
26日、G7サミットが閉会した。仏ビアリッツで開催された今回のサミットは、参加7カ国の合意を前提とする首脳宣言があらかじめ見送られる異例の展開となったが、最後の最後、マクロン大統領自らが主導し、ようやく1枚の宣言書を発表するに至った。
自由、民主主義、人権、法の支配、国際協調主義を掲げる先進7カ国が、直面する世界の課題を共有し、解決に向けて足並みを揃えるはずの会議体の機能不全はもはや明白である。そして、結束の弱体化を加速させた張本人を排除出来ないジレンマが、貿易、イラン、ウクライナ、リビア、香港について簡潔に言及した1枚のペーパーに凝縮されている。
とは言え、形式的な合意文書の作成より首脳間の議論を優先させた運営に意味がなかったわけではない。
WTO改革、デジタル化、国際法人課税、不平等との戦い、アフリカ問題など喫緊の課題が共有され、「生物多様性憲章」の承認など気候・地球環境問題においても一定の前進があった。アマゾンの森林火災消火のための緊急金融支援に合意できたことも成果の一つだ。
、、、とここまで書いたところで、当のブラジル、ボルソナ大統領がG7からの緊急支援について“植民地主義的”と反発、これを「拒否する」とのニュースが伝えられた。
世界の生物種の1割が生息し、大量の二酸化炭素を固定することで“地球の肺”と称されるアマゾンの熱帯雨林が史上最悪の規模で失われようとしている。そもそも火災がここまで深刻化した背景には森林の伐採と先住民族保護区の開発を押し進めるボルソナ氏の政策がある。環境団体はこれを“環境犯罪”と指弾、一方、ボルソナ氏は「火をつけたのは環境NGOだ」と吹聴する。言動はまさに“南米のトランプ”の名に恥じない。
“本家” トランプ氏を頂点に “分家” たちが増殖、時代の空気が彼らを勢いづかせる。その意味で私たち一人一人も共犯者である。そろそろ立ち止まり、冷静さを取り戻すべきだ。今、あらためてアメリカ先住民(オノンダーガ族)、オレン・ライオンズ氏が残した言葉を読み返したい。
「わたしたちの生き方では、政治の決め事はいつも七世代先の人々のことを念頭に置きながら行なわれる。これからやってくる人々、まだ生まれていない世代の人々が私たちよりも悪い世界で暮らしたりすることのないように心を配るのが、私たちの仕事である。」
(「それでもあなたの道を行け」、ジョセフ・ブルチャック編、中沢新一、石川雄午訳、めるくまーる社より引用)

2016年11月の公開以来、異例のロングランを記録した映画「この世界の片隅に」(原作:こうの史代、監督:片渕須直)をご覧になった方も多いだろう。この12月には新たなシーンを加えて「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」として公開される。
昨年、上記と同様の書き出しで本稿を書いた。結局、“この12月” は1年遅れての12月となったわけであるが、映画の別バージョンの公開は、被爆者の体験を綴った書籍「この世界の片隅で」(山代 巴 編、初版1965年7月、岩波新書)に再び光をあてることになるだろう。繰り返しになるが同書を再度紹介させていただく。
「今では “原爆を売りものにする” とさえいわれている被爆者の訴え、、、」と山代氏がまえがきに記した “今” とは原爆投下から20年後、すなわち、54年前の日本である。
そして、彼らの “訴え” が表面化するまでに「無視され、抑圧された長い時期があった」という。
当時、原爆の被害を訴えることは “占領政策への批判” とみなされ、そうした者は “沖縄に送られて重労働の徒役になる” との噂さえあった。広島の “個” の声は、復興を急ぐ広島の “公” によって封じられていたということだ。一方、その沖縄は、流球列島米国民政府が統治するThe Government of Ryukyu Islands(=琉球政府)であって、日本国とは切り離されていた。
8月3日、米露の中距離核戦力(INF)廃棄条約が失効した。2011年3月に発令された「原子力緊急事態宣言」は、今も解除の見通しが立たない。沖縄も基地が県民を分断し続ける。
同書の中に「ともかく問題は将来に残ります」という一節があった。新たに発生した問題も加え、残念ながらそれが現実である。
6月26日、EUのトゥスク大統領はG20大阪サミットを前に長崎と広島を訪問、「行動を起こす決意と勇気をもって欲しい。決して遅すぎることはない」と声明した。次の世代に何をつなぐのか、目先の “ディール ”とは異なる次元で世界は、そして、私たちはあらためて考える必要がある。

10月1日の消費増税までいよいよ2ヶ月となった。「再々延期論」も燻るものの実施は既に秒読み段階である。しかし、事業者側の準備は進んでいない。とりわけ、中小事業者の軽減税率対策の遅れは深刻だ。政府は複数税率に対応するレジや受発注システムの導入補助対象事業者を約30万社と想定し1,000億円を予算計上した。しかし、6月末時点での申請件数は約11万件にとどまる。一方、需要喚起策の目玉である「キャッシュレス決済のポイント還元」も目標の「100万店以上」に対して7月末時点の申請はわずかに24万件という状況だ。
準備の遅れも問題であるが、そもそも軽減税率という“ややこしさ”が事業者に与える影響は小さくない。東京商工リサーチがこの6月に行った消費増税に関する事業者調査によると、「売上の減少」に次いで「仕入先からの値上げ要請」、「会計システム変更による負担増」が懸念事項として指摘された。実際、複数税率が適用される今回の増税は品目ごとの税率仕分けなど事務作業の工数が増えるとともに、事業者間取引における転嫁拒否行為も発生し易い。
外食チェーン各社が軽減税率への方針を発表し始めた。対応は “本体価格を揃える” と “税込み価格を揃える” の二択である。後者は、つまり “本体価格の値引き” である。この場合、値引き原資のすべてを自社で吸収するのであれば問題はない。しかし、ここに “協力” という名の圧力が納入業者にかかる可能性は小さくない。
経産省の調査によると現状であっても事業者の12%が消費税を価格に転嫁できていない。理由の上位は「取引先を奪われる恐れがあるから」、「取引先に価格アップを受け入れる余裕がないと考えられるから」、そして、「立場が弱いから」である。多くの場合、明確な強要はない。そう、まさに “忖度” である。
キャッシュレス還元も問題を孕む。政府が負担する5%のポイント還元は中小事業者が対象であり、大手チェーン傘下のFC店はこれが2%となる。もちろん、チェーン本社の直営店は対象外である。しかし、これでは同一チェーン内でポイント還元率が異なることになる。よって大手チェーンは本部負担で還元率を揃える。
一方、ポイント還元の対象外である大手スーパーなどもコンビニや中小事業者との対抗上、自社負担によるポイント還元や販促キャンペーンを展開するはずだ。となると、ここでも納入業者による “自主的な営業協力”、すなわち “忖度” が発生し易い。
逆進性の緩和を目指した軽減税率や景気の腰折れ対策としてのポイント還元が原価率の不当な低下や消費税の転嫁拒否という形で事業者経営を圧迫するのであれば、結果的に本末転倒と言わざるを得ない。
経産省はこれまでも下請法の遵守、消費税の適正な価格転嫁を呼びかけ続けてきた。しかし、転嫁拒否に関する調査の着手件数は11,397件、指導・勧告件数は4,946件に達する。うち4,410件が “買い叩き” である(平成25年10月~令和元年5月末)。そして、この数字の背後には業種を問わず多くの “忖度” があるはずだ。小売や外食だけの問題ではない。消費増税が正当な価格体系、取引構造、税制度を歪めることになるとすれば、結果、成長もプライマリーバランスの黒字化もいずれも遠のく。税率、軽減税の適用範囲、加えて、益税や毎年発生する3,600億円を越える滞納の問題もある。課題は多い。法人税、所得税、そして、年金等の将来支出の問題も含め、抜本的に財政の在り方を問い直すべきであろう。現下の経済情勢はそのための立止りを促している。

23-24日、世界貿易機関(WTO)の一般理事会がジュネーブで開催された。韓国は日本の対韓輸出規制について「多国間貿易の秩序に甚大な影響を与える」と主張、2国間協議の必要性を各国に訴えた。これに対して日本側は「今回の措置はあくまでも安全保障のための管理体制の見直しであり、輸出を規制するものではない」と反論、議論は平行線を辿った。
そもそもWTOの一般理事会は加盟する164の国・地域に共通の通商課題を討議する場であり、特定の2国間紛争を調停する場ではない。出席した各国代表からは「われわれは関与しない」「議案として相応しくない」「理解に苦しむ」といった冷めた声が大勢を占めたという。日韓のあまりのヒートアップぶりに “関わりたくない” といったところだろう。
一方、日韓はそれぞれの拳を更に高く振り上げる。日本は8月中にも輸出管理上の信頼関係が崩れたことを理由に「ホワイト国」から韓国を除外する方針を固め、韓国もWTOへの提訴手続きに向けて具体的な作業に入った。
一連の経緯を鑑みれば通商上の対立の根本が「政治」にあることは明白だ。ゆえに「WTO協定」という表面上の議論において “すれ違う” のは当たり前である。議論(=感情?)の起点を “1910年” に置き続ける限り、併合した側と主権を失った側の溝は永遠に埋まらないだろう。であれば、それを向けとめ、そのうえでその克服を目指すのが大人の政治だ。
2018年、日本から韓国への輸出額は546億ドル、韓国から日本への輸入は305億ドル、渡韓した日本人は295万人、訪日韓国人は754万人、グローバルサプライチェーンにおける日韓連合の強さは言うまでもない。今更、“民” を一致するはずのない政治のレベルまで引き戻すことなど、是非とも勘弁願いたい。
瓜二つの双子の兄妹を巡るシェイクスピアの恋愛喜劇「十二夜」、書棚で埃をかぶっていた本のページを久しぶりにめくった。両国のトップに以下のセリフを贈りたい。
オリヴィア:「あなたの激しやすい感情によってではなく、あなたの深い英知によって受け止め、心を鎮めてください」(白水社、小田島雄志訳)
この場面のセリフはこう締め括られる。
オリヴィア:「今度のことも笑ってすませていただけるでしょう」(同上)。

米フェイスブックの仮想通貨「リブラ(Libra)」に対する各国当局からの警戒感が高まる。
16日は米上院銀行委員会、翌17日にはG7財務省・中央銀行総裁会議で「リブラ」の脅威について議論が交わされた。いずれの会議でも個人情報の不正利用やデータ流出が相次いだフェイスブックの管理体制が問題視されたうえで、「マネーロンダリング、個人情報保護、利用者の資産保全に対する懸念が解消されない」との認識で一致、「重大な問題があり、早急な対策を要する」と総括された。
こうした懸念や批判に対してフェイスブックは「リブラは、VISAやマスターカード、PayPal、eBay、Uberなど28社が加盟する “リブラ協会” が運営する。フェイスブックは支配的な立場にない」、「拠点はスイスに置き、スイス金融当局の監督下に入る」、「サービスの開始に際しては各国の規制に従う」、「国家や通貨当局とは競合しない」など、ガバナンスの健全性と既存の金融システムとは対立しないことを強調する。
とは言え、「リブラ」が法定通貨と連動していること、そして既に世界27億人もの潜在ユーザーを抱えていることのインパクトは大きい。IMFも既存の法定通貨圏とは異なる “超国家的なデジタル通貨圏” が生まれる可能性について警告する。将来、「リブラ」口座が決裁や送金において一定のシェアを占めてくれば自ずとEC上のモノの価値はダイレクトに「リブラ」で表現されることとなるだろう。また、リブラ協会本部は「リブラ」と交換された法定通貨を直接運用することも可能だ。結果、既存の銀行が持つ信用創造機能は低下、中央銀行の金融政策機能の適用範囲も狭まる。
米FRBパウエル議長は「リブラには最高水準の規制を」と呼びかける。テロ資金への悪用も指摘される。サイバーセキュリティにおける課題も大きい。テクノロジーの進歩とビジネスモデルの革新が一定の社会的リスクを伴うことに異論はない。ただ、旧来のシステムや現在の体制への盲信、随順はいかがであろうか。「リブラ」のリスクや規制の在り方を突き詰める必要はあろう。しかし、と同時に現在の延長線上にない通貨の未来についてもっともっと深く考えてみたい。現状にしてもたいして上手くやれているわけではないのだから。

10日、かんぽ生命と日本郵便は保険商品の不適切販売についてトップが謝罪、親会社の日本郵政とともに第3者委員会を設置し、実態解明をはかると発表した。一方、金融庁も不適切販売の件数が2万3,900件と膨大であること、一連の行為が保険業法に抵触する恐れもあることから行政処分の検討に入った。
従来、かんぽ生命は養老保険など貯蓄性保険を主力としてきたが、低金利による運用悪化を受け販売は低迷、2017年10月には医療特約を投入するなど商品政策の転換を本格化させる。以降、金融窓口における営業力強化、“貯蓄から資産形成へ”の促進、新規契約・新規顧客の拡大を軸に収益力の強化をはかってきた。
そうした中、販売の最前線を担う郵便局員による不正の横行が露呈した。発覚した問題の内容は、「新旧契約の重複加入による保険料の二重徴収」、「旧保険から新保険への移行に際して意図的に設けられた無保険期間」といったもの。前者は旧保険の契約期間の引き伸ばし、後者は解約から契約まで一定の間を開けると社内ルール上 “新規” 扱いとなることを利用したノルマの達成が目的である。目標未達者に対するパワハラ紛いの営業指導も日常茶飯事だったとの報道もある。過度な成果主義と過酷な販売ノルマに追い詰められた現場の疲弊が伺える。
しかし、問題の本質はユニバーサル・サービスの維持を義務付けられた低成長、低収益の郵便事業をゆうちょ銀行とかんぽ生命が支えるグループの収益構造にある。2019年3月末時点で営業中の郵便局は約2万4千局、うち、銀行代理業務は3,850局、生保募集は559局が委託契約を締結している。つまり、これらの職員たちが金融商品の販売手数料を稼ぎ出しているわけであり、言い換えれば彼らが全国郵便事業の一端を支えているということだ。職員による年賀状や “かもめーる” の自腹購入問題も記憶に新しい。現場は既に限界である。
現在、日本郵政はゆうちょ銀行株の89%、かんぽ生命株の64%を保有しているが、これをそれぞれ50%未満まで段階的に売却してゆく方針である(2019年3月期、有価証券報告書より)。保有率が 1/2を下回ると新規業務への規制が認可制から届出制に緩和される。結果、金融2社と日本郵便との関係性も自ずと変わってくるだろう。郵便事業の地域ネットワークをどう維持するのか、少なくとも日本郵便の現場が負いきれるものではない。郵政民営化から12年、日本郵便の全株式を保有する親会社日本郵政、その57%の筆頭株主である“国”の株主責任は軽くない。