8日午前、両備ホールディングス(岡山)は県内で運行している全78バス路線の4割に相当する31の赤字路線の廃止届けを国交省中国運輸局に提出したと発表した。この背景には赤字路線の運行を支えてきた主力路線への参入を仕掛けた新興の格安バス事業者「八晃産業グループ」の存在がある。
両備グループの小嶋光信代表は「廃止するために廃止届けを出したのではない。地方の公共交通の存続を賭けた問題提起である」と語った。“たま駅長”で一躍有名になった和歌山の貴志川線や中国バスなど地方公共交通の再生に尽力するとともに、補助金に頼らない自立経営のもと県内の不採算路線を維持してきた両備グループの問題提起は廃止対象となった沿線住民からも支援の声があがる。
一方、国交省は発表があった当日、そして、17時過ぎという異例とも言える時間帯に八晃グループの申請を認可した。急いだ理由は不明である。単なる手続き上の偶然かもしれない。ただ、こうした流れを受けて、15日、岡山市、玉野市、倉敷市、瀬戸内市など関連自治体は岡山県に対して地域公共交通活性化再生法にもとづく協議会の設置を急遽要請、県もこれに応じる構えだ。
今、乗合バス事業者の2/3が赤字であり、とりわけ、地方路線は苦境の中にある。背景の一端に2000年、2002年に実施された貸切バス、乗合バス事業の規制緩和があることは言うまでもない。もちろん、市場原理の導入そのものを否定するものではない。とは言え、安全性と安定性が高いレベルで求められるバス事業の公益性を鑑みれば全国一律適用の自由化の弊害は小さくないし、ましてや地方の特定採算路線への限定参入はフェアではあるまい。
運転免許の返上を後期高齢者に求めるのであれば代替交通の提案が必要だ。少子化対策の一環として教育の無償化を導入するのであれば通学の足を確保するのは当然だ。
両備グループが投じた問題は岡山のバス利用者に限定されるものではなく、また、“地方”に固有の問題として扱われるべきものでもない。地方創生、少子高齢化、GDP600兆円、人口1億人の維持、これらの政策との整合性はとれているのか、公共交通を失った地方に未来はあるのか、地方のない国土に魅力はあるのか。問われているのは日本の未来そのものである。