今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2017 / 03 / 10
今週の"ひらめき"視点
高度な価値を適切な対価で取引するマーケットの創造こそ、最良のデフレ対策となる

労働需給がタイトになる中、小売業界も営業時間の短縮に動き出した。阪急阪神百貨店、イオングループ、ルミネなど大手流通や有力商業ディベロッパーが平日の閉店時間を30分から1時間程度早める。人手不足を背景とした営業時間の見直しは外食産業が先行してきたが、ここへきて小売も追随する。

売上効率に対応した営業時間の短縮に異論はない。働き方改革という時代の要請もある。しかしながら、プレミアムフライデーに象徴されるように「残業時間を減らし、平日の終業時間を早めることで消費の活性化をはかる」ことが政策の流れである。都市部の小売事業者にとってはむしろチャンスであって、横並びの時短が結果的に消費機会を奪うのでは本末転倒である。ECへと購買行動が流れるのは当然である。一方、そのECもまた物流業界の人手不足が成長の足かせになりつつある。

とは言え、原因を人手不足にのみ帰すことは出来ない。そもそも「売れない」のは営業時間帯の問題ではあるまいが、遅い時間帯の通常営業や指定時間配送といった高質なサービスが当然のごとく無償で提供され続けてきたこと、逆に言えば、便益に相応の対価を提案できないほど差別化要件を失ったサプライサイドの劣化を指摘したい。
1人当り生産性を高め、国全体の成熟度を維持するためにも本来的な価値の問い直しが必須である。製品やサービスの不断のイノベーション、そして、それを正当な対価をもって受容する創造的な市場への脱皮が急がれる。

2017 / 03 / 03
今週の"ひらめき"視点
アジアのインフラ需要拡大、一方、資金不足への対応が急務

28日、アジア開発銀行(ADB)は2030年までにアジア、太平洋地域の新興国のインフラ開発に22.6兆ドル(2600兆円)、気候変動に伴う関連投資を加えると総額で26兆ドル(3000兆円)の資金が必要であると発表した。年間ベースに換算すると1.7兆億ドル、これは2009年時点の見通し比で約2.3倍、アジア新興国の順調な経済成長がインフラ需要を押し上げる。

一方、総需要に対する実際の投資額は年間8810億ドル程度にとどまっており、2016年から2020年までの5年間で中国を除く24カ国のGDP比5%分の資金が不足すると見込まれる。2015年にはADBが100億ドル、世界銀行が66億ドル、国際金融公社が32億ドルを支援、2016年に中国主導のアジアインフラ投資銀行が設立されたものの初年度の融資額は17億ドルにとどまっており、絶対的な資金不足は明らかである。
ADBは、新興国に対して財政改革と規制緩和を進めることで不足分の4割を新興国自身が負担、残りの6割を民間投資で補うよう提言している。この場合、民間投資は現在の約4倍、年間2500億ドル規模の新規需要が生まれる計算だ。

民間にとって大きな事業機会である。とは言え、新興国にとってもインフラを外資に押さえられることへの懸念もある。PPP/PFI等の官民連携スキームの条件は決して容易なものとはなるまい。そもそもインフラ投資は超長期の投資となるうえ、政治の不安定さなど新興国特有のリスクもある。事業価値の過大評価と経営条件に対する安易な楽観は将来大きな減損を招くことになりかねない。まさに東芝が反面教師である。

2017 / 02 / 24
今週の"ひらめき"視点
ネット通販の成長に暗雲? 配送コストの適正な分担を

ヤマト運輸の労働組合は宅配便の荷受量に総量規制を課し、労働環境の改善をはかるよう経営側に求めた。背景にはネット通販の急拡大、サービス競争の激化、単価下落、慢性的なドライバー不足がある。
一方、経営側にとっても“利益が出ない繁忙”は限界に来ており、今後、労使一体となって事業構造改革を進める方針である。
具体的には2017年度の宅配便荷受量を今年度水準に抑えるとともに大手顧客に対して値上げを要請する。また、再配達や時間帯指定サービスについても見直しを求める。

2倍を越える有効求人倍率の常態化は物流業界にとって重大な成長阻害要因である。絶対的なドライバー不足を解消できない大手事業者は6万社を越える中小個人事業者に配送業務を委託しているが、こうした下請事業者も6割が赤字である。
政府は昨年5月に改正物流総合効率化法を成立させ、事業者間の垣根を越えた協同配送を促すが、問題解決の決定打とはなっていない。
急激な需要拡大と熾烈な競争の中で進化してきたきめ細かな配送サービスはまさに“ジャパン・クオリティ”と言っていい。しかし、もはやそのコストを吸収できる余力は配送を担う側にない。店舗への投資を必要としない通販事業者、自宅に届くことの便益を享受する消費者、コスト構造の再配分が求められている。

2017 / 02 / 17
今週の"ひらめき"視点
東芝、3月末時点の債務超過解消を断念、東証2部へ降格か

14日、4-12月期の決算発表を見送った東芝であるが、12月末時点で既に1900億円を超える債務超過であったという。加えて米WH社関連に不正な決算処理があったとの新たな疑惑も浮上した。すべては2006年に市場価値の3倍もの価格でWH社を買収したことに始まるが、結果、統治能力を欠いたまま粉飾を承継し続けた歴代経営陣が東芝を窮地に追い込んだ。

1日、日立製作所は2017年3月期の営業利益見通しを200億円引き上げたが、一方で原子力事業における700億円の減損を明らかにした。これは米GEとの共同出資会社GE日立ニュークリアエナジー社の子会社で進めてきたウラン濃縮技術の開発を断念したため。事業の厳格な見直しは当然である。しかし、持分800億円の1/8への減損はそもそもの事業評価が過大ではなかったか。

3日、三菱重工と日本原燃は仏の国営企業アレバ・グループへの出資を決めた。三菱重工の出資額は約300億円(2億5千万ユーロ)というが、2011年以降営業赤字が続く実質的な破綻企業への巨額投資は果たして経済合理性に適うのか。三菱アレバ連合が期待していたベトナムの事業は白紙撤回され、トルコについても不透明である。「20-30年後に再び原発ルネサンスが来る」(三菱重工関係者、12月9日付け日経新聞より)といった楽観論では心もとない。

いずれにせよビジネスとしての原発の事業環境が大きな岐路にあることは間違いない。三菱重工のプレスリリースでは「2015年に日仏両国政府間で確認された両国政府および原子力産業業界の連携強化への貢献」が謳われているが、原発事業はまさにその通り、あらゆる意味において一民間企業で制御できるリスクの範囲を超えている。

2017 / 02 / 10
今週の"ひらめき"視点
エアフォースワン、パームビーチ、、、厚遇の中で“同盟”は何を失うか

日米首脳会談が目前に迫った。米国第一主義を掲げるトランプ政権に対して、日本は「日米成長雇用イニシアティブ」という経済パッケージを準備しているという。公的年金(GPIF)を含む日本側資金を最大限活用し、米国内インフラへの投資や先端技術の共同開発などを通じて51兆円の市場を日米で創出し、70万人の雇用を生み出すという。
日本は巨額な対米貢献をコミットメントすることで、日米同盟の強固さをアピールするとともに為替を絡めた二国間FTAへの流れを阻止したいとの思惑であるが、果たして“予測不能”のトランプ政権に通用するか。

一方、メキシコ、チリ、ペルー、コロンビアで形成する中南米「太平洋同盟」は米を除くTPP参加国に中国、韓国を加えた新たな自由貿易圏構想を目指すという。
世界が新たな次元に移りつつある中にあって、トランプ政権への無批判な従属は日本の可能性を狭めることにならないか。米国とのパートナーシップの重要性を否定するものではない。しかし、シナリオは一つではない。アジアや中南米の潜在的可能性は大きい。世界経済の不透明感が増しつつある今こそ、日本は自由経済による市場創出にイニシアティブをとるべきである。新興国の社会的安定を支援し、事業機会を継続的に提供することで、民の成長と地政学的リスクの軽減を目指すべきであろう。そうあってはじめて国際社会におけるプレゼンスの向上と対等な日米関係が可能となる。

2017 / 02 / 03
今週の"ひらめき"視点
SHAME! NO BAN! NO WALL! 全米で反トランプデモ、拡がる

分断と拒絶の連鎖が現実の懸念となりつつある。27日、トランプ大統領は中東、アフリカの指定7カ国からの入国を制限する大統領令に署名、各地の空港では29日までに280人にのぼる渡航者や難民が入国を拒否された。これに対してニューヨークやボストンの連邦地裁は大統領令の執行停止を決定、入国制限の一時解除と強制送還の停止を命じた。また、イエーツ司法長官代行※、首都ワシントンを含む15の州司法長官もこの大統領令の違憲性を指摘した。
※ホワイトハウスはイエーツ長官代行を直ちに解任、後任にバージニア州東地区のダナ・ポエンテ検事を指名、同判事は大統領令を執行するとの立場を表明した

こうした中、カナダのトルドー首相は「カナダは難民を歓迎する」旨の声明を発表、独メルケル首相、仏オランダ大統領、初の首脳会談で「英米の蜜月ぶり」を演出したばかりの英メイ首相も直ちに不同意を表明した。また、スターバックスは全世界の店舗で1万人の難民を雇用する方針を発表、ツイッター社は公式アカウントで「ツイッターは移民とともにある」とつぶやいた。アップル、グーグル、フェイスブック、アマゾン、ナイキ、ゴールドマンサックス、フォード、GMなど、大手企業も相次いで懸念を表明した。

イランのザリフ外相は「今回の大統領決定は過激派集団に対する偉大な贈り物である」と皮肉ったが、残念ながら反ムスリム主義者に対する“贈り物”にもなった。29日、カナダのモスクで礼拝中のイスラム教徒に対する乱射事件が発生、6人の命が奪われた。
米国そして世界がトランプ政権に対して抗議の声をあげる中、自由と民主主義を党名に冠するわが国の与党党首は「コメントする立場にない」と意思表明を留保した。Shame!