今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2017 / 06 / 02
今週の"ひらめき"視点
未来投資戦略、“サンドボックス制度”の成否は運用力に

30日、政府は未来投資会議を開催、「未来投資戦略2017」の原案を発表した。AIやITなど高度先端技術の実用化を目指し、「移動革命、健康寿命、サプライチェーン、インフラ・まちづくり、フィンテック」の5分野を戦略テーマに設定した。トラックの隊列走行の商業化、無人自動走行の実現、都市部でのドローンによる配達サービス、医療・介護データの一元管理、介護ロボットの導入促進、、、などを通じて、次世代スマート社会「ソサイティ5.0」の実現を目指す。

最大の目玉は、“サンドボックス(砂場)制度”の創設だ。これは企業サイドからの創造的な事業提案に対して関係機関が関連法令を一時的に凍結し、事業の実証実験を行う制度である。特定の地域ではなく特定の事業のみを対象とするという意味で“プロジェクト型特区”とも言えよう。
社会に深く根付いた既得権を前に規制改革は遅々として進まない。こうした状況にあって、柔軟さとスピードという点からもプロジェクト単位での「特区指定」は有効であろう。

一方、課題は“運用”にある。事業選定における透明性と公平性をどう担保するのか。個別事業の創造性、成長性、産業や社会への波及効果、そして、成果を誰がどのような基準にもとづき判断するのか。ここに不安や懸念が残るようでは特区の公益性は揺らぐ。少なくとも最高レベルの説明責任と最低限の品性を有する人物たちに判断を託したい。

2017 / 05 / 26
今週の"ひらめき"視点
商工中金の不正問題にみる中小企業金融の課題と可能性

政府系金融機関の商工中金が国の制度融資で不正を行っていた問題で、金融庁は、24日、本店などへの立ち入り検査を実施した。不正の背景や経営陣の関与の有無などを調べ、原因の解明を図る。
不正の内容は大きく2つ、①制度金融を必要としない企業に数字を改ざんして貸し出した、②経営不振など他の事由による資金需要に制度金融の枠組みを当てはめた、ということである。一言で言えば、ノルマに追われた職員や支店が自分の業績アップのために制度金融を不正に利用した、ということである。
ただ、問題の背景には制度金融における手続きの不透明さと本当に支援を必要とする企業にとっての“使い勝手の悪さ”がある。災害など一時的かつ急激な外部環境変化を受け止める余力は中小企業にはない。したがって、公的なセーフティネットの意義は大きい。とは言え、運用方法も含めて制度自身が曲がり角にきているとも言える。

一方、中小企業金融の主役は地銀、信金、信組といった地域金融であり、会員出資による非営利組織である信金が担う役割は大きい。しかし、その信金の平均預貸率は50%にとどまる(2016年3月)。気仙沼、石巻、あぶくま、など東日本大震災被災地域の信金が平均を下回るのは“貸し出し先が戻らない”ことが要因であろう。止むを得まい。ただ、まさに制度金融の対象であるこうしたエリアを除けば、地域のお金を地域へ再投資する役割を担う信金の預貸率が5割では物足りない。
トップは西武信金で76%、その西武信金はこの4月から“ららぽーと立川立飛”に100㎡の売場面積を借り、将来性の高い融資先に対して低負担で出店機会を提供する事業をスタートさせた。
今、地域金融に求められるのは、地域金融自らが汗をかいて“貸せる会社”を創り出し、それを長期的なスタンスにたって支援、育成することにある。貸し出しリスクのない会社など限りがある。新たな資金需要の創出に自らが当事者として参画してゆかない限り、自らが再編の対象となるリスクを背負うことになる。

2017 / 05 / 19
今週の"ひらめき"視点
東芝、“独りよがりの楽観”に再建が揺らぐ

15日、東芝は監査法人からの「意見表明」のない2017年3月期決算を発表、当期連結赤字は9500億円、株主資本ベースで5400億円の債務超過となった。
2016年12月時点で既に債務超過であった東芝は8月には東証1部から2部へ降格、そして、2018年3月期に債務超過を解消していなければ上場廃止となる。
これを回避するための唯一の施策が事業価値2兆円と評される半導体メモリー事業の売却である。しかし、今、この「切り札」に暗雲が立ち込める。メモリー事業で東芝と業務提携関係にあり、四日市事業所を共同運営するウェスタンデジタル社(WD)が合弁契約違反を根拠に売却の差し止めを国際仲裁裁判所に申し立てた。

東芝は「契約には抵触しない。規定どおり売却を進める」との立場であるが、そもそも想定されたはずのリスクであり、WD側との踏み込んだ事前交渉がなかったとすればあまりにも杜撰であると言わざるを得ない。
国際仲裁裁判所の法的手続きは半年では決着しない。このタイミングでの法的措置は交渉を有利に展開したいWDの“高等戦術”との見方もあるが、いずれにせよ当初の日程に影響が出ることは避けられまい。そして、それはそのまま上場廃止の危機に直結する。
自分勝手な見通しと都合の良い解釈で事態を判断し、自己を正当化しつつ問題を先送るガバナンス不在の経営、これが東芝破綻の原点であったはずだ。居丈高な経営体質は何ら変わっていない。

2017 / 05 / 12
今週の"ひらめき"視点
2つの大統領選とグローバル経済の行方、日本は“開かれたアジア”に活路を

単一通貨とシェンゲン協定を支持し、“欧州は公約の中心である”と表明したマクロン氏と“反グローバリズム”を掲げたルペン氏で争われた仏大統領選は、マクロン氏が勝利した。「極右政権の実現を拒否した仏国民の消極的選択」との指摘もあるが、それでも“EUの理想”は踏みとどまった。
一方、“反朴槿恵”を競いあった韓国は革新系の文在寅(ムン・ジェイン)氏が圧勝、当選後の演説では「国民すべての大統領になり、公正な国を実現する」と国民に呼びかけた。ただ、反財閥、反日強硬路線だけでは経済も外交も立ち行くまい。「親北」と言われる政治スタンスも現実の脅威と米中に挟まれた地政学的条件の中で、どこにどう活路を見出すのか現時点では見えてこない。東アジア情勢、とりわけ、日韓関係に不透明感が募る。

そうした中、東レはいち早く「韓国事業の拡大方針に変更はない」ことを表明した。この言葉は所謂“政冷経熱”に対する期待や希望などではあるまい。グローバル経済の中で戦い続けることへの東レの決意であると受け止めたい。
日本もまた国際社会の中でしか存続しえない。ましてやアジア新興国の成長を取り込むことを国の成長戦略と位置づけている以上、特定国家間の対立を越えた次元でグローバル化を主導する義務がある。
各国が内向きになりつつある今、とりわけ自国利益を強権的に主張する米中にあって、それらと一線を画す新たな自由経済の枠組みを主導するチャンスである。そして、それこそ外交上のプレゼンスを高める近道となるはずだ。“米抜きTPP”の戦略的可能性は大きい。

2017 / 05 / 05
今週の"ひらめき"視点
トランプ大統領就任100日、一貫性なき戦略性が世界を攪乱する

4月29日、トランプ氏は大統領就任から100日目を迎えた。「100日目などまやかしの基準」とメディアを批判する一方、自らを“100日間でもっとも成功した大統領”と自賛した。
イスラム圏からの入国制限に関する大統領令は連邦裁判所に差し止められ、メキシコ国境の壁も予算計上を断念、オバマケア改廃法案も撤回した。貿易面ではTPP離脱は実現したもののNAFTAについては協定維持へ転換、中国に対してもトーンダウン、民間企業を名指ししての恫喝では成果を挙げたが、不均衡の是正、製造業の米国回帰を彼の支持者に実感させるには至っていない。
突然のシリア攻撃と北朝鮮問題への介入は“中国への牽制と取り込み”が狙いであり、トランプ氏の高い戦略性を示すものとの評がある一方、思い通りにならない内政を背景とした前政権へのコンプレックスの表出とも見える。いずれにしても突然現れた“切迫した危機”は米国、北朝鮮それぞれの内に向けての大義を正当化するとともに世界に危機の共有を求める。

支持42%、不支持53%という分断の中、42%に向けての成果を焦るトランプ氏の米国に組み込まれた日本はどこへ向かうのか。
ミサイル発射の報を受けた東京メトロは運転を停止し、海上自衛隊に初の米艦防護の命令が発せられ、政府は改憲へ踏み出すことを宣言する。危機が日常化されてゆく中、対立と分断もまた拡散する。今、世界は確実に流動化しつつある。

2017 / 04 / 28
今週の"ひらめき"視点
準天頂衛星みちびき2号機、打ち上げまで後34日

2017年度、日本のロケットの打ち上げ数が過去最多の8機を数える見通しになった。「超小型」から「大型」まで日本が保有する全機種の発射体制が整ったことと日本版GPS「準天頂衛星システム」の整備時期が重なったことが要因。位置情報や地上画像を提供する衛星ビジネスへの期待は高く、政府も宇宙ビジネスの本格的な支援施策の検討に入る。

わが国の宇宙関係予算はここ数年増加傾向にあるとは言え、概ね3千億円台の半ばあたりに止まっている。国の財政事情を鑑みれば当然であろう。とは言え、H2A、イプシロン、民生技術の活用による低コスト化を目指すSS-520など、日本の技術レベルは格段に高まっている。熾烈な国際競争を勝ち抜くためにも、政府予算とは別に民間投資の大きな流れを作り出すことが求められる。
一方、とかく「打ち上げ」産業が注目される宇宙ビジネスであるが、本来の主役は衛星等を活用するユーザー産業である。自動車の自動走行、ドローンの制御、IT農業機械の自動運転、遠隔医療、災害対策など、応用領域は広い。その意味で来年度から4機体制で運用される準天頂衛星システムの社会インフラとしての価値は高く、アジア・オセアニア全域をカバーすることの意義は大きい。
民間投資を活発化させるためには潜在市場の「規模」化は絶対条件であり、国境を越えた技術成果のオープン化が求められる。国が主導することの意義はここにあると言え、豪州やインドネシアとの一体的、戦略的な技術協力に期待したい。

25日、米ウーバーは2020年を目処に「空飛ぶタクシー」の試験飛行を目指すと発表した。センチメートル単位での測位が可能な準天頂衛星はまさに最適なインフラとなるはずだ。政府は準天頂衛星のカバーエリア全域を「空飛ぶタクシー」のための研究開発特区とし、世界中のベンチャーに無償開放するぐらいの大胆さがあっても良いだろう。そのぐらいであってはじめて日本の宇宙ビジネスも世界中の民間資金を引きつけることが可能となる。