今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2016 / 12 / 23
今週の"ひらめき"視点
もんじゅ、廃炉。長い夢は終わった。

発電しながら燃料を生み出す、夢の原子炉「もんじゅ」の廃炉が決まった。1994年の初臨界から22年、相次ぐトラブルのため稼動日数はわずか200日、毎年200億円以上の維持費が投下され、再開には少なくとも8年の準備期間と5400億円の追加費用が必要とされる。一方、運営者である日本原子力研究開発機構はその杜撰な安全管理体制をもって原子力規制委員会から「運営者として不適切」との烙印を押されたままである。
こうした経緯と状況を鑑みると総額1兆円を越える国費を投入してきた「もんじゅ」の夢はとうの昔に潰えていたと言える。

廃炉には今後4000億円近くの費用が必要となる。しかし、事故処理に20兆円もの費用がかかる福島の現実を突きつけられた国民にとって、それはむしろ合理的な判断と映るだろう。国際的なウランの需給見通し、次世代エネルギーの成長可能性といった点からも「もんじゅ」に対する追加投資の大義は見つけにくい。

原子力技術を引き継ぎ、高度な研究体制を維持することに異論はない。再稼動の賛否を越えて私たちはその社会的コストを引き受ける責任がある。とは言え、日本の原子力政策が重大な岐路にあることは間違いない。従来路線のまま「高速炉の開発は維持する」(政府)では、夢から覚めることはできない。今、私たちは未完の巨大技術に対する夢を捨て、原子力の新たな可能性とエネルギーの新たな未来を構想すべき時にある。

2016 / 12 / 16
今週の"ひらめき"視点
カジノ法案、成立。問われているのは「賭博」の是非だけではない

カジノを含む統合型リゾード(IR)の整備を政府に促す議員立法が成立した。国会における中心的な論点はギャンブル依存症の問題であったが、そもそもIRを国家の成長戦略にどう位置づけるのか、まさに根本的な問題が置き去りにされている。

IRの成功事例として引用されるシンガポールであるが、IRがシンガポール経済の成長を牽引したわけではない。
金融、ICT、医療、教育、港湾に対する優先的な投資、徹底した規制緩和、政府・行政の効率化、英語教育の強化、、、これらを通じて国際的なビジネス環境を整備し、外資を呼び込むことに成功したことが背景にある。つまり、グローバル化による成長戦略がIRの成功条件となったということであり、観光だけが切り出されているわけではない。

シンガポールの場合、そもそも多民族、多文化、多言語国家でありグローバル化の基盤が確立していたことも有利であった。世界から投資を魅きつける国際金融都市のIRであるから意味があるのであって、そうでなければただの公設賭博場に過ぎない。

ホテル、会議場、レジャー施設が一体となった単体事業の破綻はリゾート法でいやと言うほど経験しているはずだ。投資対象国としての魅力や地域の活力をどうつくってゆくのか。問われているのはそこだ。
一方、シンガポールは成長の過程でアジア有数の格差社会を生み出した。はたして日本はどこを目指すのか。IRに内在する本質的な問いに答えることなく、事業のみが目的化され一人歩きする。

2016 / 12 / 09
今週の"ひらめき"視点
問題は「配慮を欠いた」(守安社長)ことではなく、薄っぺらな社会性にある

劣悪な情報品質が社会問題化した医療情報サイトに続き、DeNAはすべてのまとめ記事サイトを閉鎖した。リクルートやサイバーエージェントも「情報の内容を精査する」との理由で類似サイトの一部削除や非公開化に踏み切った。これらはインターネット上の情報や書き込みを特定テーマごとに収集、整理した所謂「キュレーションサイト」と呼ばれるもので、誰でも投稿できる運営スタイルを採用することでユーザー目線にあった身近な情報サイトとして急成長してきたサービスである。

何らの検証やチェックも受けない記事が、“医療情報”として提供され続けた「ウェルク」の閉鎖は当然だろう。医療情報の商品化に対する経営陣の認識の甘さは、素人という表現を越えて“幼稚”と言って良い。
しかし、問題の悪質さは「投稿された記事内容について運営会社は一切責任を負わない」と標榜しつつ、外部ライターを使って大量の記事を投稿させていたこと、かつ、その際、データ検索エンジンの上位キーワードを組み合わせた「テーマ」を提示したうえで、「リライトのこつ」などと称して無断転載や無断引用を組織的に推奨していた、ことにある。

ユーザーや顧客に対する不誠実さはもちろんであるが、ビジネスに対する独善的で不遜なまでの“軽さ”には反社会性すら感じる。
トップ、役員、従業員、外部ライター、、、当事者1人1人が“軽さの連鎖”を断つ意志を持てるか。この会社の信用回復はこの一点にかかっている。

2016 / 12 / 02
今週の"ひらめき"視点
行き過ぎたグローバリズムに対する過剰な政治的反動が世界を萎縮させてゆく

WTOにおける「市場経済国」の認定を巡って欧州委や米国と対立する中、中国は企業の海外投資を規制する方向に舵をきった。
500万ドルを越える海外企業の買収や外貨購入に対して当局との事前面談を義務づける。あわせて小口分散送金や中国本土発行カードによる香港の保険商品の購入を禁止する。これらは人民元の流出に伴う通貨の下落に歯止めをかけること、M&Aを個人資産の国外移転に活用する企業家の行動を封じることが狙い。

実際、中国企業による海外投資は今年に入って5割増のペースで続いており、金融機関を通じた資金の流出超過は16ヶ月連続、流出総額は5000億ドルを越える。と言え、今回の規制は単なる経済政策に止まるものではなく、汚職・腐敗防止運動とも脈を通じる多分に政治的なものである。それゆえに中国の国内情勢と景気回復に対する懸念を、世界により印象づける。WTOによる認定の可否はともかく、実体としての市場経済化はまだまだ遠い。

一方、29日、米ユナイテッド・テクノロジー傘下の空調大手「キヤリア」はメキシコへの生産拠点の移転を中止すると発表した。選挙期間中、一貫して同社の経営方針を非難してきたトランプ氏は「工場移転を阻止し、インディアナ州の雇用を守った」と高らかにSNSに投稿した。
民に対する政治のあからさまな介入が喝采を浴びる。いや、そんな時代は長くは続かない、はずである。

2016 / 11 / 25
今週の"ひらめき"視点
フェイスブック、規制する側への忖度ではなく、開放への圧力を

2009年、当局によって一方的に処断され、撤退を余儀なくされたフェイスブックが、中国再進出に向けて独自の“自主規制プログラム”を開発中であると米ニューヨークタイムズが報じた。ただ、現時点では同社からは正式なコメントはなく、また、ニュースソースの元従業員も「実際に活用されるかは不明」であるとする。

中国は7億人ものユーザーを抱える世界最大のインターネット大国である。しかし、グレートファイアウォールと呼ばれる検閲システムや200万人におよぶ監視員によって、海外サイトへのアクセスはもちろん言論の自由は徹底的に制限されている。米NGO“フリーダム・ハウス”が発表するネット上の自由度ランキングではワースト1位である(北朝鮮は調査対象国から除外)。

2016年春、訪中したザッカーバーグ氏が天安門広場をランニングする画像が世界を流れた。彼の中国市場に対する関心の高さは有名である。それ自体は非難されるものではない。とは言え、それを差し引いても天安門を能天気に走る彼の姿に大きな失望を感じたことも事実である。一方、米紙報道が本当であればその意味はまったく異なる。彼は統制し、抑圧し、弾圧する側に加担したということになる。記事の真偽もまた「不明」のままであって欲しい。

2016 / 11 / 18
今週の"ひらめき"視点
“11カ国TPP”に向けて日本はイニシアティブを。「米国抜き」にこそ価値を見出せ

「大統領就任初日の撤退」を明言してきたトランプ氏の当選によって、TPPは完全に座礁した。国会承認を手土産にオバマ政権下での批准を促すはずだった日本政府の狙いも、「法案提出を見送る」とした共和党上院幹部の発言によって潰えた。
東南アジア、中南米の新興国、中小国は米国市場の開放と引き換えに米国が要求する通商条件に折り合いをつけてきた。最大市場へのアクセスが拓かれないことは、彼らにとってメリットは小さい。こうした中、参加各国の足並みも揃わない。オーストラリアやベトナムは批准の日程を延期、一方、メキシコやニュージーランドは“米国抜き”へ傾く。

米国の不参加はもはや既定路線である。しかし、高度な自由貿易のルールがアジア・太平洋地域の11カ国で共有されることの意味は大きい。RCEPの枠組みづくりに対しても有為であり、いずれ保護主義による成長の夢が破綻するだろう米国に対して、復帰の道を残しておくことは日本にとって政治的にも有効だ。
米国の不参加は“TPP=米国陰謀説”が意味を失うことでもあり、グローバル化と国民国家との確執、国民がそこに抱く不安や懸念を修正する機会でもある。日本にとっては、まさに独自外交を推進し、自由貿易の流れを堅持するリーダーとして、世界にプレゼンスを示す千載一遇のチャンスである。