今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2017 / 07 / 21
今週の"ひらめき"視点
X(エックス)ビジネス始動! 既存の“規格”を超えた事業創造を目指す

長尺旋盤を得意とする金属加工の㈱サーフエンジニアリング(神奈川県綾瀬市、根本社長)が難加工品の共同受注ネットワーク「工業の宮大工」プロジェクトを立ち上げた。
同社はガス配管検査用昇降ロボット「のぼるくん」(かながわビジネスオーディション2015、最優秀賞)を開発したことで有名であるが、横中ぐり盤、平面研削、超微細研磨等それぞれに秀でた“町工場”たちと連携することで高度な技術を要する単品ものや難度の高い試作品の共同受注を推進する。将来的には50社程度の町工場集団を目指しており、所謂「下請け」「孫請け」とは異なる次元で高単価、高付加価値化を目指す。
一方、中小製造業の連携で先行する太田区も新たな取り組みに着手する。“下町ボブスレー”に次ぐ共同事業として「障害者向けスポーツ用具」プロジェクトを立ち上げた。第1弾は車イスバスケットボール用車イス、区内企業からなる“産業クラスター”を形成して2020年パラリンピックでの採用を目指す。

中小企業庁は中小企業の事業承継に関する5ヵ年計画をまとめた。2021年までに20-30万社を調査し、円滑な事業承継やM&Aによる事業存続をはかるという。
多様な中小企業の存在はものづくり産業の基盤として、雇用の受け皿として、高度な技術の承継と実践という意味において、重要である。しかし、大手メーカーを起点としたサプライチェーンに組み入れられたままの取引構造や現行業態の枠内での事業存続では魅力ある産業とはなるまい。
中小製造業やニッチ産業の開拓者たちの可能性を引き出し、その自立的成長を促すためには①オープンイノベーションを誘発する仕掛け、②個々の企業の潜在的な可能性を知的資産として活用する仕組み、③業種、業態、事業規模を越えたコラボレーションを創出するための持続的かつ発展的なプラットフォーム、の整備が不可欠である。当社が立ち上げる“X(エックス)ビジネス”※のミッションもすなわちこれら3つの実現にある。各位の参画、応援を心よりお願いする次第である。

※X(エックス)ビジネス:https://xbusiness.jp

2017 / 07 / 14
今週の"ひらめき"視点
対日投資基準、公表へ。国益はどこにある?

財務省は、外国人による対日投資の審査基準を改定し、8月を目処に公表すると発表した。原子力、エネルギー、航空宇宙、防衛関連企業やインフラ関連企業の株式を一定以上取得する際の事前審査基準を明確化し、技術流出を防ぐとともに、審査の透明性を高めることで対日投資の拡大を促す。
この5月の外為法改正で重要技術の海外流出に対する罰則は強化された。しかしながら、審査基準は公表されておらず、手続きの不透明さが対日投資の阻害要件であるとの指摘があった。政府は2020年における対日直接投資残高を2012年時点の倍、約35兆円に拡大させるとの目標を掲げており、その意味で、審査基準の公表は海外投資家の対日投資に対する懸念を軽減するものであり、歓迎したい。

とは言え、技術流出に対する過度な警戒は産業の活性化につながらない。先端技術を国内に留め置き、海外企業との提携に制約を課していては、そもそも企業はグローバル市場を勝ち抜けない。資本、技術、情報、人の移動に対する恣意的な国の介入は結果的に日本の国際競争力を抑制する。
一方、今回改定される新基準は企業買収や株式取得など対企業投資に適用されるものであり、かねてより懸念されている外国資本による森林等の買収を防ぐものではない。
安全保障という観点に立てば企業への投資だけが懸念事項ではない。守るべき国益とは何か、省益を越えた次元でその根本を問い直す必要がある。

2017 / 06 / 30
今週の"ひらめき"視点
華為技術(ファーウェイ)、日本に生産工場を新設、国内で量産体制へ

中国の通信機器大手“華為技術”が日本国内に生産工場を新設すると発表した。投資規模は50億円超、高速通信網向けのネットワーク機器を“現地生産”することで日本市場におけるシェア拡大を目指す。
従来、中国企業の日本への直接投資はM&Aと研究開発センターやマーケティング拠点の設置が主流であり、本格的な量産型生産工場への投資は今回のファーウェイが初めてと言える。
背景には人件費を含む中国と日本のコスト差、そして、技術レベルの縮小がある。安かろう悪かろう型の中国製品が未だに多いことも事実だ。とは言え、少なくとも先端分野における中国企業のレベルは確実にグローバル水準にある。当面は日本国内における供給力の向上をミッションとするだろう。しかし、将来的にはメイド・イン・ジャパンの品質を武器に輸出拠点として戦略化されるはずだ。

一方、日本の役所は依然として国産技術の流出に敏感だ。経産省は東芝の半導体事業の売却問題で官製ファンド産業革新機構を大株主とする日米韓連合による買収スキームを主導する。しかしながら、需要家も競合企業も等しくグローバル市場で戦っている半導体業界にあって、既存技術を国内に閉ざすことが未来の成長に資するとは思えない。
経産省がとるべき政策は、特定企業の特定事業に介入することではない。資本、技術、人材の高度化と流動性を高め、国外の資本、国外の技術、国外の人材を呼び込む環境を整備することにある。そうあってはじめて、日本の技術は最先端レベルで更新され、強化され続けるはずである。

2017 / 06 / 23
今週の"ひらめき"視点
EU離脱、英国は受身の交渉を余儀なくされる!?

21日、英議会が開幕。エリザベス女王はメイ首相が起草した施政方針を読み上げた。EU単一市場からの撤退、移民制限に関する数値目標など、メイ首相が主張してきたHARD BREXIT路線は事実上封印され、EUからの離脱を再確認するだけの具体的を欠いた演説となった。政権基盤の強化を狙って前倒しで実施した総選挙に敗れたメイ氏は、実質的に議会そして保守党におけるリーダーシップを失った。
今、英国は、強硬路線から穏健路線へと向かいつつある。しかし、「穏健」の中身は未だ見えて来ない。

一方のEUの側は、欧州統合の維持を掲げて大統領に就任したマクロン氏率いる新党が仏議会選挙も制した。揺らぎかけたEUの理想はメルケル氏とマクロン氏のもとで改革と再強化へ向かう。マクロン氏が公約したユーロ圏の共同財務相や共通予算の創設は異論も多く、実現は容易ではないだろう。とは言え、少なくとも極端な反移民や自国第一主義に偏ったポピュリズムの流れを押し返し、欧州の政治的な混乱を回避したことの意味は大きい。

英国とEUとの交渉期間は残すところ1年9ヶ月、英国は「最良の条件」を目指すというが交渉方針は定まらない。結果、イニシアティブはEU側に移った。強硬あるいは穏健という言葉は英国視点で語られる表現である。今、それを左右するのはEUの側の改革の方向性とユーロ圏にとっての英国の政治的、経済的な戦略的価値である。

2017 / 06 / 16
今週の"ひらめき"視点
東芝、そして、富士フイルムホールディングス、、、この国に根付く同種の体質の一掃が望まれる

富士フイルムは傘下の富士ゼロックスの海外販社における純利益の水増しが最終的に375億円となった、と発表した。
粉飾はニュージーランドとオーストラリアの販社で6年間にわたって繰り返された。外部専門家による第3者委員会は、業績連動型の報酬体系と「業績達成に対する本社からの強烈な圧力」が直接的な要因であったと結論づけた。つまり、行き過ぎた売上至上主義が不正を誘発したということである。しかし、より深刻な問題は経営の“最高レベル”によって隠蔽工作が続けられてきた、という事実である。

最初の内部告発が2015年7月、ニュージーランドのメディアが粉飾の可能性を報道したのが2016年9月、当局の捜査が終了したのが同年12月、こうした経緯を鑑みると対応の遅さは歴然である。
12日、富士フイルムホールディングスの助野社長は、2兆3千億円の連結売上のうち1兆円を占める富士ゼロックスに対して“遠慮があった”と会見で語ったが、遠慮があった、とのトップの言葉に隠蔽と先送りに対する未必の加担が潜む。

富士ゼロックスは会長を含む役員5人の引責辞任を決めた。ホールディングスの会長、社長も役員報酬の10%を3ヶ月返上するという。問題となった社員は既に退職している。不正を実行した個人の責任は言うまでもない。しかし、それは“通常”の手続きの中で行われてきたものだ。個人を不正へ追い込み、通常のルールにもとづく手続きの中でそれを承認し、更にその隠蔽をはかってきたこの組織に深く巣くった問題の本質は未だ曖昧なままである。

2017 / 06 / 09
今週の"ひらめき"視点
ジャパンディスプレイ、革新機構が主導した成長戦略、再び白紙に

7日、ジャパンディスプレイ(JDI)は有機ELディスプレイの開発を手掛けるJOLEDの子会社化を再延期すると発表した。
JDIは今回の決定について「有機ELの事業化見通しの遅れ」と説明しているが、2017年3月決算が最終赤字となり、また、第1四半期も営業赤字が避けられない中、再び資金繰りが逼迫していることが要因であると推察される。
そもそもJOLEDの子会社化それ自体が「資金繰りに窮したJDIに対する産業革新機構からの資金支援の大義名分」との批判もあった。そうした中、昨年末に実行された750億円もの“成長への投資”は、結果的にその正当性を失いつつある。

JDI、JOLEDはともに革新機構が筆頭株主となっている国策会社である。当初の成り立ちから両社の統合案も含めて、もはや“オールジャパン”というエクスキューズ以上の合理性はなかったと言って過言ではあるまい。背景にはスマホ向け液晶パネルの需要構造変化がある。しかし、主力事業の見通しはあまりに甘かったと言える。否、予測精度の問題ではない。単に自分たちのストーリーにとって“都合の良い”見通しではなかったか。
今、JDIに必要なものは机上で描かれた“きれいな”戦略ではない。まさに事業の当事者として、生きた市場と正面から向き合う覚悟である。その意味において、真に問われているのは国策ファンドの在り方そのものであると言える。