今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2018 / 05 / 11
今週の”ひらめき”視点
トランプ氏、イラン核合意からの離脱を表明。国際協調体制、再び揺らぐ

8日、トランプ氏はかねてから批判し続けてきたイラン核合意からの離脱を正式に表明、「最高レベルの経済制裁」を科すと宣言した。
英独仏は直ちに“合意継続”を発表、イランのロウハニ大統領も対米非難を強めながらも当面は“米抜き合意”を維持したい旨声明した。

2015年、主要6ヶ国(米英独仏中露)はオバマ氏主導のもと核開発の制限と経済制裁の解除についてイランと合意した。
制裁解除後のイランは翌年に輸出が3割増、輸入も2割増となるなど、経済は徐々に正常化に向かいつつあった。とりわけ中国の動きは早く、合意直後の2016年1月には習近平氏が外国元首としてはじめてイランを訪問、エネルギー、インフラ、IT、金融など17分野において10年間で貿易総額を6千億ドルへ拡大するとの覚書を締結、独仏をはじめとする欧州勢も対イランビジネスを活発化させてきた。
人口8千万人を擁するイランは治安も比較的安定しており、成長ポテンシャルは高い。一方、中東情勢は依然として混迷の中にある。シリアにおけるイラン・ロシアVS欧州・米国との対立も深刻だ。パレスチナも極限状況にある。それゆえにイラン核合意は中東の安定に向けての所与の前提条件であり、拠り所の一つであった。

トランプ氏は、原油代金の決裁のためにイラン中央銀行と取引する外国銀行に対して180日間の猶予後に制裁を発動する、と言明した。日本は経済制裁中にあってもイランからの原油輸入を継続、全体の7%をイランに依存している。影響は避けられない。更に、イラン核合意に対する強硬姿勢は「北朝鮮に向けてのメッセージである」とも言う。朝鮮半島情勢緩和への期待が高まる中でのトランプ氏からの言わば“冷や水”は、中東、東アジアの未来を再び不透明にするだけでなく、経済活動の萎縮、反米・対米不信の拡大、主要国の利害錯綜を招く。結果、高まるのは中国のプレゼンスである。であれば米国にとって決して“良いディール”ではあるまい。いずれにせよ世界が負担する代償は小さくない。

2018 / 04 / 27
今週の”ひらめき”視点
福島の原状回復に向けて、官民の枠を越えた長期的な研究体制の構築を

筆者は一昨年、岐阜県多治見の窯業原料メーカー㈱ヤマセとともに、タイルの製造工程で廃棄される黒雲母を「除染の現場で活用して欲しい」と日本原子力産業協会を介して働きかけた。黒雲母は放射性セシウムの吸着力が高く、溶出させないという物理的特性を持つ。残念ながらその時点で除染工程は終盤期にあり、採用は見送られた。そして、2018年3月、“汚染状況重点調査地域”に指定された36市町村の面的除染はすべて終了した。
とは言え、除染の完了は放射性物質の消滅を意味しない。住民の生活圏にあった放射性物質を“集め”、生活圏外へ“移動”させただけである。

黒雲母のセシウム吸着について学術的な研究を行なってきた東京大学大学院地球惑星科学の小暮博士は、「長期間にわたってセシウムを固定させる黒雲母は中間貯蔵施設からの2次流出を防ぐうえで効果的かもしれない。溜池や湖沼に堆積した放射性物質を固定化させることも出来るだろう」と語る。東大では農学部でも植物への放射性物質の吸収抑制に関する研究が進む。

福島第1原発事故から7年、復興のステージは「復興・創生期」(2016-2020度)の半ばにさしかかる。インフラ復旧は確実に進展しつつある。昨年4月には避難指示地域も大幅に緩和された。
一方、セシウム137の半減期は30年、毒性が1/8になるまで90年を擁する。原子力災害は人間の一生に収まるものではなく、ましてや復興を進める行政の時間軸で解決できる問題ではない。最終処分まで視野に入れると膨大な時間を要する。
今、私たちはそうした時間軸に立って復興の意味と範囲を再定義し、そのうえで、様々な機関が行っている実験や観測データを科学的に統合、体系化してゆく必要がある。そして、それを世界に発信し、未来に伝えてゆく責任が日本にはある。原子力災害に関する研究はまだ始まったばかりである。

2018 / 04 / 20
今週の”ひらめき”視点
米中経済摩擦、貿易の停滞と混乱の回避に向けて

18日、財務省は「2017年度の中国向け輸出が過去最高の15兆1871億円(前年比18.3%増)を記録、6年ぶりに対米輸出額を上回った」と発表した(「貿易統計速報」より)。
とは言え、対米輸出も15兆1819億円(前年比7.5%増)とほぼ同水準を維持する。米中はいずれも日本にとって最大のお得意様であり、したがって、両国の貿易摩擦と対抗措置の応酬は日本にとって大きなリスクとして顕在化しつつある。

米国による鉄鋼・アルミ課税とそれに伴うEUのセーフガードは安価な中国製品をアジア市場へ流出させるだろう。中国による米国産大豆の輸入制限はロジスティクスを担う日系商社のビジネスを奪う。米国による華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)製品の調達禁止措置は両社へ部品を供給する日本メーカーの事業計画に影響を及ぼす。東芝半導体子会社の米投資ファンドへの売却も中国当局による独禁法審査の遅れにより見通しが立たない。そもそも貿易の停滞に伴う米中経済そのものの失速も懸念される。

こうした中、8年ぶりの日中ハイレベル経済対話と日米首脳会談が開催された。日本は中国と多国間自由貿易体制の維持で協調する一方、米国とともに「自由で開かれたインド太平洋戦略」で“一帯一路”をけん制する。米国は日本が要求してきた「鉄鋼・アルミ関税の対象国からの除外」を退けたうえで、二国間協定による“不公正な日米貿易”の解消を目指す、と言明した。

金融分野や自動車産業における外資規制の撤廃など中国側からの“メッセージ”も出始めた。しかし、まだまだ予断を許さない。両国の狭間にあっての対米、対中交渉は安全保障とも関連するだけに容易であるまい。しかし、それゆえに日本はTPP11を主導した立場において、自らの原理原則を貫いて欲しい。それがリスク回避に向けたシンプルかつ唯一の突破口である。

2018 / 04 / 13
今週の”ひらめき”視点
外国人労働者、受入れ拡大へ。ただし、問題の本質は先送り

政府は建設、農業、介護等の人材不足に対応するために新たな外国人就労資格を設置する。資格の名称は「特定技能」(仮称)、最長5年に制限された技能実習の修了者に対して、更に5年間の在留資格を与える。
本来“学んだことを母国で活かす”ための技能実習制度が実質的な外国人労働者の供給システムになっていることは周知の事実であり、不当な低賃金や違法な長時間労働が一部で問題化している。一方、単純労働市場における人材不足は深刻化しており、在留延長を求める声は雇用者側、実習生側の双方に多い。新資格はそのギャップを埋めるものである。

とは言え、技能実習の本来目的は形式上維持される。実習生は最初の5年間が修了した時点で一度帰国しなければならない。つまり、母国に一定期間滞在することが「特定技能」の資格要件ということであり、言い換えれば、永住権取得条件の一つである“10年以上の在留”が直ちに満たされないように制度設計されているということである。

アジアの賃金水準が急速に上昇している中、海外からの労働力を短サイクルで補填し続ける“都合の良い”制度で安定的に労働力を確保できるのか。
生産年齢人口の減少が避けられない日本にとって、外国人労働者の問題は「途上国の人材育成」を名目とした制度の枠組みで考えるべきではない。日本社会全体としての受け入れ態勢を長期的視点から議論してゆく必要がある。

2018 / 04 / 06
今週の"ひらめき"視点
フェイスブック、膨張するリスクと社会的責任

米議会は、フェイスブックから流出した8千7百万人の個人情報がトランプ氏陣営の英コンサルティング会社によって不正利用されたことについて、マーク・ザッカーバーグCEOに対して公聴会で証言するよう要請した。

この問題に端を発する抗議行動はハッシュタグ「#deletefacebook」で拡散、2014年に同社に買収されたワッツアップの共同創設者ブライアン・アクトン氏やテスラモータース、スペースXの創業者イーロン・マスク氏も賛同を表明、相次いで公式ページを削除した。また、アップルのティム・クック氏も「個人の生活を不正に売買することはプライバシーの侵害」と発言するなど、プライバシー保護の強化とフェイスブック批判の流れが急速に醸成されつつある。

一方、国連もロヒンギャの難民問題に関連してフェイスブックを「ヘイトスピーチの温床」、「暴力奨励を媒介」と名指しで非難、元幹部のバリハビティヤ氏も「社会の分断を助長している」、「自分の息子には使わせない」などと発言、Facebook社自身も「世界をつなぐことは良いことばかりとは限らない」と自らのミッションステートメントの負の側面を認めた。

世界20億人のユーザーを擁するフェイスブックは、今や一企業のガバナンスを越えた“力”を持ちつつある。テクノロジーとビジネスモデルの自立的な成長が巨大な社会的リスクとなりつつあるということだ。世界がフラットにつながるまでにはまだまだ時間を要する。

2018 / 03 / 30
今週の”ひらめき”視点
自動運転社会の実現にむけて。問われるのは運転“技能”の向上

2020年の実用化に向けて政府は自動運転に関する法整備の大綱案を取りまとめた。2018年夏までに装備や走行条件に関するガイドラインを策定すること、ドライブレコーダー等の走行データ記録装置の搭載義務化などが盛り込まれる。

大手自動車、グローバルIT企業を筆頭に自動運転の実用化競争は熾烈化している。そうした中、3月18日、自動運転車によるはじめての死亡事故が起きた。米アリゾナ州はウーバーに対する実験認可の取り消しを発表、トヨタも北米での一時的な実験自粛を決めるなど業界に衝撃が走った。
とは言え、自動運転への流れが変わることはない。独アウディは世界ではじめて「レベル3」(条件付自動運転)を搭載した上級モデルを今年から市場投入する。技術は確実に今回の事故を乗り越えるだろう。

一方、走行基準に関するルールづくりの遅れは否めない。国内では「自動運転車両への免許制度」の提唱もなされ始めた。道交法を遵守し、交通安全ルールに従って運転操作ができるか、について最低限の基準を設けそれを公的に認証する、ということだ。一理ある。ただ、ハードウェアとしての技術基準と交通ルールやマナーなどソフトにおける技術的洗練をどのレベルで評価づけるのか、容易な作業ではないだろう。
いずれにせよレベル4(高度自動運転)は既に技術的には射程内にある。今後、問われるのはまさに“技能”の向上である。車両の外側にある運行支援システムはもちろん、社会全体での受け入れ体制づくりが必須であろう。レベル3のその先を見据えたレギュレーションや社会規範をどう作ってゆくのか、日本のイニシアティブに期待したい。

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