今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2017 / 04 / 07
今週の"ひらめき"視点
カジノ法案、本格始動。「規制」は誰を守るのか

4日、政府は昨年末に施工されたIR整備推進法を受けて第1回目の推進本部会議を開催、実施法案の策定を本格化させた。同会議の本部長である首相は、「世界最高水準の規制」と「クリーンなカジノの実現」を表明するとともに、大型民間投資による経済効果を強調した。

確かに短期的な経済効果はあるだろう。しかし、成功事例として引用されるシンガポールは日本にとっての戦略モデルとはなり得ない。国家の規模も産業構造も異なる(2016年12月16日付けの本稿参照)。そもそも世界の観光地に対する差別化戦略として、カジノ型消費施設は日本にとって有効であるのか。日本の魅力の本質が「爆買い」などではなかったことは、その後も増え続ける訪日観光客たちが教えてくれたはずだ。

そう、日本への投資を準備する海外勢にとっての「旨み」は訪日外国人市場ではない。彼らが狙うのはギャンブル依存症大国、日本のマネーである。
カジノはマネーを移動させるだけのビジネスであり、そこに新たな社会的価値は生まれない。敗者は一時の高揚感と引き換えに資産を明け渡す。しかし、本当の敗者は彼らではない。そこに税収を依存せざるを得なくなる国であり、地方である。
国民資産の売却に支えられる国などもはや国家の体をなさないし、そのような国を魅力的に思う外国人もいないだろう。「世界最高水準の安全」、「クリーンなエネルギー」という言葉への信頼が失われて6年、ここでも本質についての議論は先送りされる。

2017 / 03 / 24
今週の"ひらめき"視点
G20、協調体制は後退。日本はイニシアティブをとるチャンス

18日、トランプ政権誕生後はじめてのG20が閉幕した。会議は「保護主義」をめぐり紛糾、これまで共同声明に盛り込まれてきた「あらゆる保護主義に対抗する」との文言は米国の圧力によって削除された。代わって盛り込まれたのは「公正で開かれた貿易」との表現であり、米国が求める“米国にとっての公正さ”に懸念が高まる。また、従来G20が表明してきた「パリ協定への支持」も削除、地球温暖化に関する言及は声明から消えた。

仏サパン財務相は「世界にとって本質的な2つの問題で合意できなかった」と語り、IMFラガルド専務理事も「誤った政策は成長を阻害する」との見解を表明した。一方、麻生財務相は「毎回同じことを言っているが、今回は言わなかっただけ」といった趣旨の発言で、過剰反応の必要がないことを強調した。

その前日、ワシントンでトランプ大統領と独メルケル首相が初の首脳会談に臨んだ。両者は貿易、移民、難民問題において対立、報道陣から握手を促されたトランプ氏はメルケル氏と目を交わすこともなくこれを拒否した。

20日、そのトランプ氏と19秒間もの握手をする間柄の安倍氏がドイツを訪問した。メルケル氏との日独首脳会談では「日米欧における自由貿易の推進で一致した」と声明した。
日本にとって決して譲れない理念、大義はどこにあるのか。世界が見ているのはそこだ。米国と欧州の単なる仲介が日本の役どころではない。

2017 / 03 / 17
今週の"ひらめき"視点
三越伊勢丹、社長交代。百貨店は新たな業態として再生できるか

13日、三越伊勢丹ホールディングスは3月31日付けで大西洋社長が辞任、4月1日付けで杉江俊彦専務が昇格する人事を発表した。杉江氏は、従来の多角化路線を引き継ぎつつも、「成長事業の育成より構造改革を優先する」ことを表明、大西氏の社内コミュニケーション不足を指摘したうえで「中間管理職との対話を重視したい」との方針を語った。
後任未定のまま社長の辞任が報道されたのが6日、組合との対立がトップ交代の背景にあるとも伝えられるが、いずれにせよ正常でない内部の様相が推察される。

とは言え、従業員の不満を解消することで経営が再建出来るわけではない。
現在の苦境は、株高と訪日中国人による一時的な高額品需要の高まりに安易に便乗した営業戦略上の失敗である。言い換えれば、上質な中間層という本来の顧客に背を向けたことの反動である。ただ、それだけであれば売場改革と効率化で乗り切れる。問題は絶対的な供給過剰であり、かつ、需給ギャップはもはや量の問題として解決出来るレベルにないこと、言い換えれば、縮小均衡策の賞味期限は既に終わっているということである。

アパレルとの二人三脚で日本の消費市場を牽引した百貨店の使命はとうの昔に終焉した。今、三越伊勢丹ホールディングスに必要なことは本業そのもののイノベーションであり、成長機会を見つけ出すための柔軟な社内風土と資源の集中投下を可能にする意思決定力である。
ゆえに、新体制が取り組むべき優先順位は成長に向けてのビジョンの策定とそれを完遂する覚悟を表明することである。百貨店の再起を夢見る労使の馴れ合いなどまったく必要ない。

2017 / 03 / 10
今週の"ひらめき"視点
高度な価値を適切な対価で取引するマーケットの創造こそ、最良のデフレ対策となる

労働需給がタイトになる中、小売業界も営業時間の短縮に動き出した。阪急阪神百貨店、イオングループ、ルミネなど大手流通や有力商業ディベロッパーが平日の閉店時間を30分から1時間程度早める。人手不足を背景とした営業時間の見直しは外食産業が先行してきたが、ここへきて小売も追随する。

売上効率に対応した営業時間の短縮に異論はない。働き方改革という時代の要請もある。しかしながら、プレミアムフライデーに象徴されるように「残業時間を減らし、平日の終業時間を早めることで消費の活性化をはかる」ことが政策の流れである。都市部の小売事業者にとってはむしろチャンスであって、横並びの時短が結果的に消費機会を奪うのでは本末転倒である。ECへと購買行動が流れるのは当然である。一方、そのECもまた物流業界の人手不足が成長の足かせになりつつある。

とは言え、原因を人手不足にのみ帰すことは出来ない。そもそも「売れない」のは営業時間帯の問題ではあるまいが、遅い時間帯の通常営業や指定時間配送といった高質なサービスが当然のごとく無償で提供され続けてきたこと、逆に言えば、便益に相応の対価を提案できないほど差別化要件を失ったサプライサイドの劣化を指摘したい。
1人当り生産性を高め、国全体の成熟度を維持するためにも本来的な価値の問い直しが必須である。製品やサービスの不断のイノベーション、そして、それを正当な対価をもって受容する創造的な市場への脱皮が急がれる。

2017 / 03 / 03
今週の"ひらめき"視点
アジアのインフラ需要拡大、一方、資金不足への対応が急務

28日、アジア開発銀行(ADB)は2030年までにアジア、太平洋地域の新興国のインフラ開発に22.6兆ドル(2600兆円)、気候変動に伴う関連投資を加えると総額で26兆ドル(3000兆円)の資金が必要であると発表した。年間ベースに換算すると1.7兆億ドル、これは2009年時点の見通し比で約2.3倍、アジア新興国の順調な経済成長がインフラ需要を押し上げる。

一方、総需要に対する実際の投資額は年間8810億ドル程度にとどまっており、2016年から2020年までの5年間で中国を除く24カ国のGDP比5%分の資金が不足すると見込まれる。2015年にはADBが100億ドル、世界銀行が66億ドル、国際金融公社が32億ドルを支援、2016年に中国主導のアジアインフラ投資銀行が設立されたものの初年度の融資額は17億ドルにとどまっており、絶対的な資金不足は明らかである。
ADBは、新興国に対して財政改革と規制緩和を進めることで不足分の4割を新興国自身が負担、残りの6割を民間投資で補うよう提言している。この場合、民間投資は現在の約4倍、年間2500億ドル規模の新規需要が生まれる計算だ。

民間にとって大きな事業機会である。とは言え、新興国にとってもインフラを外資に押さえられることへの懸念もある。PPP/PFI等の官民連携スキームの条件は決して容易なものとはなるまい。そもそもインフラ投資は超長期の投資となるうえ、政治の不安定さなど新興国特有のリスクもある。事業価値の過大評価と経営条件に対する安易な楽観は将来大きな減損を招くことになりかねない。まさに東芝が反面教師である。

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