今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2017 / 09 / 01
今週の"ひらめき"視点
かつて“グレーゾーン金利”が貸金業を追い込んだ。遊技業界に未来はあるか?

パチンコ・パチスロ遊技機工業組合傘下のパチンコ依存症問題研究会は、「全国で90万人、直近1年内で40万人がパチンコ・パチスロを原因とする“遊技障害”と推定される」と発表した。“遊技障害”は日常生活に表れる思考や行動など27項目について同研究会が独自に数値化し、判定したもの。預貯金残高、多重債務等の金融事故暦、離婚暦などにおいて障害者特有の傾向が見られるという。

2013年の厚労省調査によると“ギャンブル依存症”は成人人口比で4.8%、約536万人と推計された。しかし、これらの数字を比較して、「多い少ない」を論じることに意味はない。
29日、政府はギャンブル依存症対策として競馬場等の公営競技場におけるATMの撤去、パチンコの出玉上限を現行の約2/3に抑えるなどの対策をとりまとめた。とは言え、やはりそこが問題の本質ではあるまい。

与党はこの秋の臨時国会にIR実施法案を提出する予定である。合法カジノの在り方に関する議論が進めば進むほど現行パチンコ・パチスロ産業の矛盾(=グレーゾーン)が浮き彫りになる。
「景品換金利権に絡む反社会勢力の排除」という治安対策上の要請から生み出された“三店方式”の大義は既に失われているし、適法性に関する法的論争ももはや不毛である。
国民の誰もが気づいている根本的な矛盾の解消こそ最良の“遊技障害”対策であり、同時に業界再興に向けての唯一の、そして、最後のチャンスとなる。

2017 / 08 / 25
今週の"ひらめき"視点
産学連携への助成制度を拡充。透明性の確保が成功の鍵

政府は、地方大学と首都圏大学との単位互換制度の導入を促すとともに、地方の特性にあわせた学部を新設することで地域経済、地域産業との連携を強化、地方の活性化につなげる。国はこれらの具体化を支援すべく新たな交付金制度を設置、2018年度予算に数十億円から100億円程度の予算を盛り込む。
また、文科省は産学連携プロジェクトの活性化をはかるべく「オープンイノベーション機構」(仮称)を新設、民間のプロ人材を確保できるよう現行教員の2倍以上の高額報酬を支払えるよう新たな助成金を設ける。2018年度は概算要求で15億円程度、旧帝国大を中心に年間2億円を5年間支給できるよう制度を整える。

地方と首都圏の交流に異論はないし、産学の連携強化は産学双方の国際競争力を高めるうえでも有効である。とは言え、文科省は既に「官民イノベーションプログラム」による国立大学向けのファンドを運営しているし、産学連携については経産省をはじめとする公的セクターから個々の大学が独自に運営する助成事業に至るまで多種多様な支援制度が用意されている。もちろん、それぞれの制度にはそれぞれの目的と背景があり、また、多面的なサポート体制の必要性を否定するものではない。
しかし、公的資金が投入される以上、個々のプロジェクトの成果検証は必須であり、加えて、制度そのものの意義と役割も常に再評価されなければならない。
形骸化したミッション、既得権化された制度、硬直化した制度体系から自由な発想にもとづく大胆な投資など期待できない。そうならないためにも、まずは現行制度全体の洗い替え、そして、情報公開の徹底をお願いしたい。

2017 / 08 / 18
今週の"ひらめき"視点
米中、それぞれの“自国ファースト”が市場経済を脅かす

17日付けの日経によると、中国上場企業の約1割、288社が共産党による経営介入を容認すべく定款を書き換えたという。具体的には社内に党組織を設置し、重大事項については党組織の意向を踏まえるといった内容。権力基盤の絶対的強化を進める習近平指導部に対する過剰な忖度であるのか、あるいは、生き残るための強かな知恵であるのか、実態は不明である。確かなことは企業が共産党の支配下に置かれることを名実ともに受け入れたということである。

はたして企業はどこまで“政治的”に利用されるのか、現時点では分からない。とは言え、企業活動に対する直接的な統制は外資を遠ざけるはずであり、現在の情勢を鑑みれば“経済的”には得策とは言えまい。とすれば、政治的な意味における統制の必要性、言い換えれば、社会の分断が想像以上に大きくなっているということか。香港やSNSに対する尋常でない統制の強化は否が応でもそれを予感させる。
もう一つの大国、米国の分断も危機的な状況にある。人種差別事件に対するトランプ氏の対応は米国を代表する多くの企業によって否定された。しかし、そうした中にあっても、名指して企業を批判し、あるいは、要求する権力による直接介入は続く。

習氏、トランプ氏、権力構造は異なるものの共通するのは極端な“自分ファースト”主義である。米国は北朝鮮問題への中国の取り組みを非難、通商法301条をかざして経済的な脅しをかける。一方の中国はこの6月末に米国債の最大保有国に返り咲いた。いずれ債権者としての立場を米国との交渉に持ち込むかもしれない。今、米中による“政治的取引”の応酬が世界の市場経済にとっての最大リスクとなりつつある。

2017 / 08 / 11
今週の"ひらめき"視点
民間からの投資拡大に期待、産業としての日本農業の可能性は大きい

日本の農業向け融資残高は約4兆円、JAバンクと政府系金融で約8割を占める。こうした中、民間金融はあくまでも脇役に過ぎなかったと言えるが、ここへきてようやく民間のプレゼンスも拡大してきたようだ。日銀統計によると2017年3月末の農林業向け貸出残高は6934億円、5年前に比べると金額ベースで2割増、件数ベースで3割増となった。
また、メガバンクによるファンド設立や農業法人に対する直接出資などエクイティ投資も活発化してきた。しかし、こちらもまた農水省主導の官民ファンド「株式会社農林漁業成長産業化支援機構」(以下、A-FIVE)が主役を担う。現在、A-FIVEの設立ファンド数は48、コミットメント総額は695億円(うちA-FIVEが347.5億円)、サブファンドを介して出資した6次産業化事業体は113社、投資金額は68.9億円(A-FIVE出資分は34.4億円)に達する。

一方、A-FIVEの出資スキームには課題も多い。従来、日本の農業政策は「守り」が中心であり、かねてから指摘されてきたA-FIVEの使い勝手の悪さは農林水産事業者の権利に過度に配慮した出資比率条件によるところが大きい。せっかくの有望事業も生産者の資金不足ゆえに十分な資本を準備することが出来ず、結果的に「小さなビジネス」にならざるを得ないケースが散見された。
A-FIVEはサブファンドの議決権引き上げ、資本性劣後ローン、無議決権株式の活用などで資本そのものの規模を拡大出来るよう制度の改善をはかってきたが、ビジネスデューデリジェンスの透明性、決裁スピード、事業化支援といった実務レベルにおいてまだまだ十分とは言い難く、出資に際しての形式基準も改善の余地は大きい。

とは言え、「攻める」ためのリスクマネーの供給はA-FIVEではなく、むしろ、民間に期待すべきところかもしれない。
日本農業のクオリティ、成長ポテンシャルの高さに異論はあるまい。官と民の資金供給機能の役割と戦略を明確にしたうえで、資金需要に応じた柔軟なファイナンス体制を構築していただきたい。農業はAI、ビッグデータ、IoTといった先端技術の応用分野としても注目される。その意味でも民間金融セクターにとって大きな事業機会となるはずだ。

2017 / 08 / 04
今週の"ひらめき"視点
“真珠の首飾り戦略”に潜む危うさ、覇権主義はコストに見合わない

スリランカ南部のハンバントタ港の運営権が99年間にわたり中国に譲渡されることが正式に決まった。
「中国による植民地化」に対する国民の反感や周辺国からの懸念もあり、港湾警備の権限は最終的に中国側ではなくスリランカ政府へ変更されたが、港は実質的に中国政府の管轄下に入る。「一帯一路」構想の実現に向けて、また、南アジアからアフリカ東海岸を見据えたインド洋の要衝として同港の戦略的価値は大きく、海洋進出を国策とする中国にとって大きな成果と言える。
2010年、スリランカ政府は中国から建設費用の85%を借款して同港の建設に着手する。しかし、建設を請け負ったのは地元企業ではなく中国の国有企業、そのうえ開港後の利用率は計画を大きく下回り、結果的に巨額債務が残った。債務不履行の危機を見透かした中国は債務免除と引き換えに運営権を要求、労せずして同港を手中に収めた。危機はここだけではない。スリランカではマッタラ国際空港も同様の状況にある。建設費200億円の9割を中国から借り入れ、建設はやはり中国企業が受注、2013年に開業したものの定期便は1日1便程度、平均利用客も1日数十人程度という。

同港の事例が「仕組まれた罠」であったかは不明である。ただ、中国から資金を受け入れたアフリカ、中南米、アジア新興国の多くは政治的にも財政的にも不安定な状況にあり、したがって、債権者たる中国の戦略的優位は揺るがない。とは言え、その中国もまた自身の財政リスクが顕在化しつつある。人民元の国際化を標榜し海外進出、金融規制緩和を進めてきた中国であるが昨年以降、政策を反転させる。対外貸付や対外直接投資を制限するとともに外貨建て債務の繰上げ返済の禁止など人民元の海外流出を押さえ込む。
外部の拡大と統制強化による成長の維持は膨大な資金と政治的エネルギーを要する。言い換えれば、自滅と対立の可能性を伴う戦略であり、今、リスクは拡大しつつある。

2017 / 07 / 28
今週の"ひらめき"視点
優遇関税対象国、拡大へ。“攻め”の対策にこそ資金と知恵を!

財務省は途上国からの特恵関税を先進国や新興国に拡大する方針を固めた。対象は600品目、これにより輸入ルートの多様化が可能となる。関税率が一律になることで中国などからの輸入が欧州や米国などに切り替わる可能性もある。
2019年春、中国、ブラジル、マレーシアなど5カ国に適用してきた特恵関税が撤廃される。特恵関税の対象品目のほとんどはこれら5カ国からの輸入であり、したがって、優遇関税対象国をあらためて拡大することで市場環境の急激な変化を避けることが狙いである。とは言え、今回の決定は自由貿易の基盤強化につながるものであり、健全な競争は消費者利益にも適う。

一方、優遇関税の拡大により国内産業、国内生産者が損害を被らないよう品目選定について適切な配慮がなされるという。7月5日、難産の末ようやく合意にこぎつけた日欧EPAであるが、こちらも早速、国内向けの「対策」が具体化しつつある。2017年度補正予算や2018年度予算を見据えて、農家やメーカーへの助成金、所得補てんなどの支援策が議論の遡上に上る。また、2016年2月、12カ国によって署名されたTPPでは6500億円の対策費が計上された。トランプ政権によって米国の離脱が決まった今、米国産農畜産品の市場流入に対する懸念は遠のいたはずだ。しかし、補助金は既に執行段階にあるという。
自由貿易=国内産業の敗退、ではない。国内産業向けに国が取り組むべきは、“戦うための後方支援”であり、世界と戦うための対等な条件整備である。そうあってはじめて国内産業の健全な成長が可能となる。