
11月16日、ウォルマート、KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)、楽天の3社はウォルマートが保有する西友株式の譲渡について合意、KKRが65%、楽天は新たに設立する子会社「楽天DXソリューション(仮)」を通じて20%をそれぞれ取得、ウォルマートが15%を継続保有する、と発表した。
会見ではウォルマート国際部門CEOのジュディス・マッキーナ氏が「ウォルマートは引き続き少数株主として西友を支える」と表明したが、2002年から18年を費やした日本市場からの事実上の撤退である。
西友はプライベート・ブランド「みなさまのお墨付き」シリーズが好調で、また、2018年には楽天と提携して「楽天西友ネットスーパー」を立ち上げるなど、EDLPプラスαの独自戦略を模索してきた。こうした流れの中、昨年3月、ベルギーの大手流通グループで欧米事業を統括してきたリオネル・デスクリー氏が新CEOに就任、氏は約3ヵ月かけて全国の店舗を訪問、従業員や取引先と直接対話を重ねた。そして、6月に開催された従業員との対話集会で「株式の再上場を目指す」と表明、集会には上述したマッキーナ氏も同席、「西友の上場はウォルマートの国際戦略に合致する」と全面支援を約束した。
この対話集会では、カスタマーバリュー・プロポジション(CVP)の向上、生鮮・惣菜部門の強化、オムニチャネル戦略の加速、EDLP(Everyday Low Price)の推進を重点戦略とすることが発表されたが、今回の株式譲渡会見で表明された成長戦略もこの延長線上にある。つまり、これらはKKRと楽天が引き継ぐことになるわけで、また、KKRにとってのエグジットも “上場” であるはずだ。つまり、自身の撤退を含めウォルマートにとってはまさに筋書きどおりであり、そして、この判断を最終的に裏付けたのは、全国の売場を丁寧に見て回った他ならぬデスクリー氏であったかもしれない。
いずれにせよ彼が見たのは、“地域密着型” であることがKFS(Key Success Factor)となる日本の食品スーパー市場でウォルマートが投資パフォーマンスを上げてゆくことの難しさであったろう。もちろん、日本でもイオンやPPIH、大手ドラッグなど大資本による市場再編が進む。しかし、その一方で愛媛のフジによる広島のニチエー買収、大阪のコノミヤによる奈良のスーパーおくやまの子会社化など、地場の中堅小売業もそれぞれがもう一段の地域深耕と商圏の拡大をはかる。
食品スーパーの成長条件はデジタル化とリアル店舗のシナジーにある。西友のDX化はKKRと楽天主導のもと加速するはずだ。課題は店舗だ。とりわけ、郊外、地方において地域密着であることの “非効率” をどこまで店頭の魅力に転化できるか。ここが鍵である。

10月13日、国際エネルギー機関(IEA)は「World Energy Outlook 2020」をリリース、2050年にゼロエミッションを達成するための道筋を提示した。ハードルは高い。しかし、欧州は2050年を、中国も2060年を目標に動き出しており、日本も2050年の達成を表明した。米国はパリ協定への復帰を公約したバイデン氏が政権につく。
脱炭素の流れはもう一段加速するだろう。とりわけ、産業界はイノベーションの余地が大きい洋上風力、水素、次世代電池、カーボンリサイクル、送配電制御システムへの投資を強化する。3,500兆円を越える世界のESG投資がこれを後押しする。
一方、日本の気候や国土の在り方を鑑みると、“水力” というシンプルなエネルギー源にもう一度光を当てるべきではないか。
先般、筆者は特定非営利活動法人「日本水フォーラム」の竹村公太郎代表理事にお会いする機会があった。氏は国土交通省(旧建設省)で開発課長、河川局長を歴任したダム行政のプロである。
竹村氏は言う。「日本は水というエネルギー資源を有する。しかし、63年前の法律によってその潜在能力が発揮できていない(特定多目的ダム法)。新設の必要はない。既存ダムの運用ルールを変更し、10%の嵩上げをするなどわずかな追加投資で電力需要の20%を確保できる。これは年間2兆円規模の電力に相当する。ダムは、かつてそこにあった人々の暮らしを犠牲にして建設された国家資本である。しかも、半永久的に壊れない。これを“未来の国益”へつなぐ責任がある」と。
今年に入って国土交通省は、貯水量や発電量の柔軟な振替が可能となるようダムの運用方法の見直しに着手した。純国産、低炭素、コストフリーで、日本全国に分散した、永遠のエネルギー資源の活用に向けての突破口になるかもしれない。竹村氏の夢に向けて一歩前進だ。

11月3日、中国IT大手アリババ傘下の「アント・グループ」は上海、香港市場への上場を延期すると発表した。“調達額350億ドル、世界最大のIPO” と喧伝されていただけに上場予定日のわずか2日前というタイミングでの上場中止は、市場関係者や投資家を落胆させるに十分であった。
延期理由の詳細は不明であるが、その前日、中国金融当局は中国人民銀行、中国証券監督管理委員会(CSRC)を交えた合同会議にアリババ創業者のジャック・マー氏を含む経営幹部を召集、ビッグデータを活用した同社の金融サービス事業が新たな規制の対象になることを伝えたという。
アント・グループは10億人のユーザーを抱えるモバイル決済 “アリペイ” 事業で知られるが、今回、当局が注目したのは与信評価システム “芝麻信用” 事業である。これは金融機関に対して個人の信用情報を提供、借り手が支払う利息から一定の手数料を得るプラットフォーム型ビジネスで、同社のサービスを利用した貸付総額は既に2,500億ドルを越える。
当局は急速に拡大しつつあるオンライン小口融資について借入限度額を設定するなど規制強化に動いており、今回の措置は既存の金融行政の隙を突く新興企業への警告といった側面もあるだろう。
加えて、ジャック・マー氏の当局に対する批判的な言動が背景にあるとも伝えられる。10月4日、マー氏は上海で開催されたカンファレンスで王岐山国家副主席を前に「時代遅れの規制は脅威である」、「過去のルールが未来を規制してはならない」と金融取引の一切を管理下に置きたい金融行政の在り方を強く批判したという。
マー氏の発言が直接的な要因であったか、その真偽は不明である。ただ、当局にとって、規制の枠外へと自由に拡張してゆく “イノベーション” と新たな需要の創出は人々の価値観や生活様式の自律的な変化につながりかねないという意味において、金融取引以上に「やっかいな代物」であるのかもしれない。
10月29日、中国共産党の政策方針を協議する重要会議「5中全会」が閉幕した。会議では2035年にはGDPを現在の2倍にあたる200兆元へ、一人当たりGDPを先進国水準へ、といった目標を採択、その実現に向けて「イノベーション、協調、グリーン、開放、享受」という5つの発展理念が掲げられた。一方、主要目標の中には、社会主義核心価値観の普及、国家管理の効率化という言葉も並ぶ。果たしてこれらは両立できるのか。“管理されたイノベーション” “統制下の開放” といった矛盾の先にどんな未来があるのか。リスクは中国企業だけのものではない。

映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」(外崎春雄監督)が全国的な大ヒットだ。本稿の読者も多くの方が劇場に足を運ばれたものと推察する。一方、上映館も上映日も限定されるが、筆者はこの秋の見逃せない作品として「ランブル(RUMBLE)」(キャサリン・ベインブリッジ監督)をお勧めしたい。「ランブル」はネイティブアメリカン(ショーニー族)の血を引くギタリスト、リンク・レイが1958年に発表したレコードのタイトルで、歌詞のないインストルメンタルで唯一放送禁止の指定を受けた楽曲として有名である。
映画はレイを起点にジミ・ヘンドリクス(チェロキー族)、ロビー・ロバートソン(モーホーク族)、スティービー・サラス(アパッチ族)、タブー(ブラック・アイド・ピーズ、ショショニ族)をはじめとする “彼以後” と、チャーリー・パトン(チョクトー族)、ミルドレッド・ベイリー(コー・ダーリン族)に代表される “彼以前” の先住民の血を引くミュージシャンたちを通じて、ブルース、フォーク、ジャズ、ロック、ヒップポップの根底に流れる “インディアン” の歴史、文化、音楽を辿る。
かつて、先住民は黒人より下の地位に置かれ、徹底的に差別された。「先住民の男は土地の権利を主張する」、これこそ白人たちが彼らを恐れ、彼らから社会的権利を奪わざるを得なかった動機である。男はアフリカに送られ、女はアフリカから連れて来られた奴隷と結婚させられた。そして、子供たちは黒人として生きる。もちろん、音楽は封じられた。しかし、彼らの伝統に根差した鼓動と音階はアメリカ大衆音楽に大きな影響を与え、現在へ引き継がれる。
26日、ペンシルベニア州で黒人男性が白人警察官に射殺された。抗議運動が再燃し、一部は暴徒化する。米国社会における人種的、民族的な分断は未だに終わっていない。
繰り返される弾圧と抵抗、それでも少しずつ民主主義は磨かれ、浸透し、時に “原則” の一端が顔を出す。同じ日、トランプ氏が最高裁判事に指名した保守派のバレット氏が承認された。大統領選挙を直前に控えたタイミングでの任命手続きは「フェアでない」との批判も根強い。しかし、一方で米国の民主主義は、彼女をして「最高裁は独立した機関であり、判断は憲法と法律の条文に則って行う」、「特定の裁判について誰に対しても何らの約束をしていない」、「政治からも個人の指向からも離れて職務にあたる」と公聴会と宣誓式の場で言わしめる。少なくともそこには民主主義の “原則” を蔑ろにする詭弁や欺瞞を恥とする社会的なコンセンサスがある。ここに彼我の落差がある。

国内ではじめて感染者が確認されてから10ヵ月、緊急事態宣言の終結から半年が経過した。感染収束の見通しが立たない中、医療従事者への負担は依然として小さくない。しかし、初期の混乱状態は収まった。当初はまったく未知のものであった病気の特性も徐々に明らかになってきた。経済政策の効果も表れつつある。
12日に日銀が発表した「貸出・預金動向」によると都銀、地銀、第2地銀の貸出伸び率は、過去最高となった8月から鈍化、9月は前年同月比+6.2%となった。また、全国信用保証協会の保証債務残高は8月末時点で前年比169.8%、35兆723億円に達しているが、新規の保証承諾は件数、金額ともに6月をピークに減少基調にある。5月から6月にかけて前年比800%を越えた保証承諾額は、依然として高水準ではあるものの8月には同496.5%となった。7月以降、代位弁済も件数、金額ともに前年を下回る(全国信用保証協会連合会調べ)。既に一部では返済の動きも出てきており、業種による差はあるものの資金需要全体でみると総じてピークアウトしたと言える。実際、4月から9月における負債額1千万円以上の倒産件数は3,858件、前年比▲9.3%、件数は過去30年間で最少、負債総額も過去2番目の低水準となった(東京商工リサーチ調べ)。
一方、失業予備軍と言われる休業者は4月に597万人を記録、以降減少傾向にあるが8月末時点で216万人、雇用助成金特例措置の期限が12月に迫る。完全失業者は206万人、7か月連続で増加している。完全失業率は前月比+0.1ポイント、3.0%となった。7月の2次補正で2兆円を確保した家賃支援給付金も10月12日までの支給件数は58万件の申請に対して半分の30万件にとどまる。コロナ禍の長期化に伴う債務返済能力の低下も懸念される。事業意欲を喪失した経営者の休業や廃業、小規模事業者の経営の行き詰まりも深刻化しつつある。はたして、個々の中小企業や零細・個人事業者への支援は行き届いているか。
20日、国土交通省はGOTOトラベル事業について、7月の事業開始から9月末までの利用者が延べ2,518万人、割引額が1,099億円に達したと発表した。本施策に対する筆者の見解は7月30日付の本稿で述べたので繰り返さないが、税金の直接投入に対して同額の効果があるのは当然であり、そもそもこれでは公的事業の事業性評価になっていない。経済波及効果はもちろん、感染の拡散、便益の不平等性、他の政策との整合性、実施のタイミングなど負の効果も含めた検証が必要である。
今、本格的な「第2波」の到来が懸念される “冬” を前に、私たちはこの10ヵ月間の行政施策について医療と経済の両面から総合的な検証を行う必要がある。世界がはじめて経験する感染症であり、誤りや失敗があったとすれば課題や原因を明らかにしたうえで修正すれば良い。コロナ禍の長期化に備えるために、まずは政策判断の根拠と意思決定プロセスの開示、そして、科学的知見の総合化と個々の政策が与えた社会的影響の検証をお願いしたい。そうあって、はじめて政策効果の “見通し” を社会全体で共有できるはずだ。

10月14日、習近平氏は深圳経済特区成立40周年の記念式典で、「世界の産業変革を主導し、より高いレベルでの自力発展を実現する」と演説、先端IT産業の振興と社会のデジタル化を推進する方針を示した。実際、深圳ではその前日、市民5万人に1人当たり200元のデジタル人民元を配布、大規模な実証実験をスタートさせている。中国社会のデジタル化は世界の最先端にあると言え、習氏の発言は決して非現実的でものではないだろう。
しかし、それゆえに国際社会、とりわけ欧米日からの懸念が強まる。中国は既に全てのモバイル決済を一元管理する「網聯(ワンリェン)」システムを導入済だ。加えてデジタル人民元への転換が実現すれば国内の通貨取引は完全に捕捉できる。また、デジタル通貨の社会実装を世界に先駆けて実現出来れば技術や運用規定における国際標準を主導することも可能性となる。結果的に国際基軸通貨としてのドルの優位が脅かされるということだ。
深圳での実験が始まった日、G7は国際決済システムへのデジタル通貨の導入には透明性と法の支配が不可欠である旨の共同宣言を発した。“法令の恣意的な解釈変更”、“責任の所在が曖昧な意思決定プロセス”、“場当たり的で不透明な運用ルール” は、従来から指摘されてきた中国ビジネスにおけるリスクであるが、それが金融を介して国外へ拡張されることへの警戒が高まる。
6月、国連人権理事会は中国が香港に適用した「国家安全維持法」に対する賛否を問うた。反対は27ヶ国、賛成は53ヵ国、自由と民主主義を掲げる反対勢は中国を支持する側に数で圧倒された。賛成派はキューバ、北朝鮮、カンボジア、イラン、ミャンマー、サウジアラビアなど、実質的に主権が為政者に占有された国や社会的に不安定な新興国である。COVID-19をいち早く克服し、経済を回復軌道に乗せた中国はこれまで以上にそうした国々への経済的な影響力を高めるだろう。従来の色分けを越えた新たな分断が世界に拡散する可能性がある。
深圳でデジタル通貨の実験が始まった同じ13日、国連人権理事会は47理事国のうち15ヶ国の改選選挙を実施した。アジア太平洋枠で理事国に選任されたのは、香港に対する統制強化の是非が問われたその中国である。選挙結果を受けてポンペイオ米国務長官は、国連の機能不全を指摘したうえで、米国は国連以外の場で人権の普遍的価値を訴え続ける、と表明した。
翻って、日本はどうか。6月の賛否では、もちろん香港の人権、言論、自由、民主主義に対する統制に「反対」する側に立った。しかし、今、自国にあって、国による統制に対する社会的コンセンサスに内側からの綻びが生じていないか。将来にあっても、堂々と「反対」の側にあり続けるために私たち自身に問いかけたい。