今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2017 / 10 / 13
今週の”ひらめき”視点
スカパーJSATとソニー、IoT、AI時代における2社の可能性

スカパーJSATは出資先の米ベンチャー「カメイタ」が開発した平面アンテナを搭載した自動車の走行中の大容量通信に成功した。当面は災害時における緊急車両等の非常用通信設備として市場開拓をはかるとするが、安定した衛星通信を可能にする技術は自動運転支援や“コネクテッドカー”関連サービスの中核デバイスとして期待される。
また、ソニーは2006年に打ち切られたAIBOの後継ロボットを発売することを発表した。得意の機械工学とAIを組み合わせることで「ペット」としてのリアリティを高めるとともにグーグル、アマゾンが先行するAIスピーカー機能も搭載する。

ソニーはロボット市場への再参入に際し、独自に開発した基本ソフトを外部開発者に公開する。ロボットOSの標準化を狙う戦略は技術の適用範囲の拡大と市場の内発的成長を促すという意味において正しい。ロボット技術のインフラ化はソニーに新たな可能性をもたらすはずだ。
一方、カメイタの技術を活用したスカパーJSATのサービスも来年度から本格運用される日本独自の測位インフラ“準天頂衛星システム”の可能性を拡大させるという意味において重要である。
特定技術のインフラ化とインフラの利用可能性を広げる技術への取り組みは、「自前の技術による特定製品市場の占有」を目指してきた従来型メーカーの発想とは異なる。歓迎したい。しかし、これだけでは特定プロダクト市場と単体デバイスにおける競争優位にとどまる。AI時代の成功条件は“ビッグデータ”の質と量とにある。ロボットや衛星サービスからは大量の情報を収集出来るはずだ。2社の本当のビジネスチャンスはここにある。

2017 / 10 / 06
今週の”ひらめき”視点
“民族ファースト”へ傾斜する世界、閉じてゆく社会に未来はない

1日、バルセロナを擁するカタルーニャ自治州はスペインからの独立を問う住民投票を実施、9割の賛成票を獲得した。これに対してスペイン政府は住民投票の法的有効性を否定、国王フェリペ6世も「現行憲法」の秩序を守るよう非難の声明を出した。一方、独立派市民は中央政府の治安部隊を「占領軍」と称し、対決姿勢を崩さない。州議会は今週末にも“独立宣言”を行うという。
その5日前、イラクのクルド自治政府が住民投票を実施、こちらも9割を越える住民がイラクからの独立を指示した。
“国家を持たない最大の民族”全体への波及を警戒するトルコ、イラン、シリア、中東の更なる混迷化を避けたい国際社会の思惑を背景にイラク政府はキルクークの油田権益や空港管轄権の返上を自治政府に要求、軍を派遣するなど徹底した“封じ込め”に動く。

歴史や事情はそれぞれ異なる。しかし、いずれもグローバリズムへの反動という流れの中に捉えるべきだろう。
個人やマイノリティに対する人権の制限や政治経済的な差別や格差に理はない。独立への意志は無視出来まい。とは言え、排他的で一方的な“民族原理主義”、あるいは、“民族ポリュリズム”の安易な拡散も容認されるべきではない。
振り返って日本では、政治的な驕りがもたらした混乱の中、排除と選別を掲げた右派カリスマが登場した。はたして議会制民主主義は正常化に向かうのか、あるいは、単なる純化と分断を招くのか。開かれた多様な社会への一歩となることに期待したい。

2017 / 09 / 29
今週の”ひらめき”視点
ダイソン、EV市場へ参入。異業種参入の活発化はその終わりのはじまり

26日、英家電メーカー“ダイソン”が電気自動車(EV)市場への参入を発表した。投資額は20億ポンド、既に400人を投入し2年前から開発をスタート、2020年までに生産、販売体制を構築するという。英国政府は「2040年からガソリン、ディーゼル車の販売を禁止する」と発表(7月26日)、EVをEU離脱後の成長産業と位置づけ、国内メーカーの育成を支援する。
深刻な大気汚染への対応と内需主導型経済への転換を急ぐ中国もEVを産業政策の柱に据える。世界最大市場を擁する中国にとって国内勢の競争力強化は喫緊の課題である。2800万台(2016年)もの巨大新車市場における国内勢のシェアは4割台、そのうえ利幅の大きい高級車は外資系ブランドの独壇場である。一方、総市場の2.3%とはいえEV(PHV含む)の国内メーカーシェアは8割を越える。国内勢に対する徹底した優遇策の中、BYDを筆頭に8社が凌ぎを削る。

EVは部品点数も少なく、また、構造がシンプルであるため、ガソリン車に比べると参入障壁は低い。今後、市場の急成長とともに多くの新興企業が参入するはずだ。一方、PCがそうであったようにやがてハードとしてのクルマは一挙に汎用品化、やがて、寡占化に向かうはずだ。
今は市場の黎明期であり、航続距離や充電時間などメーカーの技術的な優位性が競争要件となる。しかし、いずれ部品のモジュール化の進展に伴いハード面での技術的優位は平準化してゆくだろう。そして、そうした状況は意外に早く訪れるかもしれない。よってメーカーは“2代先”のビジネスモデルを想定した戦略オプションを用意し、市場の構造変化に先手を打てるよう準備しておく必要がある。

2017 / 09 / 22
今週の”ひらめき”視点
“インバウンド”は内需から独立した特需ではない。発想を転換し、長期的視点から戦略の再構築を

2017年の訪日外国人数は9月中にも2千万人を突破する見通しとなった。昨年より1ヶ月以上早い大台到達は、その勢いが一向に衰えていないことの証左である。
“ビジットジャパン・キャンペーン”がスタートしたのが2003年、観光立国推進戦略会議が2020年の目標を「2千万人に設定すべき」と提言したのが2009年、2013年には暦年で1千万人を越え、2016年3月には2020年時点での目標値を4千万人に引き上げた。
政策目標の達成がこれほど前倒しで実現された事例は近年では稀有である。中国を筆頭としたアジア新興国の急速な経済成長が背景にあるとは言え、観光対象としての日本の潜在能力の大きさとインバウンド関連業界の対応力の高さは特筆されて然るべきである。

一方、爆買いに潤い、振り回された受け入れサイドの高揚と戸惑いの時期は終わった。訪日外国人による消費は既に成熟化しつつあり、一過性の特需ではなく“内需の一形態”と捉えるべきである。
外国語、Halal、Wi-Fi、、、訪日観光客が共通して指摘する問題への対応は必須である。しかし、もはや“外国人のため”という発想そのものから脱する必要があるのではないか。
例えば、世界標準となりつつあるシェアリング・サービスが“既得権”によって画一的に封じられている現状は日本人にとっての不利益でもある。国内で生活する者、消費する者にとっての不便や不合理を解消すること、個々のニーズにきめ細く対応すること、ここに“おもてなし”の原点がある。国籍、文化、信仰、、、これらもまた多様なライフスタイル、成熟した消費行動の一側面にすぎない、ということだ。

2017 / 09 / 15
今週の”ひらめき”視点
世界最大の自動車市場、中国がガソリン車禁止へ。「エンジンからモーターへ」の構造変化が加速

国際エネルギー機関(IEA)によると2016年の世界のEV、PHVの累計販売台数は前年比6割増の200万台、中国は65万台と倍増し、米国の56万台を抜いてトップとなった。その中国は、9日、「ガソリン、ディーゼル車の全面禁止に向けてのロードマップ作成に着手する」と発表した。これは2040年までにガソリン、ディーゼル車の販売を禁止すると表明した英仏に続くものであり、次世代自動車の枢勢は一気にEVへ傾いた。

EVの量産化はもともと日本勢が先行してきた。しかし、プリウスに代表されるハイブリッドがエコカー市場の主役となる中、技術、マーケティング両面において海外EV勢の存在感が高まる。中国は2018年から新エネルギー車(NEV)の販売台数を義務付けるが、中国が定義するNEVにハイブリッドは含まれない。中国は「技術の完全なリセット」をもってガソリン車市場で遅れをとった国内勢を後押しする。

9日、日産は航続距離400㌔の新型リーフを発表、ホンダもEV専用プラットフォームを採用した欧州向けコンセプトカーを発表した。EVで遅れをとったトヨタも2020年までに量産化体制を整える。一方、日本市場そのもののレギュレーションを変更するとの声は聞こえて来ない。21世紀半ば、日本が世界のガソリン車の在庫処分場にならないよう願う。

2017 / 09 / 08
今週の”ひらめき”視点
剥き出しのエゴが交差する東アジア、落としどころは見出せるか

4日、BRICS5カ国にタイ、メキシコなどオブザーバー国を加えたBRICSプラスの新興国首脳会議は「保護主義反対」のメッセージをアモイ宣言として採択した。
ホスト役である習氏は「開放的な自由貿易の実現」「世界的な価値連鎖の創造」を演説で表明、対中国への通商法301条の適用やNAFTAの見直しを掲げるトランプ政権を念頭に“自由貿易陣営の盟主”としてのプレゼンスをアピールした。
一方、2日、米国ではトランプ政権が米韓FTAの破棄を検討しているとのニュースが流れ、5日には不法移民の子どもたちを対象とした強制送還免除制度を撤廃することが発表された。トランプ氏率いる米国は国内における分断と亀裂を抱えたまま、ますます世界から引き篭もってゆくようだ。

アモイ宣言が採択された同日、北朝鮮の核実験を受けて緊急召集された国連安保理で、米国は日本とともに北朝鮮に対する“最強制裁”を主張した。
石油の禁輸が完全に実行されれば北朝鮮への打撃は小さくない。とは言え、それをもって彼らが“先軍路線”を転じるとは考えにくい。国境を接する中露韓にとって“暴発”に伴うリスクは米国の比ではない。そして、日本もまたこれらの国々と同様に既に彼らの射程圏内にある。“国際社会と連携して”を繰り返すだけでは何も解決しないし、そもそも国際社会などという実体はどこにもない。
暴発を確実に防止すること、そのためには関係国それぞれの立場と国益の“リバランス”が必須である。ただひたすらに“自分ファースト”ではイニシアティブはとれないし、仲介者にすらなり得ない。建前がぶつかり合う国連の議場は期待できない。6-7日、ウラジオストクでの東方経済フォーラム、水面下で新たな流れを作れるか、外交力が問われる。