16日、内閣府は2021年4-6月期の国内総生産が2四半期ぶりに前年同期比プラスに転じたと発表した。成長率は実質プラス0.3%、民間企業の設備投資プラス1.7%がこれを牽引した。脱炭素、デジタル化に向けての積極的な投資がこれを押し上げた。
一方、個人消費に勢いはない。確かに家計消費支出も前年同期比0.8%のプラスとなった。しかし、そもそも比較対象が“自粛”にそれなりの効力があった1回目の緊急事態宣言期間であることを鑑みると、“成長” を実感するには心もとない。非耐久財についてはその前年同期に対して0.3%のマイナスである。
背景には、効果と出口が見えない中で長期化する “自粛” による社会の疲弊がある。2021年4-6月期の雇用者報酬は同1-3月期に比べ1.4%のマイナスだ(国民経済計算、内閣府)。事業所規模5人以上の事業所の6月の賃金は前年同月比マイナス0.1%、賞与は同マイナス2.3%、とりわけ、教育、生活サービス、飲食、運輸、建設、医療、福祉業界のマイナス幅が大きい(毎月勤労統計調査、厚生労働省)。4-6月期の失業者は平均233万人、前年同期比109%、うち失業期間が1年を越える失業者は74万人、同135%、失業の長期化が進む(労働力調査、総務省)。
全国の新規感染者、重症者の数が日々「最多更新」される中、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の対象地域が拡大され、期間の延長が決定された。
個人消費への影響は避けられない。しかしながら、損失額の推定は困難だ。“自粛” や “協力” は政策への信頼があってはじめて有効となる。果てしない迷走とダブルスタンダードの中、既に信頼は失われた。施策の有効性や実効性が見えなければ試算条件は固まらない。自粛疲れへの反動もあるだろう。実際、緊急事態宣言による経済損失は回を追うごとに小さくなっている。一方、爆発的感染拡大(オーバーシュート)という危機を前に、企業も個人も自衛策を強化する。個人消費は、1回目の緊急事態宣言を越える規模で縮小する可能性もある。
東京都の自宅療養者は2万人を越えた。実質的な医療崩壊だ。それゆえの不幸なニュースもあった。専門家からは「制御不能、災害レベル」との声があがる。一方、24日はパラリンピックの開会式だ。大会期間中は1日あたり500人を越える医療スタッフが配置され、選手と関係者向けに3,800部屋、1万8千床のベッドが用意されるという。
5月11日、宝島社は竹槍を構えた戦時下の女学生の画像を背景に「真面目に対応している一人ひとりが先の見えない不安に押しつぶされそうになり、疲弊するばかりです」、「このままじゃ、政治に殺される」との企業広告を朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞に打った。残念ながらそれが現実のものとなりつつある。パラリンピアンに罪はない。これは政治の問題である。