世界の電気自動車(EV)市場を牽引してきた欧州市場が変調しつつある。欧州自動車工業会によるとEU加盟31カ国の2024年3月の新車登録台数は全体で138万3千台、前年同月比▲3%、前年割れの主因はEVの不調だ。EVの登録台数は19万6千台、同▲11%、31ヵ国中21ヵ国でマイナスとなった。一方、ハイブリッド車(HV)は好調だ。この3月の登録台数は同15%増の42万3千台、減少トレンドが続くガソリン車の49万台に迫る勢いである。
背景にはEV購入補助金の縮小がある。欧州のEV市場はもともと排気量が大きく、ゆえにCO2の削減効率が高い高級車マーケットを主戦場として発展してきた。高所得で、環境意識が高く、新技術や新製品への関心が強い所謂 “アーリーアダプター” 層のEV需要が一巡した、との見方もできる。言い換えれば、補助金の縮小や打ち切りがアーリーアダプターの次に控える “アーリーマジョリティ” 層の関心をHVに向かわせた、ということだ。
HVの好調さは欧州に止まらない。2024年3月期、5兆円の営業利益を計上したトヨタの業績を押し上げたのもHVである。販売台数は約360万台、前年度比32%増だ。決算説明会では「量産HVの原価は当初の1/6、収益性はガソリン車と同水準、販売台数増は収益増に直結する」と説明された。米フォードも主力ピックアップトラックのHVモデルの生産増を発表、ホンダも前期の80万台から100万台規模に目標を上方修正した。中国の新興EVメーカー比亜迪(BYD)もメキシコでプラグインハイブリッド車(PHEV)の新型ピックアップトラック「シャーク」を発表、販売を開始する。
米テスラの勢いが失速し、中国市場の成長も鈍化、EV “限界” 説も囁かれる中、トヨタの “マルチパスウェイ” 戦略への評価が高まる。トヨタはe-fuelを活用した次世代エンジンの開発にも積極的だ。とは言え、そのトヨタが見据えているのも「電気と水素が支える未来」(佐藤恒治社長)であり、要はカーボンニュートラルというゴールに向けての時間軸と地域差をどう捉え、その中にどう経営を適応させるか、ということである。いずれにせよ「変化」を本質とするマーケットにどこまで戦略上のイニシアティブを持てるかが鍵であり、“限界” は補助金や規制に依存する近視眼的な経営体質の中にこそ生まれる。