
米の金利上昇を背景とした株安が世界に連鎖した。6日は落ち着きを取り戻したものの、米欧中央銀行による金融緩和の“終わり”が意識される中、株式市場の安定が揺らぐ。
そもそものきっかけは先週末に発表された米雇用統計。雇用改善と賃金上昇の大きさが利上げ観測を強めた。株式市場では“高値圏にある株価の調整局面”との反応が大勢であるが、インフレ懸念が取り沙汰される中で金融政策の“正常化”が加速するとの観測が強まる。
リーマンショック以降、各国は財政出動で景気を下支え、中央銀行は国債の購入等を通じてこれを後押しした。政府債務が膨張する中、低金利が維持されてきたのは各国が金融緩和で足並みを揃えてきたからに他ならない。
しかし、米FRBは2015年にはゼロ金利政策を解除、2017年には保有資産の縮小に転じた。欧州中央銀行も“正常化”のタイミングを模索する。
トランプ政権は大型減税とインフラ投資による成長を目指す。7日、米上院は2018年、2019年の歳出上限を3千億ドル引き上げることで合意した。長期金利の上昇圧力はもう一段増すだろう。
一方、日本は2013年の4月に公約した目標(=2年程度内に2%の物価成長を実現する)を未だ先送りしたままである。金融を取り巻く世界情勢が変化しつつある中、“正常化”への道筋は見えない。

30日、米フェイスブックは仮想通貨の売買、仮想通貨を使った資金調達(ICO)、バイナリーオプションに関する広告を全世界で禁止すると発表した。子会社のインスタグラムにも適用される。
同社はこうした広告の多くが「誤解や虚偽を含んでおり、誠実に運営されていない」と判断、将来、これらが社会問題化した際に“フェイスブックが詐欺的行為を助長した”との批判を回避することが狙い。
その数日前、日本ではコインチェック社を舞台に仮想通貨の巨額流出が発覚した。事件の全容はいずれ金融庁や捜査当局によって解明されるだろう。とは言え、事件後に明らかになったセキュリティ体制の杜撰さを見る限り少なくとも原因の一端が経営陣の“不誠実さ”にあったことは否めない。不正アクセスの実行犯はもちろん、同社の経営姿勢そのものが“反社会的”であったと言える。
国家からの制約を受けないネット上の仮想通貨は、“投資”という側面に脚光があたればあたるほど、投機的なヒトとマネーを呼び込む。4年前のマウントゴックス事件では、口座残高の水増し、顧客資産の着服など経営者の“業務上横領”が問われた。その記憶も新しい中での今回の事件は当局そして社会に“これ以上は見過ごせない”という流れを一気に加速させるだろう。
信用創造の新たな可能性が狭まるとすれば残念だ。しかし、テクノロジーとビジネスモデルの進化に委ねるだけでは解決しない。仮想通貨は単に通貨取引に似せた架空の投機商品に過ぎないのか。経済的、政治的、文化的な文脈において“通貨”としてのリアルな思想を社会の側からも問い直すべき時期にある。

約8年におよぶ協議と米国離脱に伴う混乱を経て、23日、11カ国によるTPPが決着した。署名式は3月8日にチリで開催、2019年の発効を目指す。
過度なグローバリズムに対する世界的な反動の中、高いレベルの多国間自由貿易協定が、アジア太平洋地域で新たに合意されたことの意義は大きい。
米国の離脱は、“世界のGDPの4割を占めるメガ経済圏構想”を同12.9%へとスケールダウンさせた。結果、東アジア地域包括的連携(RCEP)を主導したい中国に対する牽制力は弱まった。その通りである。しかし、TPPの政治的戦略性が薄まったことは、むしろ、純粋に今後の多国間貿易協定のモデルとしての価値が高まったとも言える。
TPP11ではオリジナルTPPのうち22項目が凍結された。言い換えるなら「米国から各国が迫られた不本意な妥協が解消された」ということである。自由貿易協定は大国の利を正当化するためのものではない。その意味において、自国文化の多様性保護を根拠にカナダが要求した「文化例外」が認められたことを“前進”と評価したい。
経済規模の小さい国、産業構造が偏った国、成長途上にある国、こうした国々の成長にTPPはどう貢献できるのか。日本の役割はこの視点に立ってTPPを主導すること、そして、RCEPも視野にこのプラットフォームを柔軟に運用、発展させてゆくことにある。政府は「米国の早期復帰を促したい」とする。しかし、自国主義に閉じるトランプ氏率いる米国の参加は期待できないし、また、その必要もない。

18日、JAXAは小型ロケット「EPSILON3号機」の打ち上げに成功した。同機の打ち上げ費用は日本の基幹ロケット「H2A」の半分以下の45億円、1、2号機に続く成功は小型衛星の商業打ち上げ市場への参入可能性を開く。
搭載された衛星はNECの地球観測衛星「ASNARO2」、高性能小型レーダーにより気象条件や昼夜を問わず地上を観測、撮影できるという。
今回のミッションで注目すべきは、NECが衛星メーカーとしてのポジションから宇宙利用サービス事業者への第一歩を踏み出した点にある。同社は「ASNARO2」の打ち上げに際し、衛星の自主運用拠点となる「NEC衛星オペレーションセンター」を新設、システムの運用から画像やデータの配信サービスを一貫して行うこと、今後3年間で宇宙ソリューション事業を50億円規模に育てることを発表した。
日本の宇宙産業の市場規模は年間1兆2千億円、政府は“2030年代には現在の2倍規模に拡大”との目標を掲げている。先行する米、欧、露、中、印と渡り合うにはロケットや衛星といった機器開発や打ち上げサービスなどのハード分野はもちろんであるが、ソフト分野、すなわち宇宙利用サービス市場における事業創出力の強化が鍵となる。NECの戦略はこうした流れの中で評価されるべきであり、この意味において宇宙ゴミ対策に取り組む「アストロスケール」や通信衛星アンテナのシェアリングを目指す「インフォステラ」など高度なビジネス構想力をもったベンチャーの台頭、成長に期待したい。

世界最大級の家電見本市「CES」が開幕した。既に「家電」の領域を超えて久しいCESであるが、とりわけ、今年は大手自動車メーカー各社による「脱メーカー化」の戦略が注目を集めた。
トヨタは移動、物流、物販など多様な用途に対応した低床・箱型電気自動車“e-パレットコンセプト”を発表、アマゾン、ウーバー、滴滴出行、ピザハット、マツダとアライアンスを形成し実証実験を開始する。
フォードもクラウドを活用したスマートシティ構想(=TMC、Transit Mobility Cloud)を発表、多様なサービスベンダーと都市インフラをネットワーク化した新たな“移動”サービスを提案した。
会見で豊田章男社長は「トヨタをクルマの会社から“モビリティ”の会社へ変える」と語り、フォードのハケットCEOも「すべての人々に新たな自由を」との創業者ヘンリー・フォードの言葉を引用しつつ、「クルマを売るためにCESに来たわけではない」とモビリティ・サービス企業への業態転換を宣言した。
こうしたビジネスモデルの中にあって自動車はネットワークを構成する一端末に過ぎない。よって付加価値に占める製造業のシェア低下は避けられず、やがて、そのモバイル・サービスプロバイダー群もビッグデータを独占するAIプラットフォーマーの下位におかれることとなるだろう。
ネットワークのハブの“座”はただ1つ、競争は熾烈を極める。

ファーストリテイリング傘下のユニクロは「2018年度中にエチオピアで生産を開始、欧米向けの輸出拠点とする」との方針を発表した。エチオピアはアフリカの中でも賃金水準が低く、地理的に欧州に近く、また、米国向けには関税がかからないことが進出の理由。
2016年、エチオピアは製造業を軸とした経済政策「成長と構造改革プラン2016-2020」(GTPⅡ)を策定、繊維産業はその優先業種に位置づけられる。ユニクロのライバルH&Mも既に現地で生産を開始しており、また、中国の繊維関連企業の進出も相次いでいる。その意味で産業基盤は整備されており、進出拠点として適切な経営判断であったと言える。
労働集約型の繊維産業は、それゆえに誰よりも早く、より人件費が安い地域へ移転してゆく。ユニクロもまた中国、ベトナム、インドネシア、バングラデシュ、、、と新たな低賃金国を開拓してきた。そして、“最後のフロンティア”、アフリカに到達した。つまり、いよいよその終着駅が近づいてきたということであり、言い換えれば旧来型ファストファッションビジネスの限界が見えてきたと言うことだ。
26日、衣料品ECサイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイは年内に予定していたプライベートブランドの発売を見送ると発表した。無料配布中の採寸ボディスーツの生産が間に合わないことが要因である。当面は試行錯誤が続くのであろう。しかし、サプライチェーンの質的な構造変化を伴うイノベーションへの挑戦は、例え規模の次元が異なるとしても、常に新たな最貧国を求め続けるビジネスモデルよりエキサイティングであり、可能性は大きい。