今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2018 / 02 / 23
今週の”ひらめき”視点
両備グループのバス廃止問題、問われているのは日本の未来

8日午前、両備ホールディングス(岡山)は県内で運行している全78バス路線の4割に相当する31の赤字路線の廃止届けを国交省中国運輸局に提出したと発表した。この背景には赤字路線の運行を支えてきた主力路線への参入を仕掛けた新興の格安バス事業者「八晃産業グループ」の存在がある。
両備グループの小嶋光信代表は「廃止するために廃止届けを出したのではない。地方の公共交通の存続を賭けた問題提起である」と語った。“たま駅長”で一躍有名になった和歌山の貴志川線や中国バスなど地方公共交通の再生に尽力するとともに、補助金に頼らない自立経営のもと県内の不採算路線を維持してきた両備グループの問題提起は廃止対象となった沿線住民からも支援の声があがる。

一方、国交省は発表があった当日、そして、17時過ぎという異例とも言える時間帯に八晃グループの申請を認可した。急いだ理由は不明である。単なる手続き上の偶然かもしれない。ただ、こうした流れを受けて、15日、岡山市、玉野市、倉敷市、瀬戸内市など関連自治体は岡山県に対して地域公共交通活性化再生法にもとづく協議会の設置を急遽要請、県もこれに応じる構えだ。

今、乗合バス事業者の2/3が赤字であり、とりわけ、地方路線は苦境の中にある。背景の一端に2000年、2002年に実施された貸切バス、乗合バス事業の規制緩和があることは言うまでもない。もちろん、市場原理の導入そのものを否定するものではない。とは言え、安全性と安定性が高いレベルで求められるバス事業の公益性を鑑みれば全国一律適用の自由化の弊害は小さくないし、ましてや地方の特定採算路線への限定参入はフェアではあるまい。

運転免許の返上を後期高齢者に求めるのであれば代替交通の提案が必要だ。少子化対策の一環として教育の無償化を導入するのであれば通学の足を確保するのは当然だ。
両備グループが投じた問題は岡山のバス利用者に限定されるものではなく、また、“地方”に固有の問題として扱われるべきものでもない。地方創生、少子高齢化、GDP600兆円、人口1億人の維持、これらの政策との整合性はとれているのか、公共交通を失った地方に未来はあるのか、地方のない国土に魅力はあるのか。問われているのは日本の未来そのものである。

2018 / 02 / 16
今週の”ひらめき”視点
緊迫化するモルディブ情勢と中国のインド洋進出

2月5日、インド洋の島嶼国モルディブで「非常事態」が宣言された。ヤミーン政権はナシード元大統領をはじめとする反政府系議員への弾圧を強めていたが、1日、最高裁はナシード元大統領の無罪と12人の野党議員の復権を認めた。これに対して政府は最高裁判所長官を含む判事2名を逮捕、治安当局と反政府側の対立が先鋭化しつつある。

もともとモルディブはインドとの関係が深かったが、2013年にヤミーン氏が大統領に就任すると急速に中国へ傾斜する。
ヤミーン氏は「一帯一路」への参加を表明、道路、橋梁、空港、港湾の整備に中国資本を導入、昨年12月には中国とのFTAにも署名した。
そうした中、対中債務は15~20億ドルへ拡大、金利は10~12%に達するとみられる。返済は来年以降からはじまるが、反政府側は「モルディブの財政状況では延滞は不可避、債務と引き換えに実質的な領土割譲が行われる」ことを懸念する。

2016年、中国は財政が行き詰まったギリシャから国営ピレウス港の株式51%を買い取った。2017年には債権放棄と引き換えにスリランカのハンバンタト港の運営権を取得、パキスタン、ミャンマー、バングラディシュへの投資も強める。アフリカ東部ジプチには海軍基地を設置済みだ。
かつて胡錦濤氏によって「調和の海を目指す」と説明された香港からホルムズ海峡に至る“真珠の首飾り”は、習近平氏のもと名実ともに「偉大なる中華民族」の戦略的ドレスコードとして実現される。

2018 / 02 / 09
今週の”ひらめき”視点
世界同時株安、量的緩和の収束に向けて協調シナリオは描けるか

米の金利上昇を背景とした株安が世界に連鎖した。6日は落ち着きを取り戻したものの、米欧中央銀行による金融緩和の“終わり”が意識される中、株式市場の安定が揺らぐ。
そもそものきっかけは先週末に発表された米雇用統計。雇用改善と賃金上昇の大きさが利上げ観測を強めた。株式市場では“高値圏にある株価の調整局面”との反応が大勢であるが、インフレ懸念が取り沙汰される中で金融政策の“正常化”が加速するとの観測が強まる。

リーマンショック以降、各国は財政出動で景気を下支え、中央銀行は国債の購入等を通じてこれを後押しした。政府債務が膨張する中、低金利が維持されてきたのは各国が金融緩和で足並みを揃えてきたからに他ならない。
しかし、米FRBは2015年にはゼロ金利政策を解除、2017年には保有資産の縮小に転じた。欧州中央銀行も“正常化”のタイミングを模索する。

トランプ政権は大型減税とインフラ投資による成長を目指す。7日、米上院は2018年、2019年の歳出上限を3千億ドル引き上げることで合意した。長期金利の上昇圧力はもう一段増すだろう。
一方、日本は2013年の4月に公約した目標(=2年程度内に2%の物価成長を実現する)を未だ先送りしたままである。金融を取り巻く世界情勢が変化しつつある中、“正常化”への道筋は見えない。

2018 / 02 / 02
今週の”ひらめき”視点
仮想通貨問題、期待と不信、射幸心が交錯する中での必然

30日、米フェイスブックは仮想通貨の売買、仮想通貨を使った資金調達(ICO)、バイナリーオプションに関する広告を全世界で禁止すると発表した。子会社のインスタグラムにも適用される。
同社はこうした広告の多くが「誤解や虚偽を含んでおり、誠実に運営されていない」と判断、将来、これらが社会問題化した際に“フェイスブックが詐欺的行為を助長した”との批判を回避することが狙い。

その数日前、日本ではコインチェック社を舞台に仮想通貨の巨額流出が発覚した。事件の全容はいずれ金融庁や捜査当局によって解明されるだろう。とは言え、事件後に明らかになったセキュリティ体制の杜撰さを見る限り少なくとも原因の一端が経営陣の“不誠実さ”にあったことは否めない。不正アクセスの実行犯はもちろん、同社の経営姿勢そのものが“反社会的”であったと言える。

国家からの制約を受けないネット上の仮想通貨は、“投資”という側面に脚光があたればあたるほど、投機的なヒトとマネーを呼び込む。4年前のマウントゴックス事件では、口座残高の水増し、顧客資産の着服など経営者の“業務上横領”が問われた。その記憶も新しい中での今回の事件は当局そして社会に“これ以上は見過ごせない”という流れを一気に加速させるだろう。
信用創造の新たな可能性が狭まるとすれば残念だ。しかし、テクノロジーとビジネスモデルの進化に委ねるだけでは解決しない。仮想通貨は単に通貨取引に似せた架空の投機商品に過ぎないのか。経済的、政治的、文化的な文脈において“通貨”としてのリアルな思想を社会の側からも問い直すべき時期にある。

2018 / 01 / 26
今週の”ひらめき”視点
TPP11、合意。米国抜き多国間協定の可能性は大きい

約8年におよぶ協議と米国離脱に伴う混乱を経て、23日、11カ国によるTPPが決着した。署名式は3月8日にチリで開催、2019年の発効を目指す。
過度なグローバリズムに対する世界的な反動の中、高いレベルの多国間自由貿易協定が、アジア太平洋地域で新たに合意されたことの意義は大きい。

米国の離脱は、“世界のGDPの4割を占めるメガ経済圏構想”を同12.9%へとスケールダウンさせた。結果、東アジア地域包括的連携(RCEP)を主導したい中国に対する牽制力は弱まった。その通りである。しかし、TPPの政治的戦略性が薄まったことは、むしろ、純粋に今後の多国間貿易協定のモデルとしての価値が高まったとも言える。
TPP11ではオリジナルTPPのうち22項目が凍結された。言い換えるなら「米国から各国が迫られた不本意な妥協が解消された」ということである。自由貿易協定は大国の利を正当化するためのものではない。その意味において、自国文化の多様性保護を根拠にカナダが要求した「文化例外」が認められたことを“前進”と評価したい。

経済規模の小さい国、産業構造が偏った国、成長途上にある国、こうした国々の成長にTPPはどう貢献できるのか。日本の役割はこの視点に立ってTPPを主導すること、そして、RCEPも視野にこのプラットフォームを柔軟に運用、発展させてゆくことにある。政府は「米国の早期復帰を促したい」とする。しかし、自国主義に閉じるトランプ氏率いる米国の参加は期待できないし、また、その必要もない。

2018 / 01 / 19
今週の”ひらめき”視点
「イプシロン3」、「アスナロ2」が拓く民間宇宙マーケットの可能性

18日、JAXAは小型ロケット「EPSILON3号機」の打ち上げに成功した。同機の打ち上げ費用は日本の基幹ロケット「H2A」の半分以下の45億円、1、2号機に続く成功は小型衛星の商業打ち上げ市場への参入可能性を開く。
搭載された衛星はNECの地球観測衛星「ASNARO2」、高性能小型レーダーにより気象条件や昼夜を問わず地上を観測、撮影できるという。

今回のミッションで注目すべきは、NECが衛星メーカーとしてのポジションから宇宙利用サービス事業者への第一歩を踏み出した点にある。同社は「ASNARO2」の打ち上げに際し、衛星の自主運用拠点となる「NEC衛星オペレーションセンター」を新設、システムの運用から画像やデータの配信サービスを一貫して行うこと、今後3年間で宇宙ソリューション事業を50億円規模に育てることを発表した。

日本の宇宙産業の市場規模は年間1兆2千億円、政府は“2030年代には現在の2倍規模に拡大”との目標を掲げている。先行する米、欧、露、中、印と渡り合うにはロケットや衛星といった機器開発や打ち上げサービスなどのハード分野はもちろんであるが、ソフト分野、すなわち宇宙利用サービス市場における事業創出力の強化が鍵となる。NECの戦略はこうした流れの中で評価されるべきであり、この意味において宇宙ゴミ対策に取り組む「アストロスケール」や通信衛星アンテナのシェアリングを目指す「インフォステラ」など高度なビジネス構想力をもったベンチャーの台頭、成長に期待したい。