今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2017 / 04 / 21
今週の"ひらめき"視点
ホンダ、中国でEVの現地専用モデルを開発、2018年に販売へ

19日、上海国際自動車ショーが開幕した。1000社を越える出展社、展示台数1400台以上、世界初公開モデルが113車種など、メーカー各社の中国市場への期待の大きさが伺える。
とりわけ各社がアピールしたのがEVである。中国は内需の活性化と国内の大気汚染問題に対応すべく2013年からEVに対する大規模な政府補助を実施、市場を急速に拡大させてきた。一時の過熱ぶりはやや落ち着きつつあるものの、2018年からはEVの現地生産が義務付けられるなど、EV重視の国家方針は揺るがない。VWは「2025年のEV生産目標は100万台、うち6割を中国へ投入する」と発表、欧州勢はもちろん、GM、フォードなどの米国勢、韓国や日本勢も中国におけるEV強化を狙う。

2009年、中国自動車市場は米国を抜いて世界最大となった。2016年には日本の5.6倍、米国の1.6倍を越える2802.8万台に達している。しかし、中国はもはや単なる「量」のマーケットではない。EVを中核とした世界最先端の新エネルギー車市場である。2020年には年間生産台数の2割がEVまたはPHVとなる、との予測もある。
出遅れ感が強い日本勢が欧州勢に対抗するためには研究開発体制の強化と現地生産基盤の確立が求められる。しかし、独りよがりの“高品質”ではマスを獲得することはできないし、ましてや「米国依存を軽減するための代替市場」などという発想では見向きもされまい。現地ニーズを踏まえた“本気”のマーケティング力が問われている。

2017 / 04 / 14
今週の"ひらめき"視点
「人口1億を前提とした社会」の維持に黄信号、問われるのは“本気の覚悟”である

10日、国立社会保障・人口問題研究所(厚労省)が2065年までの将来推計人口を発表した。推計の前提となる合計特殊出生率は前回の1.35から1.44へと若干改善、1億人を割り込むのは2053年、前回推計値より5年遠のいた。しかし、それでも現在(2015年)から50年後、2065年には今の3割減、8808万人となるという。

出生率の改善は朗報だ。しかし、政府目標の「希望出生率1.8」とは大きな開きがあるし、そもそも合計特殊出生率における人口置換率は2.07である。昨年、政府は「人口1億人の維持」を国家ビジョンとして表明、ようやく人口問題を政策の重要テーマと位置づけた。しかし、2.07をはじめて割り込んだのは1974年であり、将来の人口危機は既にその時から始まっている。つまり、40年を越える政治の無策と楽観、先送りの積み重ねがこうした事態の背景にあると言え、ゆえに「1億人維持」という政治の言葉にどこまでリアリティがあるか、はなはだ疑わしい。

4月1日、静岡市は政令指定都市ではじめて、その目安とされる人口70万人を割り込んだ。過疎への流れは今や地方の中小都市や中山間地域に固有の問題ではない。もしも1億人を前提とした未来を本気で目指すのであれば、もはや移民の受け入れや非嫡出子の問題を含む家族制度改革に踏み込まざるを得ないということだ。
とは言え、夫婦別姓すら棚上げされる状況にあって、そこまでの“覚悟”を今の政治に期待するのは現実的でない。であれば速やかに目標を変更し、8-9千万人を前提とした社会の制度設計に着手する必要がある。

2017 / 04 / 07
今週の"ひらめき"視点
カジノ法案、本格始動。「規制」は誰を守るのか

4日、政府は昨年末に施工されたIR整備推進法を受けて第1回目の推進本部会議を開催、実施法案の策定を本格化させた。同会議の本部長である首相は、「世界最高水準の規制」と「クリーンなカジノの実現」を表明するとともに、大型民間投資による経済効果を強調した。

確かに短期的な経済効果はあるだろう。しかし、成功事例として引用されるシンガポールは日本にとっての戦略モデルとはなり得ない。国家の規模も産業構造も異なる(2016年12月16日付けの本稿参照)。そもそも世界の観光地に対する差別化戦略として、カジノ型消費施設は日本にとって有効であるのか。日本の魅力の本質が「爆買い」などではなかったことは、その後も増え続ける訪日観光客たちが教えてくれたはずだ。

そう、日本への投資を準備する海外勢にとっての「旨み」は訪日外国人市場ではない。彼らが狙うのはギャンブル依存症大国、日本のマネーである。
カジノはマネーを移動させるだけのビジネスであり、そこに新たな社会的価値は生まれない。敗者は一時の高揚感と引き換えに資産を明け渡す。しかし、本当の敗者は彼らではない。そこに税収を依存せざるを得なくなる国であり、地方である。
国民資産の売却に支えられる国などもはや国家の体をなさないし、そのような国を魅力的に思う外国人もいないだろう。「世界最高水準の安全」、「クリーンなエネルギー」という言葉への信頼が失われて6年、ここでも本質についての議論は先送りされる。

2017 / 03 / 24
今週の"ひらめき"視点
G20、協調体制は後退。日本はイニシアティブをとるチャンス

18日、トランプ政権誕生後はじめてのG20が閉幕した。会議は「保護主義」をめぐり紛糾、これまで共同声明に盛り込まれてきた「あらゆる保護主義に対抗する」との文言は米国の圧力によって削除された。代わって盛り込まれたのは「公正で開かれた貿易」との表現であり、米国が求める“米国にとっての公正さ”に懸念が高まる。また、従来G20が表明してきた「パリ協定への支持」も削除、地球温暖化に関する言及は声明から消えた。

仏サパン財務相は「世界にとって本質的な2つの問題で合意できなかった」と語り、IMFラガルド専務理事も「誤った政策は成長を阻害する」との見解を表明した。一方、麻生財務相は「毎回同じことを言っているが、今回は言わなかっただけ」といった趣旨の発言で、過剰反応の必要がないことを強調した。

その前日、ワシントンでトランプ大統領と独メルケル首相が初の首脳会談に臨んだ。両者は貿易、移民、難民問題において対立、報道陣から握手を促されたトランプ氏はメルケル氏と目を交わすこともなくこれを拒否した。

20日、そのトランプ氏と19秒間もの握手をする間柄の安倍氏がドイツを訪問した。メルケル氏との日独首脳会談では「日米欧における自由貿易の推進で一致した」と声明した。
日本にとって決して譲れない理念、大義はどこにあるのか。世界が見ているのはそこだ。米国と欧州の単なる仲介が日本の役どころではない。

2017 / 03 / 17
今週の"ひらめき"視点
三越伊勢丹、社長交代。百貨店は新たな業態として再生できるか

13日、三越伊勢丹ホールディングスは3月31日付けで大西洋社長が辞任、4月1日付けで杉江俊彦専務が昇格する人事を発表した。杉江氏は、従来の多角化路線を引き継ぎつつも、「成長事業の育成より構造改革を優先する」ことを表明、大西氏の社内コミュニケーション不足を指摘したうえで「中間管理職との対話を重視したい」との方針を語った。
後任未定のまま社長の辞任が報道されたのが6日、組合との対立がトップ交代の背景にあるとも伝えられるが、いずれにせよ正常でない内部の様相が推察される。

とは言え、従業員の不満を解消することで経営が再建出来るわけではない。
現在の苦境は、株高と訪日中国人による一時的な高額品需要の高まりに安易に便乗した営業戦略上の失敗である。言い換えれば、上質な中間層という本来の顧客に背を向けたことの反動である。ただ、それだけであれば売場改革と効率化で乗り切れる。問題は絶対的な供給過剰であり、かつ、需給ギャップはもはや量の問題として解決出来るレベルにないこと、言い換えれば、縮小均衡策の賞味期限は既に終わっているということである。

アパレルとの二人三脚で日本の消費市場を牽引した百貨店の使命はとうの昔に終焉した。今、三越伊勢丹ホールディングスに必要なことは本業そのもののイノベーションであり、成長機会を見つけ出すための柔軟な社内風土と資源の集中投下を可能にする意思決定力である。
ゆえに、新体制が取り組むべき優先順位は成長に向けてのビジョンの策定とそれを完遂する覚悟を表明することである。百貨店の再起を夢見る労使の馴れ合いなどまったく必要ない。