今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2016 / 11 / 04
今週の"ひらめき"視点
GINZA SIX、何もかもがオーセンティック!?

26日、J.フロントリティリングは松坂屋銀座店跡地で進めている再開発ビルの詳細を発表した。名称は“GINZA SIX”、銀座エリア最大規模47,000㎡の商業施設を中心に文化施設、38,000㎡のオフィスフロア、屋上庭園、観光バスの乗降所などで構成される。
商業施設のブランドスローガンは“Where Luxury Begins ”(=世界が次に望むものを)、国内最大級の売場となるディオール、フェンディ、セリーヌ、ヴァンレンティノといった高級ブランドの旗艦店を目玉に、物販210、飲食24、サービス7、計241店舗が入る。

会見ではJ.フロントの山本社長が「銀座で百貨店はやらない」ことを明言したが、まさにその言葉どおり、GINZA SIXは森ビルと住友商事、L Real Estate、そして、地権者であるJ.フロントのディベロッパーとしての仕事であって、大丸松坂屋の仕事ではない。
銀座で“百貨店”の未来を放棄した持ち株会社の経営判断に異を唱えるつもりはないし、「真のラグジュアリー」、「最高に満たされた暮らし」を体現する定石どおりの高級ブランドの集積はさぞや見事であろう。
しかしながら、一方で「ここに来れば日本の今がわかる」、「世界の最新トレンドを体感できる」ことを主張するのであれば、せめてオープニング・アーティストは“文化勲章”の草間彌生氏ではなく、若きジャッドやコーネルと活動していた頃の“未来のKusama”を発掘し、世界に発信するぐらいの気概を示して欲しかった。

2016 / 10 / 28
今週の"ひらめき"視点
異質な文化に対する相互の寛容が過激主義を封じる

24日、国際捕鯨委員会(IWC)の総会がはじまった。日本は国際司法裁判所の判決(2014年)を受けて南極海での捕鯨を一端中止したが、昨年末から再開、今回は再開後初めての総会ということもあり反捕鯨国の強硬姿勢が目立つ。
調査捕鯨の実施主体である財団法人日本鯨類研究所の予算が鯨肉の売上収益で成り立っているという視点に立てば、反捕鯨国が主張する「調査捕鯨の名を借りた商業捕鯨」との批判に一定の理があることは否めない。これに対して、日本は、これまで要求してきた“日本近海での捕獲枠”問題を取り下げ、調査捕鯨の科学的意義と正当性を議論の俎上にあげる。しかしながら、そもそも捕鯨産業の発展を目的に設立されたIWCの性格は既に変質してきており、捕獲頭数を巡る現実的な交渉を展開してきた日本と反捕鯨国との論点は嚙み合わない。

もはやこの問題は、“産業の保護”や“資源の維持”といった議論では片付かない。民族の伝統や食文化、生態系の維持、動物愛護、先住民族の権利や地球温暖化や環境問題も絡む。反捕鯨の急先鋒オーストラリアやニュージーランドにとっては観光資源(=ホエール・ウォッチング)の拡大といった思惑もあるだろう。シーシェパートに象徴される過激な暴力集団を封じ、IWCにおける議論を前へ進めるためにも日本は戦略全体を再構築すべきではないか。現実の国際世論に対応した、ぶれることのない大義をベースに捕鯨の在り方そのものを自ら問い直す必要があるということだ。キーワードは生物と文化の多様性、そして、共生である。

2016 / 10 / 21
今週の"ひらめき"視点
株式の超高速取引、規制強化へ。法令はAIの進化に先行できるか

金融庁はコンピュータプログラムによる株式の超高速取引に関する規制強化、法制化の検討に入った。
東証では既に全取引のうち件数ベースで7割が超高速取引によるもので、約定ベースでも4~5割に達するという。
具体的な規制内容は今後の検討課題となるが、取引記録の作成義務付け、システムセキュリティ、リスク管理、ガバナンス等について一定以上の要件整備を前提とした登録制度の導入などが論点となる。

今、世界全体の利子率が低下しつつある中、実体経済の数倍に膨張した過剰流動性が“行き場”を失いつつある。“greed”な投資家の要求を満たすフロンティアはもはや限定的だ。ゆえにバブルの生成と幕引きを世界のどこかで繰り返し仕掛けることが、彼らにとって唯一、確実な投資行動となる。やがて世界中のコンピュータが市場の微細な変化を見つけ出し、解析し、その先を一斉に予測する。そう、正しい計算結果から導かれたその瞬間瞬間の投資行動は、上昇下降いずれの場合もその影響を最大化させるリスクを伴う。

ノーベル経済学賞受賞者が参画し、最先端の金融工学理論を駆使したヘッジファンド「LTCM」の破綻は1998年である。AIが、AI自身による自律的な進化をはじめる技術的特異点(=シンギュラリティ)は2045年と予測される。それまでに我々はどこまで“賢く”なれるか。

2016 / 10 / 14
今週の"ひらめき"視点
女性活躍社会、後退。長期的な視座に立って社会のダイナミズムを引き出す施策を

「働き方改革」「女性が輝く社会」に向けて象徴的な一手となるはずだった“配偶者控除の廃止”は、取り沙汰される衆院解散と来夏の都議会選を前に見送られた。いや、そればかりか“壁”の上限を「103万円から150万円へ」引き上げる優遇策の拡大論まで俎上にあがる。無論、配偶者控除の廃止で女性の活躍が保障されるわけではない。しかし、政策の一貫性に疑問符がつくことは間違いない。
女性の可能性を家庭に押し込めた方が経済的に有利となる税制への違和感は、フルタイムで働く既婚女性はもちろん、すべての女性に共通であろう。女性へのメッセージは「仕事は家事優先で。内助の功こそ女性の役割。」に引き戻された。

それにしても、選挙を前に何の衒いもなく変節してゆく政治の有り様は残念だ。そもそも「1億総活躍」を掲げた背景には人口減少社会への切迫した危機感があったはずだ。人口置換率2.07を割り込んだのは1974年である。そこからの無策と先送りの連続が今日の事態を招いていると言っていい。
目先の利得を要求し続ける国民と場当たり的な利益誘導に終始する政治体質に決別しない限り、多様性の中に個の可能性と未来への希望を見出し得る社会は到来しない。

2016 / 10 / 07
今週の"ひらめき"視点
昭和の夢を捨て、新たな未来を。JR北海道の再建は“北海道創生”と同義

JR北海道は1日の乗降客が1人以下の46駅の廃止に向けて関係自治体と調整に入った。既に廃止が決定している留萌線の5駅と合わせて2017年春のダイヤ改正時に51駅が地図から消える。全路線の赤字が常態化している中、安全への投資原資を確保するためにも、既に公共施設としての機能が失われた駅の廃止は止むを得まい。
一方、この3月には“念願”の北海道新幹線が開業した。しかし、こちらも初年度は48億円の赤字、投資回収の目処は立たない。2031年の札幌延伸に期待がかかるものの、航空機との競合を鑑みると都市間需要の取り込みは容易ではない。加えて、2030年代になると北海道の人口は大きく減少する。頼みの札幌市も2036年には2015年比で8%もの人口減が見込まれる。

そもそもJR北海道は独立行政法人鉄道建設・運輸施設設備支援機構の100%子会社であり、分割民営化に際して割り当てられた“経営安定化基金”が経営を下支えする。新たに加わった新幹線という名の赤字路線も40年以上も前に計画された国策である。つまり、民間の体裁をとっているものの実体は “国鉄のまま”であると言っていい。
実質的に国の管理下にあることを踏まえれば、国はその責任において重要な意思決定をなすべきである。そして、それは単なる一鉄道事業者という視点のみならず、“北海道の未来”を描き出した国家戦略として提示されなければならない。北海道、言い換えれば、地方はそこまで追い込まれつつあるということだ。

2016 / 09 / 30
今週の"ひらめき"視点
消費者からの信頼と自由な競争環境を維持するために業界は襟を正せ

関与成分の含有量不足により日本サプリメントの製品が特定保健用食品(トクホ)の許可を取り消された問題を受け、消費者庁はトクホに認定された全1270製品の成分調査結果を1ヶ月後までに提出させることを指示した。また、当初は次年度以降での実施を計画していた抜き打ち調査も年度内から前倒し実施するという。
トクホ制度は1991年から施行、当初は4年ごとに試験結果を審査する更新制であったが、1997年、規制改革の流れの中で永久許可制に緩和された。2015年からはメーカーの自己責任を前提とした「届出制」の機能性表示食品制度もスタートしている。

2年以上の報告を怠り、悪質性が高いと認定された日本サプリメントのガバナンスの問題は言うまでもないが、一方でそれが直ちに全製品の再検査へ波及する事態も異様である。企業サイドの良識を前提とした規制緩和への根本的な不信が消費者庁内に根深くあったということか。
トクホは消費者にとってメーカーに対する信用を担保する唯一の拠り所である。それゆえに「もう一段」の緩和をはかった機能性表示食品制度への影響も懸念される。とりわけ、後者は資金力や知名度に劣る中小企業の活用も多い。制度および業界に対する不信の連鎖を防ぐためにもトクホ1270製品すべての疑念が払拭されることを願う。