今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2017 / 01 / 13
今週の"ひらめき"視点
海外投資における意思決定の要件は流動化し、複雑化し、混迷する

アサヒビールが中国における牛乳事業からの撤退を発表した。同社は2008年に中間層~富裕層をターゲットに高級牛乳市場に参入したが、業績好転の見通しが立たず現地食品企業への譲渡を決定した。
戦略の見直しは日系企業にとどまらない。2400店を運営するマクドナルドは中国忠信集団(CITIC)に約2400億円で事業売却を決定、ケンタッキー・フライド・チキンやピザハットを運営するヤム・ブランズも中国事業を分離、アリババなど現地企業の出資を受け入れた。
人件費の高騰、現地企業の台頭、成長スピードの鈍化など、市場環境変化は急速であり、外資大手による従来型の中国戦略に限界が来ていることは明らかである。

しかし、戦略転換の背景には一企業の戦略条件を越えた経営リスクの増大懸念がある。
資本の海外流出、構造改革の遅れ、格差の拡大、環境や民族問題への対応を迫られる中国であるが、その中国を牽制するトランプ氏もまたグローバリズムによる負の側面によって権力の座へ押し上げられた。内に抱える問題、そして、大衆との向き合い方も類似する。

自国利益の極大化を大義とする政権の施策は、“通常”の経済政策の範疇を越えかねない。自ずと対外的には硬化し、やがて対立する。影響はどのように、そして、どこまで拡大するのか。行き過ぎたグローバリズムの反動が“行き過ぎない”ことを願う。

2017 / 01 / 06
今週の"ひらめき"視点
本質から目を逸らさない。唯一ここが不確実性を乗り越える出発点となる

ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ問題について、マララ・ユスフザイ氏をはじめとするノーベル平和賞の受賞者11人を含む国際的な人権活動家23人は、アウン・サン・スーチー国家最高顧問兼外相を非難する書簡を共同で国連安保理に送付した。
書簡は「ミャンマー国軍による武装勢力の掃討作戦によって数百人規模のロヒンギャが殺害され、数万人が難民生活を強いられている」と指摘したうで、スーチー国家顧問の不作為を批判している。

一方、ミャンマー政府はロヒンギャに関する国際的な批判の高まりを受けて、ミン・スエ副大統領を責任者とする調査委員会を設置、事実関係を調査してきたが、3日、「虐殺や宗教上の迫害はなかった」との中間報告を発表した。とは言え、治安当局による暴力行為の映像が世界中に拡散する中にあって、「国軍による弾圧はなかった」と結論づけた政府への不信は拭えない。

昨年4月、大統領資格を持たないスーチー氏は「大統領を越える存在になる」と言い放って、新設した国家最高顧問に自ら就任した。その彼女が、国軍による掃討作戦が展開されているまさにその最中、11月に来日した。日本政府はミャンマー新政権を「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値観を共有するパートナー」であると評し、官民をあげて彼女を歓待、経済支援を約束した。しかし、彼女が率いる今のミャンマーは本当に価値観を共有するパートナーであるのか。私たちは事実を知らないままこの政権を支援するのか。いや、知ったうえでの支援であるのか、

米トランプ次期政権の行方が見えない中、「2017年は不確実性が高まる」とメディアは口を揃える。しかし、それゆえにこそ私たちは“基本的な価値観”というアイデンティティに拘るべきである。そうであってはじめて揺らぐことのないポジションを世界の中に確立することが出来る。決して本質から逸脱しないこと、そこが“確からしさ”の唯一の基盤となる。

2016 / 12 / 30
今週の"ひらめき"視点
東芝、再び経営危機へ。問われるのは原子力事業の将来価値

東芝は子会社のウェスチングハウス(WH)が買収した原発建設会社CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)に関連して数千億円規模の減損が発生すると発表した。報道によれば、「メーカーであるWHと建設会社であるS&Wは従来から共同で原発開発事業を推進してきた。しかし、工期や費用等の管理においてトラブルが頻発、これらを一元管理する目的で傘下に治めた」という。そもそもの買収目的が「後ろ向き」であるとも言えるが、親会社の事業管理能力に対する批判は免れまい。

2016年3月、東芝は、原子力事業を「業績変動リスクの大きいメモリー事業を補完する安定事業」と位置づけ、2030年までに45基を新規受注する、との計画を発表した。しかし、東日本大震災以来、国内で新規需要は見込めない。結果、海外需要の取り込みが唯一の新規需要となる。政府もこれを後押しする。一方、コストに利益を上乗せして電気料金で回収する“総括原価方式”を採用する電力事業者と一体的に事業を推進してきた国内メーカーにとって、ファイナンスから建設、納入までの工程、費用管理を一貫してメーカーが手掛ける海外事業のハードルは高い。加えて、相手国の統治システムや政治体制からの影響も大きい。WHはインドで6基を受注済みであるが、新興国であればカントリーリスクは高まる。

先般、経産省は福島第1原発の事故処理費用が20兆円を越えると発表した。また、1兆円もの国費を投じてきた“もんじゅ”の廃炉も決定した。国の原子力政策が根本から修正されてゆく中、産業としての原発も重大な岐路に立つ。

2016 / 12 / 23
今週の"ひらめき"視点
もんじゅ、廃炉。長い夢は終わった。

発電しながら燃料を生み出す、夢の原子炉「もんじゅ」の廃炉が決まった。1994年の初臨界から22年、相次ぐトラブルのため稼動日数はわずか200日、毎年200億円以上の維持費が投下され、再開には少なくとも8年の準備期間と5400億円の追加費用が必要とされる。一方、運営者である日本原子力研究開発機構はその杜撰な安全管理体制をもって原子力規制委員会から「運営者として不適切」との烙印を押されたままである。
こうした経緯と状況を鑑みると総額1兆円を越える国費を投入してきた「もんじゅ」の夢はとうの昔に潰えていたと言える。

廃炉には今後4000億円近くの費用が必要となる。しかし、事故処理に20兆円もの費用がかかる福島の現実を突きつけられた国民にとって、それはむしろ合理的な判断と映るだろう。国際的なウランの需給見通し、次世代エネルギーの成長可能性といった点からも「もんじゅ」に対する追加投資の大義は見つけにくい。

原子力技術を引き継ぎ、高度な研究体制を維持することに異論はない。再稼動の賛否を越えて私たちはその社会的コストを引き受ける責任がある。とは言え、日本の原子力政策が重大な岐路にあることは間違いない。従来路線のまま「高速炉の開発は維持する」(政府)では、夢から覚めることはできない。今、私たちは未完の巨大技術に対する夢を捨て、原子力の新たな可能性とエネルギーの新たな未来を構想すべき時にある。

2016 / 12 / 16
今週の"ひらめき"視点
カジノ法案、成立。問われているのは「賭博」の是非だけではない

カジノを含む統合型リゾード(IR)の整備を政府に促す議員立法が成立した。国会における中心的な論点はギャンブル依存症の問題であったが、そもそもIRを国家の成長戦略にどう位置づけるのか、まさに根本的な問題が置き去りにされている。

IRの成功事例として引用されるシンガポールであるが、IRがシンガポール経済の成長を牽引したわけではない。
金融、ICT、医療、教育、港湾に対する優先的な投資、徹底した規制緩和、政府・行政の効率化、英語教育の強化、、、これらを通じて国際的なビジネス環境を整備し、外資を呼び込むことに成功したことが背景にある。つまり、グローバル化による成長戦略がIRの成功条件となったということであり、観光だけが切り出されているわけではない。

シンガポールの場合、そもそも多民族、多文化、多言語国家でありグローバル化の基盤が確立していたことも有利であった。世界から投資を魅きつける国際金融都市のIRであるから意味があるのであって、そうでなければただの公設賭博場に過ぎない。

ホテル、会議場、レジャー施設が一体となった単体事業の破綻はリゾート法でいやと言うほど経験しているはずだ。投資対象国としての魅力や地域の活力をどうつくってゆくのか。問われているのはそこだ。
一方、シンガポールは成長の過程でアジア有数の格差社会を生み出した。はたして日本はどこを目指すのか。IRに内在する本質的な問いに答えることなく、事業のみが目的化され一人歩きする。

2016 / 12 / 09
今週の"ひらめき"視点
問題は「配慮を欠いた」(守安社長)ことではなく、薄っぺらな社会性にある

劣悪な情報品質が社会問題化した医療情報サイトに続き、DeNAはすべてのまとめ記事サイトを閉鎖した。リクルートやサイバーエージェントも「情報の内容を精査する」との理由で類似サイトの一部削除や非公開化に踏み切った。これらはインターネット上の情報や書き込みを特定テーマごとに収集、整理した所謂「キュレーションサイト」と呼ばれるもので、誰でも投稿できる運営スタイルを採用することでユーザー目線にあった身近な情報サイトとして急成長してきたサービスである。

何らの検証やチェックも受けない記事が、“医療情報”として提供され続けた「ウェルク」の閉鎖は当然だろう。医療情報の商品化に対する経営陣の認識の甘さは、素人という表現を越えて“幼稚”と言って良い。
しかし、問題の悪質さは「投稿された記事内容について運営会社は一切責任を負わない」と標榜しつつ、外部ライターを使って大量の記事を投稿させていたこと、かつ、その際、データ検索エンジンの上位キーワードを組み合わせた「テーマ」を提示したうえで、「リライトのこつ」などと称して無断転載や無断引用を組織的に推奨していた、ことにある。

ユーザーや顧客に対する不誠実さはもちろんであるが、ビジネスに対する独善的で不遜なまでの“軽さ”には反社会性すら感じる。
トップ、役員、従業員、外部ライター、、、当事者1人1人が“軽さの連鎖”を断つ意志を持てるか。この会社の信用回復はこの一点にかかっている。

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