今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2018 / 11 / 16
今週の”ひらめき”視点
スペイン、2040年までにガソリン、ディーゼル車の国内販売を禁止。脱ICE(内燃機関)は新たな成長機会を創出する

13日、スペイン政府は2040年までにガソリン、ディーゼル、ハイブリッド車の国内販売を禁止すると発表した。現在準備中のこの法案では2050年には二酸化炭素を排出するすべての乗用車の走行を禁止するとともにマドリードなど人口5万人を越える自治体には2023年までに自動車の走行を制限する特別エリアを設けることも義務付けるという。
与党が1/4議席にとどまるスペイン下院の状況を鑑みると法案の成立は不透明である。しかし、既に英仏も2040年をターゲットとするEV化政策を発表済みであり、欧州のEVシフトが加速することは間違いない。昨年時点でのスペインの乗用車登録台数は123万台、EVは4千台、充電スタンドも3千箇所に満たない。2040年に向けてスペイン市場のポテンシャルは大きい。

市場機会は“クルマ”だけではない。最大の課題は電力供給網の構築である。とは言え、運輸部門のCO2排出を抑えるために発電部門の排出量が増えるのでは本末転倒である。とすれば負荷追従能力の高い分散型電源ネットワークの構築が必要となる。
この分野では日本もノウハウがある。2013年にはスペイン南部のリゾート都市マラガ市で、スペインの政府系機関CDTIとNEDO が連携、EVと再生可能エネルギーをネットワークした“スマートコミュニティ”のモデル実験を行なった。このプロジェクトには三菱重工、三菱商事、日立製作所が参画、急速充電設備の整備やEV管理センターの構築を支援した。設備機器はもちろんオペレーション分野における日本の技術力は高い。

一方、新車販売市場が次世代パワートレインに置き換わる2040年時点においても公道を走る自動車の半数はICE(内燃機関)のままである。自ずと環境規制は更に強まっているはずだ。
排ガス浄化装置トップの日本ガイシは2020年までに自動車排ガス浄化用セラミックスの生産ラインに新たに500億円を投資、石川工場やタイ工場を拠点にインドなどアジア新興国向けに「粒子状物質除去フィルター」事業を強化する、と発表した。ガソリン、ディーゼル車向けの環境装置はまさに成長産業ということだ。
脱ICEの流れに後戻りはない。HVの営業計画も変更を余儀なくされるだろう。既存産業の多くが構造転換を強いられる。しかし、それゆえチャンスはそこにある。

2018 / 11 / 09
今週の”ひらめき”視点
「中国、輸入博」と米中間選挙。“予測不能”な世界への適応力が問われる

10月18日付けの本稿では「輸入博」の国家としての戦略性について言及したが、5日、いよいよその幕が開いた。既に多くのメディアが報じており重なるところもあるが、当社上海現地法人と日系企業に同行した当社コンサルタントからの現地報告を紹介する。


・開幕式には習近平氏が来場、「中国は今後15年間で世界から40兆ドル(4500兆円)を輸入する」と演説
・5日、6日は政府機関、国営企業をはじめ公的セクターは振替休日、市内や展示場の治安維持に動員
・10万人の来場者枠に35万人が応募、入場者数は40万人を越える
・約180の国・地域から約3600社が参加。米国からは約180社が参加
・東欧、南米、アフリカなど途上国の参加が目立った。これらの国は参加費用を免除、輸入品の97%に免税措置を適用
・日本勢は磯崎経産副大臣、石毛JETRO理事長、片山上海総領事を招いて結団式を挙行、“日中経済協力新時代”への期待を表明
・日本企業は480社以上が参加、展示面積2万㎡が割当られた


上記は現地からの速報の一部であるが、とにかく“スケールの大きさは規格外”とのことである。バイヤーである中国企業には“大手であれば10億円、20億円”といった単位で買付けノルマが課されているとも言われ、出展した企業からは想定を大きく上回る受注額に驚きの声があがっているという。
実際、中国EC大手アリババは「今後5ヵ年で2000億ドルを海外から買い付ける」とし、傘下のティーモール(天猫)やティーモールワイド(天猫国際)等のECチャネルを通じて中国の消費者に提供する、と表明した。
9月、そのアリババのジャック・マー会長は天津で開催された経済フォーラムで “米国との経済対立はトランプ以後も引き継がれる。少なくとも20年間は続くだろう”としたうえで、トランプ氏と約束した米国での100万人雇用構想を撤回するとともに、「海外事業の軸足を東南アジア、アフリカに移す」語っている。戦略のベクトルは当局の方針と完全に一致する。

6日の米中間選挙は上下院が“ねじれ”となった。今後、トランプ政権は“より強硬になる”とも“停滞する”とも言われる。いずれにせよトランプ氏の“予測不能”状態は続く。
一方、中国は “開かれた大国”づくりを加速、「一帯一路」戦略にもとづく自由貿易圏の実現を目指す。日中関係も“政熱経熱”が演出される。日系企業にとって事業機会は大きい。しかし、“経熱”が政治から完全に自立することはなく、民意に政権選択の機会はない。つまり、こちらも常に“予測不能”である。したがって、企業は米中それぞれの戦略オプションとその組み合わせによる米中関係の変化をシナリオに織り込んでおく必要がある。スピードと柔軟性、何よりもリスクを受け止め、投資を決断する独自の基準と覚悟が求められる。

2018 / 11 / 02
今週の”ひらめき”視点
「製造2025」戦略の実現へ。先端技術投資を加速する中国の可能性とリスク

27日、中国の宇宙ベンチャー「ランドスペース(藍箭航天)」が自社開発ロケット“朱雀1号”を打ち上げた。搭載した国営テレビCCTVの小型衛星の軌道投入には失敗したものの飛行は正常だったとのことであり、「創業3年、初めての打ち上げ」であることを鑑みると事業化スピードの速さに驚かされる。
31日、中国検索大手「バイドゥ(百度)」と米フォードモーターは、自動運転車の共同実験を北京市内で年内にも開始すると発表した。百度の自動運転プロジェクト「アポロ計画」にはホンダ、ヒュンダイ、BMWも参加しているが、AI分野でも百度と提携したフォードが実証実験で先行する。

先端産業の育成、内需主導、製造大国から製造強国へ、今、中国経済は構造改革の最中にあり、これを達成すべく民間活力の導入が国家戦略化される。航空宇宙分野における“軍民統合”の方針は既に2015年の「国防白書」に明記されており、民間企業であるランドスペース社の事業戦略もここが起点となる。北京における自動運転車の公道実験も規制当局の迅速な認可があってのものだ。

一方、ブレーキも突如踏まれる。シェアエコノミーのニューウェーブとして急成長し、一時は100社を越える企業が参入したシェア自転車ビジネスはオッフォとモバイクの2強を残して昨年末までにほぼすべてが倒産、廃業、撤退した。未登録業者の乱立と社会問題化した放置自転車に対して当局が一挙に規制強化をはかったことが要因である。業界のパイオニアであるオッフォの創業は2014年、事業をスタートした2015年からわずか3年、業界としての成長は終わった。
改革開放の波に乗りアジア屈指の財閥となった大連万達集団(ワンダグループ)も深刻な経営危機に直面する。当局は同社の海外投資に伴う外貨流出と過剰債務を問題視、同社グループへの融資禁止を金融機関に通達した。同社はこの1年で2兆円規模の資産を売却、中国版ハリウッドも中国版ディズニー構想も夢と消えた。

中国企業の事業展開力の驚異的な速さは、事業家たちの傑出した才能と巨大なリスクマネーによるところが大きい。しかし、いかなる企業、投資家にとっても国家の方針すなわち党の意志が絶対的な経営条件となる。13億人の内需、6%台の成長ポテンシャル、中国市場の魅力は中国固有の“異質さ”と常にトレードオフの関係にある。

2018 / 10 / 26
今週の”ひらめき”視点
外国人労働者問題、やがて来る社会の分断を避けるためのセーフティネットを

第197回臨時国会は外国人労働者の受け入れ拡大の是非が重要な論点の一つとなる。外国人労働者は昨年時点で既に雇用者の2%、128万人を越えている。高度人材の確保、人手不足の補完の両面において“開かれた雇用”への流れは必然である。一方、それに伴う新たな摩擦や差別の発生もまた必然である。

オーウェン・ジョーンズ氏の著書「チャヴ(CHAVS)」(依田卓巳訳、海と月社)に描かれた英国の現実は、外国人や移民に対する排斥がやがて社会の内側へ向かうことを示唆する。チャヴとは、向上心がなく、性にだらしなく、粗暴で、排外主義的で、アルコールや薬物に依存した白人下層階級の蔑称であり、製造業の衰退、規制緩和、民営化、緊縮財政といったサッチャー氏以降の構造改革に置き去りにされた人々を指す。
そして、彼らがそこから抜け出せない原因はまさに本人の向上心の無さ、つまり、本人の行動の結果であるとの認識が社会全体で共有されてゆく。貧困や失業といった社会問題が“自己責任”の問題に置き換わったということだ。

日本国内の就業における日本人の競争優位は日本語能力にある。しかし、その優位はバイリンガル、トリリンガルの外国人に容易に奪われるだろう。
「最下層の人々を劣等視することは、いつの時代にあっても、不平等社会を正当化するもっとも便利な手段」とジョーンズ氏は指摘する。外国人と最下層という二重の分断を避けるためにも少なくとも3世代先の日本を構想し、準備する必要がある。

2018 / 10 / 19
今週の”ひらめき”視点
中国、第1回輸入博、約束された成功ゆえの見えないリスク

9日、IMFは「世界経済見通し」を発表、世界経済の先行きに懸念を表明した。
同レポートは、米中貿易戦争による影響を5つのシナリオをもとに分析、最悪の場合、中国の成長率は1.6ポイント下振れし、年5%へ、米国も1.0ポイント低下し、年1.5%へ減速するという。日本への影響も避けられない。年0.9%と見込まれた成長率は年0.2%へ下方修正される。2つの経済大国の対立は世界経済にとっていよいよ大きなリスクとなりつつある。

その中国では、第1回の「中国国際輸入博覧会」が11月5日から10日にかけて上海で開催される。
中国側は、各省区市、中央政府直属の国営企業など38の取引チームを編成し、輸入促進をはかる。担当チームには目標数値(=ノルマ)もかけられているという。
日本からは自動車、商社など大手から中小企業まで「450社は参加するだろう」(JETRO上海)と見られる。ゼネラルモーターズやジョンソン・エンド・ジョンソンなど米企業も中国での販売拡大を目指す。来場者は16万人、バイヤーとしての中国企業は4万社、130カ国、2800社を越える企業が中国へ売り込みをかける。

輸入博初日には習主席も来場するという。5日と6日を休日にするとの通達もあった(民間企業は独自に判断)。11月6日は米中間選挙の当日である。つまり、輸入博は中国にとって最高レベルの政治的イベントということだ。
中国は国際社会に向けて、米の選挙結果を想定した高度に戦略的な2種類の声明を準備しているはずだ。そして、そのいずれかとともに“開かれた中国”と“巨大な購買力”をアピールするだろう。関税の引き下げ、知材保護の強化など中国の市場開放は進む。日本企業にとっては日中関係の急速な好転もチャンスである。しかし、そうした政治の振れ幅そのものがリスクであることは言うまでもない。政治を超えて市場に賭けるか、退くか、日本企業の戦略性が問われる。中途半端はこの国では通用しない。

2018 / 10 / 12
今週の”ひらめき”視点
グーグル、「Google+」の終了を発表。統合された情報ニーズのその先の未来について

米グーグルは「Google+」の消費者向けサービスを2019年8月末で閉鎖すると発表した。同社は「消費者の期待に応えられるサービスを開発し、維持することが出来なかった」と事業の失敗を認めるとともに、約50万人分の個人情報が流出した可能性を明らかにした。
グーグルがソフトの欠陥を把握したのは2018年の3月、同社は「直ちにソフトを修復、個人情報の悪用は確認されなかった。よって公表しなかった」と釈明した。

しかし、この3月という時期は、英国の政治コンサルティング会社が8700万人ものフェイスブック利用者の個人情報を不正利用していたことが発覚したタイミングと重なる。つまり、SNSの運営企業に対する社会的批判から逃れるために意図的に隠蔽したのではないか、との懸念が拭えない。個人情報の利用範囲の拡張に対する欲求がその管理責任に対する意識を上回ったと言っても良いだろう。

個人にひもづく情報を統合的に活用したいとの欲求は、AIの技術的進歩を背景に企業はもちろん、社会、国家において極大化する。それは使われる側の個人にとっても利便性の向上という意味において対立しない。ゆえに容認され易く、また、実損がない限り不正利用への感度は鈍くなる。

一方、個人情報の有償取引や個人情報の遮断をサポートするニュー・ビジネスも生まれつつある。欧州のGDPRに象徴される個人情報保護の制度的な強化も進む。利用価値が高まれば高まるほど資産としての価値は高騰する。結果、個人情報の運用と保全を狙ったビジネスや規制が準備されるということだ。
そして、こうした流れは他方でそこからの離脱を指向する新たな価値(=“mode”)を生み出すだろう。Gmailにひもづいた個人情報の一元的統合を目指した「Google+」の蹉跌は、「あらゆるものが効率的につながる世界」に対するアンチテーゼの“始まりの予兆”であるかもしれない。