10日、かんぽ生命と日本郵便は保険商品の不適切販売についてトップが謝罪、親会社の日本郵政とともに第3者委員会を設置し、実態解明をはかると発表した。一方、金融庁も不適切販売の件数が2万3,900件と膨大であること、一連の行為が保険業法に抵触する恐れもあることから行政処分の検討に入った。
従来、かんぽ生命は養老保険など貯蓄性保険を主力としてきたが、低金利による運用悪化を受け販売は低迷、2017年10月には医療特約を投入するなど商品政策の転換を本格化させる。以降、金融窓口における営業力強化、“貯蓄から資産形成へ”の促進、新規契約・新規顧客の拡大を軸に収益力の強化をはかってきた。
そうした中、販売の最前線を担う郵便局員による不正の横行が露呈した。発覚した問題の内容は、「新旧契約の重複加入による保険料の二重徴収」、「旧保険から新保険への移行に際して意図的に設けられた無保険期間」といったもの。前者は旧保険の契約期間の引き伸ばし、後者は解約から契約まで一定の間を開けると社内ルール上 “新規” 扱いとなることを利用したノルマの達成が目的である。目標未達者に対するパワハラ紛いの営業指導も日常茶飯事だったとの報道もある。過度な成果主義と過酷な販売ノルマに追い詰められた現場の疲弊が伺える。
しかし、問題の本質はユニバーサル・サービスの維持を義務付けられた低成長、低収益の郵便事業をゆうちょ銀行とかんぽ生命が支えるグループの収益構造にある。2019年3月末時点で営業中の郵便局は約2万4千局、うち、銀行代理業務は3,850局、生保募集は559局が委託契約を締結している。つまり、これらの職員たちが金融商品の販売手数料を稼ぎ出しているわけであり、言い換えれば彼らが全国郵便事業の一端を支えているということだ。職員による年賀状や “かもめーる” の自腹購入問題も記憶に新しい。現場は既に限界である。
現在、日本郵政はゆうちょ銀行株の89%、かんぽ生命株の64%を保有しているが、これをそれぞれ50%未満まで段階的に売却してゆく方針である(2019年3月期、有価証券報告書より)。保有率が 1/2を下回ると新規業務への規制が認可制から届出制に緩和される。結果、金融2社と日本郵便との関係性も自ずと変わってくるだろう。郵便事業の地域ネットワークをどう維持するのか、少なくとも日本郵便の現場が負いきれるものではない。郵政民営化から12年、日本郵便の全株式を保有する親会社日本郵政、その57%の筆頭株主である“国”の株主責任は軽くない。