今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2017 / 11 / 24
今週の”ひらめき”視点
神戸製鋼の不正問題、法令違反ではない契約違反に関するもう一つの視点

神戸製鋼の品質データの改ざん問題で、不正な製品の納入先525社のうち9割の470社で安全性が確認された。日本企業の品質管理体制に疑念を抱かせたこの問題の背景には、利益重視の経営姿勢、納期遵守を求める取引先の圧力、硬直した組織、経営と現場の乖離等を指摘できるが、いずれにせよ不正の常態化に弁解の余地は一切あるまい。

一方、JIS規格より高いレベルに自社の安全基準を設定し、更にそれを上回る品質を要求した発注者側の要求仕様はそもそも妥当であったのか、という問題もあわせて考えてみる必要がある。今回の事件では納入業者が神戸製鋼という“大企業”であり、したがって、契約段階において発注者側に“優越的地位の濫用”があったとは思えない。しかし、発注者である親事業者と下請としての納入業者の関係を鑑みれば、多くの取引において、例え必要以上に高い要求であっても受け入れざるを得ない現実があることも否めない。

公正取引委員会によると今年度上半期における下請法違反に関する勧告、指導件数は4098件に達する。内訳は「支払い遅延」55%、ついで「買い叩き」21.5%、「減額」8.8%が上位を占め、下請事業者が被った不利益の原状回復金額は24億円となったという。
ただし、ここで言う「減額」は“下請事業者側の責に帰すべき理由がない”場合の「不当な減額」であって、つまり、そもそも“適正とは言い難い契約条件を満たせなかった”場合の「正当な減額」は含まれない。公正、対等な取引の原点は両者が合意した「契約内容の適正さ」にある。その意味で品質への信頼回復は親事業者と下請事業者、両者のコンプライアンス(倫理・法令順守)そのものにかかっていると言えよう。

2017 / 11 / 17
今週の”ひらめき”視点
行き場を失いつつある既存金融とウルグアイの仮想通貨にみるマネーの将来

大手銀行7グループの中間決算が出揃った。長期化する日銀のマイナス金利を背景に資金貸出による資金利益は7社すべてでマイナス、業務純益のプラスは消費者ローンが好調だった新生銀行と特別配当を計上した三井住友FGの2社のみとなった。メガバンク各行は決算に前後して国内店舗網の縮小、事務作業の効率化による業務量の削減を骨子とした構造改革案を発表、とりわけ「1.9万人」と数値を明示しての人員削減案を打ち出したみずほFGの“覚悟”は既存金融の「稼ぐ力」の後退を象徴する。

フィンテックの波がマネーのサプライチェーンを大きく変えつつある中、既存業界の構造転換は避けられまい。しかし、より本質的な問題は投資の受け皿が世界規模でなくなりつつあるということだ。国内企業の内部留保はこの4年間で100兆円積み増され、400兆円を越えた。米運用会社の資産規模も20兆ドルを突破、過去最高になった。世界の通過供給量は1京円、この10年間で7割増え、世界のGDPを16%上回るという(日経)。こうした中での株高、そして、不動産や仮想通貨相場の高騰。日米欧の金融緩和の限界が見えつつある今、その反動は量的にも質的にもコントロールが難しくなりつつある。

11月3日、ウルグアイの中央銀行がブロックチェーン技術を活用した法定デジタル通貨“eペソ”の試験運用をスタートさせた。中央銀行による仮想通貨の発効は欧州、中国、ロシアなど主要国が計画を表明しているが、人口344万人の南米の小国が世界に先駆けた点が痛快だ。導入の狙いは紙幣の印刷、運搬、警備費用の削減と資金洗浄や脱税の防止など極めてリアル、まさに実体経済そのものとして実験が行われる。そう、フィンテックの効用と可能性はまさにこのようなシンプルな領域にこそあるのかもしれない。

2017 / 11 / 10
今週の”ひらめき”視点
公文書は誰のものか、本質を外したガイドラインに意味はない

政府は公文書管理の厳格化を目指したガイドラインを公表した。新指針は、行政の意思決定プロセスなど国民に対して説明する責務がある文書の保存期間を1年以上と規定し、重要文書の安易な廃棄を防ぐ、とする。一方、職員間の日常的な業務連絡や公表文書の写しといった文書は例外とされ、1年以内の廃棄も認められる。

何も手を打たないよりマシかもしれない。とは言え、新指針でも文書種別の区分けや保存期間に関する判断は当事者である各省の部課に委ねられたままである。実際の運用における懸念はまったく変わらない。むしろ、「厳しくなった新指針」のもとでの運用ゆえに、隠れ蓑は厚さを増したと言えるかもしれない。森友・加計問題への批判をかわすための“アリバイづくり”にも見える。

そもそも公文書とは誰のものであるのか、この本質を踏まえて設計するのであれば、公開・保存の原則、重要性判断に際しての非当事者の介在、第3者機関による検証、および、罰則規定は不可欠の要件である。
昨年、米大統領選に敗れたヒラリー・クリントン氏の私用メール問題とは一体何であったのか。それは、「政府高官が公務で交わした通信、書簡はすべてアメリカ国民のものであり、ゆえに将来の公開を前提に保存しなければならない」という連邦記録法に対する違反が問われたのである。原則に立ち返った議論を期待したい。

2017 / 11 / 03
今週の”ひらめき”視点
“高等教育の無償化”議論を大学再編の契機に

“消費増税の使途変更”を問うた衆院選で、各党はそれぞれの「教育の無償化」を公約に掲げた。家庭環境や貧困によって進学を諦めざるを得ない子どもたちに社会が手を差し伸べることに異論はない。給付型奨学金の拡充も実現したい。しかし、誰もがタダで大学に通えることが望ましい税金の使途ではあるまい。
大学教育における根本的な問題は供給過剰による選抜機能の形骸化、教育品質の低下、そして、研究基盤の脆弱さ、にある。

基礎科学の国際競争力は“主要6カ国のTOP10%論文シェア”(科学技術振興機構)が参考になるが、この20年間で日本は競争力を大きく後退させた。日本は材料科学分野で▲8ポイント、物理学でも▲3ポイントのシェアダウン、一方、中国は材料で+30ポイント、物理で+19ポイントとシェアを向上させている。日本も数学・コンピュータ分野では+0.4ポイントと健闘したが中国の伸び率+20ポイントには及ばない。結果、2015年におけるこれら3分野における中国の論文数は日本の6.6倍、3倍、5倍となっており、基礎科学における日本のプレゼンス低下は明らかである。

産学連携の推進、知財の民間活用も重要だ。とは言え、短期的な成果への偏重はむしろイノベーションの芽を摘みかねない。教育機関としての役割と研究機関としてのビジョンを明確にしたうえで、長期的な視点に立って十分かつ適切な予算を配分すべきである。そのためには社会資本としての大学の再定義と研究活動の公正な評価システムの導入が不可欠である。

2017 / 10 / 27
今週の”ひらめき”視点
自動運転実験、地方ではじまる。新たな人の流れを作り出すための戦略視点が求められる

今回の衆院選挙を一言で表現すると“消極的に選択された現状維持”と言えよう。自民党の獲得議席数は解散前と同数であった。とは言え、有権者にそれを選択させた野党側のドタバタが、結果的に「政策選択にもとづく政権選択」への道を開いたのであれば、解散の意味はあった、とも言える。

さて、選挙戦では多くの候補者が地方創生を公約の一つに掲げた。しかし、いずれも総論に終始し、具体的な政策論争には発展しなかった。
一方、東京では報道されることが少なかったがこの9月から国土交通省による中山間地域における自動運転の実証実験が全国13箇所ではじまっている。これは“道の駅”を拠点とした自動運転サービスの実証実験で、2020年までに社会実装することを目指している。
東京近県では9月2日から栃木市の道の駅“にしかた“を拠点に実験がスタート、山形県では廃線になった旧高畑鉄道の線路跡を活用、道の駅“たかはた”を拠点に町の中心部やJR高畑駅など市内の要所を結ぶ実験が行われる。

これらの取り組みは技術の高度化はもちろん、中山間地域や過疎に暮らす交通弱者対策という意味において重要である。しかし、過疎に住む高齢者を病院や商業施設に連れ出すだけでは地方の活性化は実現しない。単に“不便さの解消”が目指されるのであれば、いずれまた行政コストの問題が浮き彫りになる。
拡散した生活の場を単につなぐための手段ではなく、新たな事業を創出し、地域の求心力を再生するためのイノベーションツールとしての自動運転サービスを期待したい。大きな視座をもったオペレーターの登場が望まれる。

2017 / 10 / 20
今週の”ひらめき”視点
神戸製鋼問題、不正が容認される“思い上がり”の一掃が信頼回復の第1歩

アルミ・銅製品のデータ改ざんに端を発した神戸製鋼の品質問題は主力事業の鉄鋼製品からコベルコ科研、日本高周波鋼業、神鋼銅線ステンレスなどグループ全体へ広がるとともに、それが40年以上にわたっての組織的な不正であったことが露呈した。
納入先は500社以上、自動車、新幹線からMRJやH2Aロケットまで“ジャパンブランド”を象徴する製品とメーカーの信頼が揺らぐ。

経営トップの関与は不明である。しかし、この背景には恐らく自社の技術に対する過剰な自信と驕りがあって、それが“品質検査”、言い換えれば、“顧客”を舐めてかかる企業体質をつくってきたと言える。それこそ神鋼グループ全事業所に通底する企業文化であり、問題の本質はここにあると言っていいだろう。よって、これを主導した歴代トップの責任は大きい。

記者会見で経営陣は、「納入先には個別に説明し安全性に問題がないことを確認した。また、法令違反はなかったので公表の必要はないと判断した」と語った。つまり、法令上の問題はなく、安全性にも影響はない、当事者間の話し合いで解決済み、との主張である。百歩譲って、一昔前の日本企業同士であればそれで済んだかもしれない(そんなはずはないと思うが、、、)。しかし、GM、フォード、ボーイングといった米国企業も彼らの納入先だ。事態を受けて米司法当局も捜査に動き出した。神戸製鋼にとって問題はまだ始まったばかりということである。