市場と異なり、日本は同じ一人の消費者がシーンに応じてこだわり消費と日常消費を使い分ける。ゆえに顧客情報を軸とした業態間シナジーは大きく、リアルとネットを統合した新しいモデルが開発できる」だった。しかし、リアル、ネットいずれにおいてもスーパー、コンビニ、百貨店の戦略的シナジーは期待したレベルには届かず、一方でPB「セブンプレミアム」の百貨店への展開などセブン流の効率化が百貨店としての魅力を削いでいった。

それでも地方店の閉鎖、SC型ストアへの業態転換、人員削減など、市場環境の変化になんとか抗ってきた。Z世代の三和沙友里氏プロデュースによる「服を売らないアパレル」のポップアップショップの開催、思想と社会性のある事業づくりを掲げる辻愛沙子氏をクリエイティブディレクターに起用したメディア型OMOストアの開発など、“輝き” の片鱗もかろうじて顕在だ。
そごう・西武の今年のコーポレートメッセージは「わたしは、私」、「なくてもいいと言われるものと、私の心は生きてゆく」だ。モノ言う株主、親会社から “なくてもいい” を突きつけられた彼らであるが消費者、そして、新たな株主から “なくては困る” 存在であり続けることが出来るか、まさに正念場だ。
※OMOストア:Online to Offlineストアの略、店頭とECをシームレスに連携させたコンセプト・顧客・商品・情報が統一されたストア形態

2022 / 01 / 28
今週の“ひらめき”視点
無人運行の実現に向けて前進、大型フェリーの自動操船実験に成功

日本財団が進めてきた無人運行船の開発実証プロジェクト「MEGURI2040」に2つの大きな成果があった。1月11日、丸紅、トライアングル、三井E&S造船、横須賀市をメンバーとするコンソーシアムは横須賀の猿島で小型観光船による実証実験を実施、離桟から着桟を含む1.7㎞の航路で無人操船を成功させた。その6日後、17日には日本財団、三菱造船、新日本海フェリーによるコンソーシアムが世界初の大型フェリーによる無人運行実験を実施、こちらも成功した。

後者の実験に使用された船は新日本海フェリーの「それいゆ」、総トン数15,515トン、全長222.5mの大型船、就航は2019年、設計段階から将来の無人航行を想定した最新鋭の “スマートフェリー” である。実験は新門司港から伊予灘沖で約7時間かけて実施、一般の船舶や漁船との衝突を回避しながら最速26ノットという高速での自動操船に成功した。また、回頭や後進など、高度な操船技術が要求される自動離着岸の実験も成功させている。

国内旅客船の船員数は2000年代初頭からこの20年間で1万人から7000人へ減少している(国土交通省)。背景には船員の高齢化、離島の過疎化に伴う航路の採算性悪化がある。「MEGURI2040」は2040年時点に国内船籍の50%を無人運行船に置き換えることを目標としており、内航船舶関連事業者のみならずICT、AI業界などへの波及効果も大きい。経済効果は1兆円、成長産業として日本が世界で戦える技術分野の一つである。

さて、2020年7月、商船三井が傭船した「WAKASHIO」がモーリシャス沖で座礁、大量の重油が流出した事故はまだ記憶に新しい。原因は、船員が携帯電話を使うために島に接近したため、と報道された。海難事故の8割がヒューマンエラーと言われる。完全な無人航行の実現には時間を要するだろう。しかしながら、船の安全航行システムをクルマの運転支援システムレベルに引き上げることは可能であろう。技術面での実証実験と合わせて、規格、法体系、費用負担の在り方などシステムの段階的な導入に向けて国際的なレギュレーションづくりを主導して欲しい。

余談になるが、その「WAKASHIO」を所有する長鋪汽船が1月21日付で一通のリリースを発表した。タイトルは “当社管理船の座礁および油濁発生の件 第14報”、内容は「2022年1月15日、船骸の撤去がすべて完了した。引き続きオイルフェンスの撤去作業を進める。今後も現地当局と連携し、環境の修復に努める」とのことである。私見ながらここまで報じてはじめて本当の意味での報道ではないか。危機に際してこそ経営者の資質が問われる。我々はそこに企業の真価を見出したい。

2022 / 01 / 21
今週の“ひらめき”視点
中国経済、減速。2022年1-3月期、コロナ対策の成否が鍵

17日、中国国家統計局は2021年10-12月期の国内総生産が実質ベースで前年同期比4.0%増であったと発表した。4-6月期の同7.9%増、7-9月期の同4.9%増からのもう一段の失速は中国経済の停滞をあらためて印象づけた。背景には不動産不況やIT業界への統制に象徴される “先富論” から “共同富裕” への国策の転換、急進的な環境政策に伴う電力不足、地方政府の過剰債務、米中対立などの構造問題がある。加えて、経済の大きな足かせとなっているのが、新型コロナウイルスの封じ込め政策である。

中国のコロナ対策の原則は「ゼロコロナ」政策である。人口500万人都市であれば2日内に全住民のPCR検査を完了させる体制を全土に構築済みだ。“封じ込め” は成功したかに見えた。しかし、昨年夏以降、散発的に新たな感染が確認され始め、年末には人口1300万人を擁する西安市がロックダウンされるに至った。長距離バスの運行は停止され、幹線道路が封鎖される。年が明けると人口1400万人の天津市、550万人の安陽市でも感染が拡大、当局は間髪入れずに行動規制を敷く。モノや人の流れは実質的な制限下にあり、企業活動や市民生活への影響は軽くない。

実は当社の上海現地法人の社員もこうしたコロナ対策を、身をもって体験することとなった。1月11日、彼は河北省石家庄市へ出張したが、現地に到着するとスマートフォンの健康コードの色が緑から黄色に変わっていた。そのため、当局が指定するホテルに強制隔離、2回のPCR検査を受けることとなった。理由はその日、天津で新たな感染が確認されたためである。しかし、石家庄と天津は300㎞以上離れている。では何故? 実は、12月29日、彼は出張で天津を訪れていた。つまり、2週間前の行動履歴に遡及して隔離された、ということだ。幸いにして陰性が確認され無事上海へ戻ることが出来たが、あらためて「ゼロコロナ」の徹底ぶりに驚かされるとともに、小説「1984年」(著者:ジョージ・オーウェル)に描かれた世界を想起せざるを得ない出来事であった。
※健康コード:感染リスクを緑・黄・赤で表示するスマホアプリ。当局の身分証明システムと連携、公共施設、交通機関、オフィスビル、ホテル等への実質的な通行証として運用されている。

今、中国は北京冬季オリンピックに向けての厳戒態勢下にある。そうした中、旧正月を祝う春節の連休がはじまる。コロナ前、期間中の旅行者は延べ30億人に達していた。しかしながら、今年は移動の自粛が求められており、また、帰省先、観光地、自宅エリアが旅行中に突然封鎖されるリスクもある。春節需要は大幅な縮小が避けられない。旅行、飲食、小売、レジャー業界への打撃は小さくないだろう。それでも事前の予想では12億人が国内を移動する。感染拡大のリスクは高まる。そうなると行動制限は更に強化される。まさに “負のスパイラル” だ。20日、中国人民銀行は先月に続き2か月連続で政策金利を引き下げた。状況次第では、“共同富裕” の一時的な棚上げもあるかもしれない。とすると政治の不安定さも強まる。1-3月期、2022年の中国経済にとって正念場だ。

2022 / 01 / 14
今週の“ひらめき”視点
古本屋さんの新たな業態“ブックマンション”、シェア型店舗で個性を発信

“ブックマンション” という新しい本屋さんのカタチをご存知だろうか。仕掛人は24時間無人営業の古書店「BOOK ROAD」(三鷹)を経営する中西功氏、「本をシェアする文化を広めたい」との想いから2019年7月、吉祥寺に第1号店をオープンした。ビジネスモデルはシンプルだ。要するに店内の本棚、1棚1棚を売り場単位とするインショップ型のショッピングモールである。

インショップのオーナー(棚主さん)は自身の愛読書やみんなに勧めたいと思う本を自由に棚に並べ、販売することが出来る。つまり、棚主さんは「世界にたった一つのセレクトショップの経営者」ということだ。と言っても、約30㎝四方の1棚であって、大きな売上が期待できるものではない。棚は自分の価値観や想いを伝える表現の場であり、そこに共鳴した人との出会いや共感の連鎖こそ棚主さんが獲得する資産である。小さな1棚から発信されるメッセージは地域や人とのつながりを創造するための無形の資本ということが出来よう。

そんな “ブックマンション” スタイルの新たな店舗が京王線仙川の商店街の一角にこの春オープンする。店名は「1000+1BOOKs(センイチブックス)」、私事で申し訳ないが筆者の妻が代表を務める「万朶プランニング」が運営する。現在、3月のオープンに向けて第1期棚主をクラウドファンディングにて募集中、自分の読書歴を自慢したい、自分と同じ本を読んだ人と語り合いたい、自分を表現する拠点を持ちたい、ちょっとした副業にチャレンジしたい、なんて方であれば誰でも大歓迎、ご関心のある方は以下をご覧いただければ幸いである。
【仙川】自分本棚で個性発信!共同参加型誰でも本屋さんセンイチブックスプロジェクト - CAMPFIRE (キャンプファイヤー) (camp-fire.jp)

リアルからデジタルへのシフトはあらゆる業種業態で進む。そして、その攻防に決着がつきつつある中、今、リアル店舗の再価値化が進む。コト消費が注目されはじめたのは1980年代の後半、やがて、特定の時間や空間を共有することに価値を見出すトキ消費へ発展する。顧客満足(CS)から顧客体験(CX)への質的変化、と言うことも出来よう。要するに、今、店舗に求められる付加価値は、参加し、体験し、共感し、プロジェクトや社会への貢献を実感できる場、ということだ。ブックマンションはその一形態である。業態としてはまだ進化の途上だ。多彩なパートナーを巻き込んでの新たな創発に期待したい。

2021 / 12 / 24
今週の“ひらめき”視点
民主主義を前に進めるために。アフターコロナを見据え「今」を再点検しよう

19日、香港ではこの5月に導入された新たな選挙制度のもとはじめての立法会議員選挙が行われた。議席は親中派が独占、民主派はすべての議席を失った。そもそも新制度では「政府への忠誠」が立候補の資格要件とされており、結果に驚きはない。民主派の希望が過去最低の投票率に埋もれた一方、当局は「民主制度にはさまざまな形式がある」としたうえで、「愛国者による秩序の回復」と「一国二制度の安定」に胸をはった。選挙後、天安門の犠牲者を追悼する香港大学のモニュメント “国恥の柱” が撤去された。名実ともに香港は中国と一体化した。

香港の選挙の前日、台湾では重要な国策に関する住民投票が実施された。結果、米国産豚肉の輸入制限など国民党が提案した議案はすべて否決された。これについて蔡英文総統は「国民は国際社会との連携を選択した」旨の声明を発表したが、要するに台湾は中国寄りの中国国民党(国民党)ではなく、米との関係強化をはかる民主進歩党(民進党)の政策を支持したということだ。今、香港の変化を目の当たりにする中、台湾の存在感が高まる。10月には欧州議会が台湾との関係強化をはかるようEUに勧告、11月には米下院議員団の訪台もあった。

言うまでもなく狙いは中国の対外戦略への牽制である。加えて、世界的に進行する “民主主義の後退” に対する懸念と警戒を指摘したい。統治形態を自由民主主義、選挙民主主義、選挙専制主義、完全な専制主義の4つに分類し、世界の民主主義を分析しているV-Dem研究所(本部スウェーデン)によると、この10年間における顕著な変化は選挙民主主義の急減と選挙専制主義の拡大であるという。世界人口に占める前者の割合は30%後半から19%へ、後者は25%程度から43%へ、つまり、民主主義という衣を纏った専制主義化が進んでいるということである。

問題はそれが極めて自然な流れの中で進んでゆくということだ。同研究所は典型的な専制主義化へのプロセスを「選挙で合法的に政権をとった後、メディアや言論を統制し、社会の分断をはかり、やがて、選挙そのものをコントロールしてゆく」と説明する。
政権周辺への利益還流、公文書や公的統計の改ざん、フェイクニュース、排外思想、パンデミックのもとでの権威主義的な政策への期待、、、今、民主主義の側のどこかに綻びの予兆はないか。コロナ禍後の社会の在り方を考えるためにも我々自身の現在の立ち位置をしっかり検証し、点検しておく必要がある。

2021 / 12 / 17
今週の“ひらめき”視点
EV化、加速。目覚めたらすべてが変わっていた、と感じさせるスピード感が欲しい

トヨタは2030年までのEVの世界販売目標を200万台から350万台へ引き上げる。HVを含む電動化投資額は8兆円うち4兆円をEVへ、車載電池には別途2兆円を投じる。また、国内の市場開拓をはかるべく2025年までに全国の販売店に急速充電器を設置する。
一方、会見ではトヨタの基本戦略はあくまでもHV、FCVを含む「全方位」戦略であることを強調、「トヨタは多様な市場を相手にしている、優先順位はつけない、各国のエネルギー事情や市場動向に素早く対応することで生き残りをはかる」との考えを示した。

とは言え、上方修正は紛れもなくトヨタの “本気” を示している。欧州、中国勢に比べてEVに消極的と評されてきた日本勢であるが、ここへきて日産も2026年までに2兆円を投資、2030年までにEV比率を50%以上に拡大すると発表、ホンダも2040年までに世界で販売する全車種をEVまたはFCVにすると宣言している。12日、アブダビで開催されたF1最終戦の当日、ホンダは「Thank you MERCEDES, Thank you FERRARI、、、」とライバル達への感謝を新聞広告に掲載、“エンジン・サプライヤー” としての戦いの終わりを世界にメッセージした。

経済産業省もEV、PHV、FCVの購入補助金を42万円から80万円に引き上げる。しかしながら、閣議決定された令和3年度補正予算の要求額は、購入補助金に充電インフラ整備の費用を加えても375億円だ。GoToトラベルにはその7倍、2685億円が新たに計上されている。日本と同様、EV化に後塵を拝した米国は充電設備のネットワーク構築に75億ドルを投じる。自動車産業における競争優位の喪失は国際市場での敗退を意味する。2030年までにEV用充電スタンドを現在の5倍15万基、水素ステーションを同6倍1000基とする政府目標を達成するためにも、大胆かつ集中的な投資計画を策定いただきたい。

14日、東京都は板橋区と連携してEVバイクのバッテリーシェアリングの実証実験をスタートさせた。東京都は2035年までに都内で販売される二輪車の100%非ガソリン化を目指しているが、これはその一環である。具体的には個人と事業者向けにEVバイクを貸出、板橋区の施設やコンビニ店舗に交換スポットを設置し、バッテリーをシェアリングする。対象はバイクであり、実験の規模も限定されている。しかしながら、メーカーと行政がどんなに笛を吹いても、需要サイドが価値を共有しない限り市場の創造はない。その意味で、次世代モビリティ社会の一端を生活の中で体験することの意味は小さくない。取り組みの広がりと積み重ねに期待したい。