日本の農業向け融資残高は約4兆円、JAバンクと政府系金融で約8割を占める。こうした中、民間金融はあくまでも脇役に過ぎなかったと言えるが、ここへきてようやく民間のプレゼンスも拡大してきたようだ。日銀統計によると2017年3月末の農林業向け貸出残高は6934億円、5年前に比べると金額ベースで2割増、件数ベースで3割増となった。
また、メガバンクによるファンド設立や農業法人に対する直接出資などエクイティ投資も活発化してきた。しかし、こちらもまた農水省主導の官民ファンド「株式会社農林漁業成長産業化支援機構」(以下、A-FIVE)が主役を担う。現在、A-FIVEの設立ファンド数は48、コミットメント総額は695億円(うちA-FIVEが347.5億円)、サブファンドを介して出資した6次産業化事業体は113社、投資金額は68.9億円(A-FIVE出資分は34.4億円)に達する。
一方、A-FIVEの出資スキームには課題も多い。従来、日本の農業政策は「守り」が中心であり、かねてから指摘されてきたA-FIVEの使い勝手の悪さは農林水産事業者の権利に過度に配慮した出資比率条件によるところが大きい。せっかくの有望事業も生産者の資金不足ゆえに十分な資本を準備することが出来ず、結果的に「小さなビジネス」にならざるを得ないケースが散見された。
A-FIVEはサブファンドの議決権引き上げ、資本性劣後ローン、無議決権株式の活用などで資本そのものの規模を拡大出来るよう制度の改善をはかってきたが、ビジネスデューデリジェンスの透明性、決裁スピード、事業化支援といった実務レベルにおいてまだまだ十分とは言い難く、出資に際しての形式基準も改善の余地は大きい。
とは言え、「攻める」ためのリスクマネーの供給はA-FIVEではなく、むしろ、民間に期待すべきところかもしれない。
日本農業のクオリティ、成長ポテンシャルの高さに異論はあるまい。官と民の資金供給機能の役割と戦略を明確にしたうえで、資金需要に応じた柔軟なファイナンス体制を構築していただきたい。農業はAI、ビッグデータ、IoTといった先端技術の応用分野としても注目される。その意味でも民間金融セクターにとって大きな事業機会となるはずだ。