今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2018 / 01 / 11
今週の”ひらめき”視点
AIネットワーク社会、業種を越えて“価値”の寡占化がはじまる

世界最大級の家電見本市「CES」が開幕した。既に「家電」の領域を超えて久しいCESであるが、とりわけ、今年は大手自動車メーカー各社による「脱メーカー化」の戦略が注目を集めた。
トヨタは移動、物流、物販など多様な用途に対応した低床・箱型電気自動車“e-パレットコンセプト”を発表、アマゾン、ウーバー、滴滴出行、ピザハット、マツダとアライアンスを形成し実証実験を開始する。
フォードもクラウドを活用したスマートシティ構想(=TMC、Transit Mobility Cloud)を発表、多様なサービスベンダーと都市インフラをネットワーク化した新たな“移動”サービスを提案した。

会見で豊田章男社長は「トヨタをクルマの会社から“モビリティ”の会社へ変える」と語り、フォードのハケットCEOも「すべての人々に新たな自由を」との創業者ヘンリー・フォードの言葉を引用しつつ、「クルマを売るためにCESに来たわけではない」とモビリティ・サービス企業への業態転換を宣言した。
こうしたビジネスモデルの中にあって自動車はネットワークを構成する一端末に過ぎない。よって付加価値に占める製造業のシェア低下は避けられず、やがて、そのモバイル・サービスプロバイダー群もビッグデータを独占するAIプラットフォーマーの下位におかれることとなるだろう。
ネットワークのハブの“座”はただ1つ、競争は熾烈を極める。

2017 / 12 / 29
今週の”ひらめき”視点
ユニクロ、アフリカへ。足下の確かな成長戦略とやがて訪れる限界

ファーストリテイリング傘下のユニクロは「2018年度中にエチオピアで生産を開始、欧米向けの輸出拠点とする」との方針を発表した。エチオピアはアフリカの中でも賃金水準が低く、地理的に欧州に近く、また、米国向けには関税がかからないことが進出の理由。
2016年、エチオピアは製造業を軸とした経済政策「成長と構造改革プラン2016-2020」(GTPⅡ)を策定、繊維産業はその優先業種に位置づけられる。ユニクロのライバルH&Mも既に現地で生産を開始しており、また、中国の繊維関連企業の進出も相次いでいる。その意味で産業基盤は整備されており、進出拠点として適切な経営判断であったと言える。

労働集約型の繊維産業は、それゆえに誰よりも早く、より人件費が安い地域へ移転してゆく。ユニクロもまた中国、ベトナム、インドネシア、バングラデシュ、、、と新たな低賃金国を開拓してきた。そして、“最後のフロンティア”、アフリカに到達した。つまり、いよいよその終着駅が近づいてきたということであり、言い換えれば旧来型ファストファッションビジネスの限界が見えてきたと言うことだ。

26日、衣料品ECサイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイは年内に予定していたプライベートブランドの発売を見送ると発表した。無料配布中の採寸ボディスーツの生産が間に合わないことが要因である。当面は試行錯誤が続くのであろう。しかし、サプライチェーンの質的な構造変化を伴うイノベーションへの挑戦は、例え規模の次元が異なるとしても、常に新たな最貧国を求め続けるビジネスモデルよりエキサイティングであり、可能性は大きい。

2017 / 12 / 22
今週の”ひらめき”視点
繰り返される建設談合、一方、その背景にある制度的な“弱み”の是正を!

“課徴金減免制度”の活用を申し出た大林組が、清水、大成、鹿島との受注調整を公取委に認めた。これによりJR東海のリニア建設における不正受注問題は大手ゼネコン4社による「談合事件」へと様相を転じた。
2005年、大手ゼネコン各社は談合への決別を申し合わせたうえで、2006年に透明性のある入札・契約制度に向けての業界提言を発表した。所謂“談合決別宣言”である。しかし、問題は解決しない。これ以降、一般競争入札への大幅なダンピング応札が繰り返される一方で、名古屋市下水道、名古屋高速道路公社の工事に対する強制捜査も相次いだ。
有力政治家の威光を借りた“大物仕切り屋”はもはやいない。しかし、その「事前調整」的な体質は脈々と引き継がれている。2014年の北陸新幹線の入札談合事件、2016年の東日本大震災の被災高速道路の復旧工事談合が記憶に新しい。

談合による不正入札は市場原理を歪め、そのしわ寄せは利用者である国民が負う。共謀して費用を嵩上げし、不当な利益を業者が得ることに道理はない。受注額の“仲良し配分”などましてや論外である。ただ、高度な技術を持つスーパーゼネコンが4社に限られる現状にあって、工事規模が大きく、特殊な技術が求められ、かつ、納期に制約がある事案については仕様設計から業者選定に至る制度全体のあり方を再検討すべきかもしれない。
アイデア、技術、役務などの貢献は準備段階にあっても公正に評価されるべきで、例えば、一定水準以上の提案に対しては特定条件のもとで対価を支払っても良いだろう。発注者はすべての工程で最高水準を目指すべきであり、そのためのコストはきちんと負担すべきである。そうであってはじめて事業者のモチベーション、透明・公正な競争、高度な品質、そして、高い安全性が担保できる。

2017 / 12 / 15
今週の"ひらめき"視点
トランプ氏、ゲームから降りるゲームチェンジャー

エルサレムをイスラエルの首都と認定したトランプ氏に世界が困惑する。
1993年8月、PLOのアラファト議長とイスラエル・ラビン首相はビル・クリントン米大統領の仲介のもと「PLOを自治政府として、イスラエルを国家として相互に承認する」ことに合意した。以来、“2国家共存”が問題の最終解決に向けて国際社会の前提となった。つまり、トランプ氏による今回の宣言は積み上げられてきた関係者の努力を言わば白紙に戻すものであり、同時に中東和平における仲介者としての役割を米国が放棄したことを意味する。

ブエノスアイレスで開催中のWTO閣僚会合で米国は、欧州、日本とともに中国を念頭に“市場を歪める不公正な貿易慣行”に懸念を発表した。しかし、米国は11日の演説で多角的貿易の理念を否定し、反WTOの立場を鮮明にしている。そして、閉会を待たずして帰国、結果、WTOは全会一致による閣僚宣言の採択を諦めざるを得ない事態となった。

そうした中、「多国間貿易とWTOルールの有効性を強く支持する」と表明したのはまさにその中国であり、一方で、「世界の平和を破壊するのは誰か、誰が国際社会のならず者か」と北朝鮮が声をあげる。
インターネット安全法、技術移転の強制、資金規制、国内産業に対する巨額補助金、、、貿易における中国の“不公正”は周知の事実であり、ましてや北朝鮮については“何をか言わんや”である。とは言え、米国の国際的な信任が揺らぐ中、世界から共通の大義が失われてゆく、未来が抱えるリスクはここにある。

2017 / 12 / 08
今週の”ひらめき”視点
NEDO助成金詐欺、ベンチャーに対する公的支援の抜本的な見直しを!

スーパーコンピュータ開発のベンチャー「PEZY Computing」社を率いる齊藤元章氏がNEDOからの助成金4億3千万円を不正受給した容疑で逮捕された。
虚偽報告は事実であろう。また、不正流用の有無、総額35億円にのぼる助成金と政界周辺へ通じる人脈との関係なども取り沙汰される。不明な点も多く、解明が待たれる。
一方、NEDOを舞台にした助成金不正はこれまでも繰り返されてきた。助成金の使途はNEDOが認定した特定の研究開発テーマに限定される。しかし、そもそも運転資金に余裕がなく、経営基盤が脆弱なスタートアップ期の研究開発型ベンチャーにとって、資金使途の“境目”がグレーになりがちなことも事実である。もちろん、経営者の倫理意識の欠如や管理能力の低さを容認することは出来ない。ただ、そうであれば助成する側からの経営参画や監査体制の強化など、もう一歩踏み込んだ支援が必要であったろう。

先端技術開発、ベンチャー育成、産業振興等において公的資金が一定の役割を果たすことに異論はない。とは言え、乱立した官民ファンドも多くが所期の目的を達することが出来ていない。経産省の海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)は2013年度から2016年度で1510億円の投資を計画した。しかし、実行されたのは310億円、執行率は20.5%にとどまる。文科省の官民イノベーションプログラム(国立4大学発ベンチャーキャピタル)は1000億円の国費が予算化されたが投資額は54億円、執行率は5%という有様である(2017年7月時点)。
PEZY Computingが開発したスーパーコンピュータ“暁光”の計算速度は毎秒1京9千兆回を越える。世界のスパコンランキングの計算速度部門で4位、消費電力性能で1位に輝いている。国は本件を反面教師として将来性のある研究プロジェクトや有望ベンチャーに対する公的支援の公正、透明、効果的な在り方について、省益を越えた次元において根本から見直す必要がある。

2017 / 12 / 01
今週の”ひらめき”視点
給与所得控除見直し、森林環境税、出国税、たばこ増税、、、選挙後にやってきた新たな国民負担

2018年度税制改正の概要がみえてきた。公的年金控除と給与所得控除の見直しを骨子とする政府原案は「高額所得者に対して手厚い現行制度の見直しと多様化する働き方への対応が狙い」という。
年金収入だけで1千万円を越える、あるいは、年金収入以外の高額所得に対する控除の縮小は妥当だろう。そもそも対象となるのは年金受給者の上位0.5%の富裕高齢者である。一方、給与所得における高額所得の基準を年収800万円においた所得控除縮小のインパクトは小さくない。

平成27年分の民間給与実態統計調査(国税庁)によると年収800万円以上の給与所得者は426万人、全体の8.9%が対象となる。確かに平均値が420万円であることを鑑みると800万円は“高額”と言えなくもない。とは言え、最前線で活躍する現役ビジネスパーソンの“成果”を剥ぎ取るような増税は、何よりも社会全体から「真面目に努力する」ことへのモチベーションを低下させかねない。子育て世代には配慮するというが、「高所得」ゆえに既に様々な公的支援の対象外となっている彼らが感じる不公平感は大きい。

公正さという視点に立てば、給与外の高額所得者による5兆円を越える“合法的”な租税回避や毎年新規に発生する6千億円を越える滞納にも本気で切り込む必要があるだろう。9月末、突然の衆院解散の名目は「増税される2%の消費税の使い道の変更」であったはずだ。使途の変更を国民に問うのであれば、徴税制度の変更をこそ国民に問うべきである。