21日、台湾政府は、香港における出先機関「台北経済文化事務所」への香港政府による一方的な措置に対して非難声明を発表した。香港政府は同事務所職員7人の査証更新を否認、残る1人の査証も7月末で失効するため、事務所は実質的に閉鎖に追い込まれる可能性が高い。一方、香港政府が台湾に設置した「香港経済貿易文化事務所」の職員は既に全員が香港へ帰任しており、よって両政府を結ぶ公式チャネルは完全に閉じられることになる。
香港側は今回の措置について「台湾が香港の安定と繁栄を脅かす勢力の移住を支援したため」とするが、加えて、中断していた台湾と米国の「貿易と投資に関する枠組協定」協議の再開を牽制する狙いもあるだろう。中国当局による圧力に反発する蔡政権であるが中国への経済的依存度はむしろ高まっている。米国向け輸出は依然として中国向けの1/3程度であり、その意味で香港との断絶は台湾に対する十分な警告となり得る。
一方、その香港であるが、香港国家安全維持法の施行から1年、「一国二制度」は事実上跡形もなくなった。言論の自由を求めた多くの若者は国安法違反容疑で逮捕、拘束された。選挙制度も変わった。立候補に際しては“愛国者”であることが事前審査で問われる。映画やwebサイトの検閲も進む。民主派最後の砦「りんご日報」も発刊停止となった。創業者をはじめ幹部社員は既に逮捕、資産は凍結され、新規の融資も封じられ、24日、言論活動を停止した。
当局によるメッセージはシンプルだ。「これまで通りの安定と繁栄を謳歌してくれ。ただし、政権批判は許さない」ということだ。異論を排し、民意を侮り、政権への忖度、同調、服従を要求する息苦しさのもとでの繁栄を是とするのか。いずれそうした状況が香港の日常になるのか。
翻って、果たしてこれは彼らの体制にのみ固有のものか。出所した周庭氏がインスタグラムに投稿した真っ黒な画面、虚偽説明の果てに公開された“赤木ファイル”の黒塗りの“黒”、抵抗と不健全さに通底するものの本質は同じである。