今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2022 / 04 / 15
今週の“ひらめき”視点
世界で不安定さが拡大。日本は新型コロナに決着を

対露制裁の反動が世界で顕在化しつつある。資源高による物価の急騰は、経済はもとより社会全体を揺さぶる。フランス大統領選挙では「EUと距離を置くべき」、「自由貿易より国内産業を」、「移民が国民を貧しくしている」と訴え、身近な物価対策を前面に掲げる右派のルペン氏が現職の中道派マクロン氏を猛追、24日の決選投票の行方はまったく分からなくなった。現実の問題として家計を圧迫された人々はより内向きに、そして、自国主義に傾く。ロシアの軍事侵攻は国際社会のみならず、その内側の分断も加速させつつある。

パキスタンでも首相のカーン氏に対する不信任案が可決した。資源のないパキスタンにとってエネルギー価格急騰のダメージは深刻であり、これが反首相派を勢いづかせた。失職したカーン氏は支援者に対して抵抗を呼び掛けており、中国寄りで米国批判を繰り返してきたカーン氏の今後の動向次第ではインド、アフガニスタン、中国などを巻き込んで地域全体の不安定さを助長する恐れもある。

加えて中国経済の停滞も懸念材料だ。ゼロコロナ政策に伴うリスクは年初の本稿でも指摘したが、人口2500万人を擁する上海でそれが現実のものとなった。上海は3月28日からロックダウン、当初期限の4月5日には延長を発表、外出禁止を呼びかけながら無人の市内を走り回る犬型ロボットの姿はまさに近未来のディストピアさながらだ。
今週に入ってようやく一部地域で封鎖が解かれたとのことであるが、完全な収束には時間を要すると思われ、社会活動の正常化はまだ先になろう。長期化が心配される。

11日、日銀は「地域経済報告-さくらレポート」を発表、全国9地域のうち8地域の景気判断を引き下げた。急激な円安、資材の高騰、サプライチェーンの混乱など、要因は複合的である。加えて新型コロナウイルスだ。政府、医師会は「第7波」に警鐘を鳴らす。しかし、重症化率の高い高齢者の85.3%が3回目の接種を終えている。ウイルスも当初のものとは異なる。一体いつまでこれを続けるのか。ウイルスはもちろんリスクだ。しかし、不安と不満の根源は施策への不信にある。この2年間、多くの犠牲を払って獲得してきた知見があるはずだ。一刻も早く明確な “出口” 戦略を提示していただきたい。今の戦い方では情勢の急激な変化を勝ち抜くことは出来ない。

2022 / 04 / 08
今週の“ひらめき”視点
東証再編、イノベーションを創発する質的な市場改革に期待する

4月4日、東京証券取引所は60年ぶりに市場を再編、新たな上場区分による取引をスタートさせた。世界の証券取引所を時価総額で比較すると、東京はニューヨーク、ナスダック、ユーロネクスト、上海に次ぐ世界第5位、しかしながら、ニューヨークの時価総額は東京の4.5倍、ナスダックは4倍と大きく水を開けられており、売買代金でも遥かに及ばない。国際競争力の強化は急務だ。
新区分の銘柄イメージは「プライム」が機関投資家向けのグローバル企業、「スタンダード」は内需型の優良企業、「グロース」は高い成長性を期待できる新興企業。東京市場の魅力を高め、海外勢の資金を呼び込むためにも最上位「プライム」の差別化が期待された。

しかしながら、東証旧1部上場企業2177社のうち1839社がプライムに移行、結果的にこれまでと代わり映えのしない銘柄構成となった。そもそも流通株式数2万単位以上、流通比率35%以上、時価総額100億円以上といった「プライム」の基準自体決してハードルが高いとは言えないが、その基準すら満たさない295社に経過措置が適用されるなど、“改革” の中途半端さは否めない。

せめて、経過措置には “期限” があって然るべきであるが、東証は「上場会社が、選択先の市場区分の上場維持基準を充たしていない場合、上場維持基準の適合に向けた計画及びその進捗状況を提出し、改善に向けた取組を図っていただくことで、当分の間、経過措置として緩和された上場維持基準を適用します」(日本取引所グループHPより)と言うに止まる。

萩生田経済産業大臣は3日のNHK「日曜討論」で「過去を振り返って、イノベーションは起きなかった。日本経済が成長出来なかったのはそのためである」との認識を示した。つまり、異次元緩和による円安誘導によって現出された株高は “成長” につながらなかった、ということだ。
世界の投資家の目を東京に向けさせるためにも市場改革は不可欠だ。今回の再編はその第一歩である。しかし、彼らの関心事は市場区分ごとの上場会社の数ではない。調達した資金を持続的に成長投資に振り向け、成果を社会に還元出来るガバナンスの高い企業の多寡である。問われているのは企業のイノベーション力であり、そうした流れを作り出し、投資家とつなぐための質的な改革を進めて欲しい。

2022 / 04 / 01
今週の“ひらめき”視点
日野自動車、データ不正。業界は品質に対して誠実であれ

国土交通省からエンジン4機種の形式指定の取り消しを通告されていた日野自動車は、25日、「意見なし」の陳述書を提出、道路運送車両法の施行以来はじめてとなる形式指定取消の行政処分が確定した。
この決定を踏まえ同社は2022年3月期の業績予想を修正、当期最終損益を前回予想の150億円の黒字から540億円の赤字に下方修正した。

日野自動車によると2018年に北米向けエンジンの認証手続きに不備が発覚、これを受けて総点検を実施したところ国内向けエンジンの排出ガスの性能試験や燃費性能の測定において意図的な不正行為が確認された。
2016年、三菱自動車で燃費測定におけるデータ改ざんが発覚、国土交通省は全メーカーに点検を指示、結果、スズキでも不正が確認された。この時、日野自動車は「不正なし」との報告を国土交通省にあげている。問題の一端はここにある。要するに甘い点検でお茶を濁した、言い換えれば、品質責任そのものを舐めていたと言うことだ。

もちろん、そもそもの根本は環境性能における技術力であるが、同時に「検査」という工程を常に低位にみてきた業界全体の体質を指摘できよう。
日産自動車、スバル、マツダでも検査不正はあった。2021年7月にはトヨタ系ディーラーでもデータ不正が見つかっている。日野自動車では2021年3月までエンジンの開発と認証が同じ部門に属していた。組織は経営の意志そのものである。まさに経営陣が検査や認証を軽んじてきたことの証左である。

今回の問題は北米向けエンジンを担当する社員の気づきが発端になったとのことである。現場の声が総点検につながったことはせめてもの救いである。この6月1日には改正公益通報者保護法が施行される。内部公益通報対応業務担当の独立性の確保、通報者を特定する行為の禁止、通報者の範囲を役員および退職後1年内の退職者へ拡張させる、といったことが常時雇用者300人を超える会社に義務づけられる。法令への対応は言うまでもない。しかし、品質に対する誠実さを役員、社員一人一人が取り戻すことこそ再発防止のスタートラインであり、かつ、技術の底上げをはかるための必須条件である。日野自動車、そして、業界はあらためて原点に立ち返り、再発防止に取り組んで欲しい。

2022 / 03 / 25
今週の“ひらめき”視点
サイバー攻撃のリスク高まる。社会全体でセキュリティレベルの向上を

3月22日、政府のサイバーセキュリティ戦略本部 重要インフラ専門調査会は第28回会合を開催、「重要インフラのサイバーセキュリティに係る行動計画(案)」について討議がなされた。行動計画は5年ぶりの抜本改定、経済安全保障の観点から企業に対して高度な組織的対応を求めることになる。

2021年5月、米国最大の石油パイプラインがサイバー攻撃によって寸断されたことは記憶に新しい。国内では3月1日、トヨタの仕入れ先部品メーカー「小島プレス工業」への攻撃によりトヨタの国内14工場の全28ラインが止まった。
内閣サイバーセキュリティセンターは経済産業省、金融庁、警察庁など6省庁との連名でただちに “注意喚起” を通達、「中小企業、取引先等、サプライチェーン全体を俯瞰し、発生するリスクを自身でコントロールできるよう適切な対策の実施」を求めた。そう、トヨタ本体ではなくサプライチェーンの一画に対する攻撃の波及効果は絶大だった、ということだ。

供給網全体がITでつながっている以上、リスクはどこにでもある。一箇所でも脆弱さが残っていれば供給網全体がリスクに晒される。とは言え、大手メーカーが取引先のその先の下請企業を含む供給網の全体像を把握出来ているかと言えば、そうではないのが現実だ。加えて、供給網の末端にある中小企業のITリテラシーは決して高くないだろうし、そもそも独自に対策を講じるための財務上の余力は乏しい。

供給網全体のリスクを鑑みれば、供給網の起点となる大手メーカーのセキュリティシステムに供給網全体を組み入れることが有効であろう。ただ、その場合、供給網全体が固定化するリスクを孕む。それは実質的な参入障壁にもなり得るし、中小下請事業者に対する優越的立場がより強化される懸念も生じる。

とは言え、サイバー攻撃は止まない。インフラや政府機関はもちろん、自動車、半導体、防衛産業から食品業界やアニメ制作会社に至るまでターゲットは広がる。海外現地法人やその取引先も狙われる。攻撃する側も単なる愉快犯からプロの犯罪集団や国家が支援する組織まで多様だ。あらゆるモノがインターネットにつながる社会である以上、サイバー攻撃によるリスクは避けられない。ハード、ソフト両面における中小企業支援も含め、社会全体でサイバーセキュリティのコストを受け止める必要がある。

2022 / 03 / 18
今週の“ひらめき”視点
インフレ抑制か景気優先か。ロシアの国際社会からの離反、影響拡大

3月10日、日本銀行は企業物価指数の2月速報を公表した。国内企業物価指数は前年比+9.3%、41年ぶりの高水準だ。主要因は輸入品の高騰である。2月の輸入物価指数は円ベースで前年比+34%、品目別でみるとエネルギー、木材、食品関連がそれぞれ+84.8%、+68%、+26.2%と突出して高い。もちろん、一時的に118円台をつけた5年ぶりの円安の影響も大きい。しかし、輸入物価指数は契約通貨ベースでも前年比+25.7%となっており、供給不足に対する懸念が急速に顕在化しつつある。

言うまでもなくウクライナを巡る緊張の高まりと、2月24日に始まったロシアによる軍事侵攻が背景にある。新型コロナウイルスによって閉ざされた世界はようやく動き出しつつあった。しかし、今度は “戦争” がグローバル経済の未来に対するイニシアティブを奪うこととなった。事態の行方が見えない中、各国は “それ以前への回帰はない” ことを前提とした財政、金融、産業政策の検討を迫られる。急務は顕在化しつつあるインフレ対策だ。

欧州中央銀行(ECB)は2022年の物価上昇率について「最悪の場合、+7.1%になる」との見通しを発表、これを受けてラガルド総裁は「想定外の物価上昇」に対応すべく量的緩和の終了を表明した。米国もゼロ金利解除に動く。コロナ禍からの回復に伴う需要増を背景に2月のインフレ率は7.9%と40年ぶりの高い伸びを記録、連邦準備制度理事会(FRB)は「景気回復は力強い」と判断、高インフレを抑えるべく0.25%の利上げを実施する方針だ。
一方、日本銀行は、国内景気の下支えを優先、金融緩和策を維持する。しかし、米ドルとの金利差の拡大はもう一段の円安を招く可能性もあり、急激な物価高が企業収益や家計を圧迫する可能性も大きい。いずれにせよ情勢は流動的であり、各国の金融当局には時局にあわせた柔軟な対応を期待したい。

それにしても、である。ロシアは国内事業の停止やロシアからの撤退を決定した外資企業の資産を接収し、政府管理下におく法律を準備しているという。政府を批判した外国人経営者は逮捕も辞さないとの報道もある。外貨建て債務の返済をルーブルで支払う大統領令は既に署名済だ。海外企業からリースしている航空機を返還せずとも良いとする法律も検討されているという。まったく呆れる限りだ。これではグローバル経済への復帰はあり得ない。はたして強権的な専制主義国家を集めた新たな経済圏を形成し、その盟主にでもなるつもりか。国連のロシア非難決議に反対した国はベラルーシ、北朝鮮、エルトリア、シリアだ。これでは永遠に豊かにはなれまい。ロシア帝国再興の野望は既に破綻している。

2022 / 03 / 11
今週の“ひらめき”視点
東日本大震災から11年、被災の記憶と経験を承継し世界に貢献を

3月8日、経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会は、新たな産業政策として「災害に強いレジリエンス社会の実現」を提案した。具体的には、「2010年から2019年に発生した気象関連災害による経済損失の総額は1.6兆ドル、発展途上国の潜在市場は2050年時点で年間2800-5000億ドルと推定される(国連環境計画)。したがって、災害対策をコストとしてではなくグローバルな事業創出の機会と捉え、官による投資から防災・減災の市場化・民による投資への流れを産業政策として検討すべき」と提言している。

会議では気象観測、防災情報システム、水質浄化、土壌対策などの分野で世界に貢献する大手企業やスタートアップの事例が紹介された。実際、自然災害が絶えない日本ならではの知見に裏付けされた技術のレベルは高く、世界市場における日系企業のポテンシャルは大きい。
民間資金を活用して社会課題の解決を目指すソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)の実績は2021年時点で200件、総額431百万ドル、まだまだ十分とは言えないが民間資金を活用した事業機会も徐々に増えつつある。SDGs、ESG投資への流れも追い風である。この分野における日系企業の貢献に期待したい。

さて、明日は3月11日、東日本大震災から11年が経った。防潮堤の整備や交通インフラの復旧などハード面における事業は “原発” を除けばほぼ完了した。一方、未だに3万8千人を越える避難者がいる。風評被害も残る。補償を巡る分断も深刻だ。災害関連死も後を絶たない。地域コミュニティの再建も十分ではない。心のケアも課題だ。つまり、ソフト面においては依然として膨大な課題が積み残されている。ただ、それゆえに、こうした問題に対する取り組みのプロセスと成果は新たな知見になり得る。被災地そして被災者が抱えてきた課題を丁寧に記録し、解決策を議論し、世界と共有すること、これこそがレジリエンス、すなわち世界の復元と回復に対する最大の貢献となる。

政府主催の追悼式典は「10年目」の昨年で終わった。社会全体で共有してきた「記憶」の風化は否応なく進む。しかし、それを継承することこそが最大の防災対策であることは言うまでもない。
過去の自然災害被害を伝える “自然災害伝承碑” は全国に1299基もある。国土地理院は
382市区町村の伝承碑をホームページで公開している。是非一度見ていただきたい。リスクはどこにでもあり、それはいつでも起こり得るということが実感できる。災害を自分事として考え続けること、その記憶を未来へつなぐこと、それが3.11の時代を生きる私たち世代の責任である。

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