
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻がはじまってから1週間、停戦の兆しはない。抗戦を続けるウクライナ人とロシア軍兵士の犠牲が積み上がる。ロシア国内では反政府を叫ぶ市民が拘束されてゆく。
30年前、ロシアは民主制に移行したはずだった。しかし、エリツィン以後の22年間、国家権力は “大ロシアの再興” を信望する一人の人物に独占され続けた。問題は権力の集中と長期化だ。自らの在任期間中にその合法化を試みるトップは危いということだ。洋の東西を問わない。彼らに共通するのは強権的であり、独善的であり、排他的であり、自己陶酔型の気質である。そして、その周囲には権力にへつらい、利得におもねり、異論を封じ、社会の分断を煽り立てる連中がいる。
昨年12月、筆者はスウェーデンに本部を置くV-Dem研究所の調査結果を引用し、民主主義の後退と専制主義の伸長に対する懸念を記した。
同研究所によると民主国家の専制化は、①選挙で合法的に政権をとる、②メディアや言論を統制し、社会の分断をはかる、③選挙そのものをコントロールする、というプロセスで進行するという。はたしてこの通りの国もある。暴力で③を達成する国もある。もとより③が実現している国もある。もちろん、このプロセスに迷い込まない国もある。
今、我々はこの観点からもう一度、世界を見渡し、“自由” に対するリスクと向き合う必要がある。要するに、勇ましい言葉で自らの正義と歴史の大義を叫ぶ連中には気をつけろ、ということだ。

日本郵船、商船三井、川崎汽船、海運大手3社が2022年3月期の決算見通しを上方修正した。各社の連結最終利益は日本郵船が前期比568%増、商船三井が600%増、川崎汽船が378%増、3社合計は前期比6倍、2兆800億円に達する。利益を押し上げたのは2017年に3社のコンテナ事業を統合した持分法適用会社「オーシャン・ネットワーク・エクスプレス」社、同社は1.7兆円の最終利益を見込む。
要因はコンテナ輸送の運賃高騰である。中国は世界のコンテナ生産の9割を占めるが、米中対立と新型コロナ感染拡大を背景に2019年から2020年前半にかけてコンテナの生産量を激減させた。そうした中、世界に先駆けてコロナ禍から立ち直ったその中国が輸出入を急回復するとともに米欧の巣ごもり需要が拡大、アジア発欧米向けの輸出が急増した。加えて、コンテナ船を受入れる港湾、とりわけ、米国西海岸の港湾施設がロックダウンや感染者増による人手不足で機能不全に陥ったことがコンテナ輸送の逼迫に拍車をかけた。
そもそもの資源高に加えて、物流費の高騰とモノの流れの目詰まりはコロナ禍からの回復を目指す世界経済にとって足かせだ。日本の場合、これに円安が加わる。カップラーメンから高級輸入車まで影響は広範だ。
もちろん、無策であったわけではない。国土交通省は昨年4月、空コンテナの早期返却、臨時船の運航などコンテナの効率的利用と輸送スペースの確保を業界に働きかけた。荷主、海運、船主もそれぞれの立場で対策を講じてきた。しかし、コンテナのスポット運賃は依然として高止まりしており、世界的なコンテナ不足は当面続くものと思われる。
と、ここまで書いたところで、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始した、とのニュースが入ってきた。
「コンテナ不足問題に対する政府における取組」(令和3年4月23日)と題された国土交通省の文書には、海上輸送から陸送への対応策として “シベリア鉄道の利用” に言及した荷主企業があったと記されている。しかし、その選択肢はなくなった。ロシアへの経済制裁はこれまでと異なる次元で発令されるだろう。モノの流れそのものの前提が崩れる。中国の動向も不透明だ。もはや平時のサプライチェーンの問題ではない。新たな条件のもとで、新たな策を主体的かつ戦略的に準備する必要がある。とは言え、まずは軍事侵攻の即時停止、ウクライナの主権回復、市民生活の正常化を願う。

国内乗用車メーカー7社の2021年4-12月決算が出揃った。マツダ、ホンダ、日産自動車、三菱自動車の4社が2022年3月期の営業利益見通しを上方修正、トヨタ自動車は従来予想を維持したが4-12月期の営業利益は過去最高を更新しており、期首計画の達成はほぼ確実だ。半導体不足、材料費高騰、国際物流網の停滞、コロナ禍の長期化など自動車業界は依然として厳しい事業環境の中にあるが、ここ数年各社が取り組んできた事業構造改革の成果を円安が一段押し上げた格好だ。
こうした中、部品大手マレリホールディングス(旧カルソニックカンセイ)が金融支援の要請を行った。負債総額は1兆円、債務免除や返済猶予について裁判所を介さず債権者と交渉する “事業再生ADR” の申請が検討されているという。
背景にはマニエッティ・マレリ社(伊)との経営統合効果の遅れやEV化の急速な進展といった構造要因がある。とは言え、上記した “厳しい事業環境” がそもそも脆弱だった財務体質をもう一段悪化させたと言えよう。自動車メーカー各社は断続的に生産調整を実施し、一方でこれを挽回するための増産計画も打ち出してきた。結果、マレリの生産計画は混乱、業績回復は遅れ、資金繰りが逼迫したものと思われる。
生産調整の影響はマレリだけの問題ではない。下請部品メーカーはいずれも生産計画が見通せない中、増産要請への対応も進めていたはずだ。材料費の高騰に加えて、生産効率の低下が経営を圧迫する。
しかしながら、高騰した材料費の価格転嫁や過剰在庫の費用負担に大きな声を挙げられる下請会社は皆無であり、多くが我慢を強いられている状況であろう。生産調整、資材高騰の長期化は、下請取引の連鎖で構成される業界の負の側面を一挙に露呈させる可能性もある。
公正取引委員会が昨年6月に発表した2020年度の下請法に関する調査によると、下請法違反被疑事件8393件のうち、勧告や指導などの措置が講じられた件数は8111件、これは下請法が施行された1956年以来の最多件数である。業種別では製造業が4割と突出、支払遅延、減額、買い叩きで84.5%を占める。
2月10日、経済産業省は、価格転嫁の促進、下請取引の監督強化、知財Gメンの新設、約束手形の廃止に向けた要請の発出など、取引の適正化に向けての強化策を発表した。サプライチェーン全体の付加価値向上は日本経済全体の底上げをはかるうえでの一丁目一番地だ。リスクと利益の適正な配分を前提としたフェアな関係構築に向けて、“親事業者” 側の踏み込んだ対応を望む。

熊本県産アサリの産地偽装の波紋が広がる。既にアサリ以外の水産物への影響も出ているという。偽装や不正表示は過去にもあった。とは言え、今回の “業界ぐるみ” と言わざるを得ない偽装の根の深さにはあらためて驚かされた。
農林水産省は2021年10-12月に独自に調査を実施、国産アサリの実に8割、2485トンが熊本県産と表示されて販売されており、その97%に外国産が混入している可能性があると発表した。推計値とは言え、この3カ月間の熊本県産アサリの販売量はおととし1年間の県産漁獲量の118倍という非現実的な数字である。つまり、どこかで熊本県産が大量生産されているということだ。漁業者、漁業協同組合、卸、小売りのプロが気付かないはずがない。
食品表示法は原産国表示を原則とする。しかし、2か所以上で生育した場合は期間が長い方を原産地として表示できるという。アサリの生育期間は1年半、とすれば中国からの輸入アサリであっても、その半分を国内の漁場で畜養すれば国産だ。しかし、それでは利益が小さい。結果、期間を短縮する、あるいは畜養をスルーする業者が現れる。偽装の内訳は前者が2割、後者が8割との指摘もある。
問題の背景には国産アサリの絶対的な減少がある。1970年代、国産の4割、6万トンを越える水揚げを誇った熊本であるが2020年は21トンに止まった。国産全体でもピークの3%にも満たない。乱獲、汚染、埋め立て、気候変動など要因は複合的だ。ここが偽装の原点である。少しでも高く売りたいアサリ業者、安く仕入れてたくさん売りたい小売業者、安さに国産という安心を求める消費者、言わば全員が偽装の当事者であり、パートナーである。結果、本物の国産が偽装の中に埋もれる。つまり、まっとうな業者が正当な対価を受けられない、ということだ。
2021年、農産品の輸出がはじめて1兆円を越えた。“おいしくて安心安全” がジャパン・ブランドの訴求力である。内需の成長に限界がある中、輸出の振興は農林水産業の経営基盤強化に不可欠だ。国は2025年に2兆円、2030年に5兆円の目標を掲げる。そうした中で発覚した偽装問題だ。ジャパン・ブランドへの影響を最小化するためにも偽装の常態化を容認してきた業界体質の早急な改善が求められる。そして、そのためには消費者自身もまた「国産ゆえの値上げ」と「安いゆえの品質」を当たり前のこととして受け入れる必要がある。日本人自身が価値を認めないジャパン・ブランドに高い値はつかないのだから。

2月1日、セブン&アイ・ホールディングスはそごう・西武売却の報道について「あらゆる可能性を排除せず検討している。しかし、決定事項でない」旨、リリースした。とは言え、コンビニ事業への集中を求める所謂 “モノ言う株主” からの圧力が強まる中、再建の見通しが立たない百貨店事業の切り離しは必然の流れである。投資ファンドを軸とした譲渡手続の詰めは恐らく最終段階にあるものと推察される。
2021年、コロナ禍2年目の全国百貨店の売上高は4兆円強、長期間の営業自粛を強いられた前年を上回ったものの、コロナ前と比較すると依然2割減の水準にとどまる。そもそもかつて12兆円あった市場が1/3の規模へと縮小した要因は、テクノロジーの進化を背景とした消費行動の急激な変化と主要顧客であった中間層の喪失である。つまり、変化は構造的であって、コロナ禍はそのスピードを加速させたに過ぎない。
2006年、そごう・西武の買収を仕掛けたのは鈴木敏文氏(当時会長)、狙いは「社会階層によって小売業態が細分化されている米国市場と異なり、日本は同じ一人の消費者がシーンに応じてこだわり消費と日常消費を使い分ける。ゆえに顧客情報を軸とした業態間シナジーは大きく、リアルとネットを統合した新しいモデルが開発できる」だった。しかし、リアル、ネットいずれにおいてもスーパー、コンビニ、百貨店の戦略的シナジーは期待したレベルには届かず、一方でPB「セブンプレミアム」の百貨店への展開などセブン流の効率化が百貨店としての魅力を削いでいった。
それでも地方店の閉鎖、SC型ストアへの業態転換、人員削減など、市場環境の変化になんとか抗ってきた。Z世代の三和沙友里氏プロデュースによる「服を売らないアパレル」のポップアップショップの開催、思想と社会性のある事業づくりを掲げる辻愛沙子氏をクリエイティブディレクターに起用したメディア型OMO※ストアの開発など、“輝き” の片鱗もかろうじて顕在だ。
そごう・西武の今年のコーポレートメッセージは「わたしは、私」、「なくてもいいと言われるものと、私の心は生きてゆく」だ。モノ言う株主、親会社から “なくてもいい” を突きつけられた彼らであるが消費者、そして、新たな株主から “なくては困る” 存在であり続けることが出来るか、まさに正念場だ。
※OMOストア:Online to Offlineストアの略、店頭とECをシームレスに連携させたコンセプト・顧客・商品・情報が統一されたストア形態

日本財団が進めてきた無人運行船の開発実証プロジェクト「MEGURI2040」に2つの大きな成果があった。1月11日、丸紅、トライアングル、三井E&S造船、横須賀市をメンバーとするコンソーシアムは横須賀の猿島で小型観光船による実証実験を実施、離桟から着桟を含む1.7㎞の航路で無人操船を成功させた。その6日後、17日には日本財団、三菱造船、新日本海フェリーによるコンソーシアムが世界初の大型フェリーによる無人運行実験を実施、こちらも成功した。
後者の実験に使用された船は新日本海フェリーの「それいゆ」、総トン数15,515トン、全長222.5mの大型船、就航は2019年、設計段階から将来の無人航行を想定した最新鋭の “スマートフェリー” である。実験は新門司港から伊予灘沖で約7時間かけて実施、一般の船舶や漁船との衝突を回避しながら最速26ノットという高速での自動操船に成功した。また、回頭や後進など、高度な操船技術が要求される自動離着岸の実験も成功させている。
国内旅客船の船員数は2000年代初頭からこの20年間で1万人から7000人へ減少している(国土交通省)。背景には船員の高齢化、離島の過疎化に伴う航路の採算性悪化がある。「MEGURI2040」は2040年時点に国内船籍の50%を無人運行船に置き換えることを目標としており、内航船舶関連事業者のみならずICT、AI業界などへの波及効果も大きい。経済効果は1兆円、成長産業として日本が世界で戦える技術分野の一つである。
さて、2020年7月、商船三井が傭船した「WAKASHIO」がモーリシャス沖で座礁、大量の重油が流出した事故はまだ記憶に新しい。原因は、船員が携帯電話を使うために島に接近したため、と報道された。海難事故の8割がヒューマンエラーと言われる。完全な無人航行の実現には時間を要するだろう。しかしながら、船の安全航行システムをクルマの運転支援システムレベルに引き上げることは可能であろう。技術面での実証実験と合わせて、規格、法体系、費用負担の在り方などシステムの段階的な導入に向けて国際的なレギュレーションづくりを主導して欲しい。
余談になるが、その「WAKASHIO」を所有する長鋪汽船が1月21日付で一通のリリースを発表した。タイトルは “当社管理船の座礁および油濁発生の件 第14報”、内容は「2022年1月15日、船骸の撤去がすべて完了した。引き続きオイルフェンスの撤去作業を進める。今後も現地当局と連携し、環境の修復に努める」とのことである。私見ながらここまで報じてはじめて本当の意味での報道ではないか。危機に際してこそ経営者の資質が問われる。我々はそこに企業の真価を見出したい。