今週の"ひらめき"視点
新型ウイルスに萎縮する世界、英国の“集団免疫理論”は有効か
新型コロナウイルス感染症が世界に広がる中、各国は一斉に金融緩和に舵を切った。16日、日銀もETFの買い入れ額を倍増すると発表、翌17日には1日あたりの過去最大1,800億円を投じた。しかし、株価下落の歯止めにはならず、返って、増大する含み損が明らかになることで政策効果への不信が募った。日銀は「リーマン・ショックほど経済は落ち込まない」との見解を表明したが、18日に発表された貿易統計の速報がそれを打ち消す。2月、中国からの輸入は前年比マイナス47%と激減した。文字通り中国からの部品、製品の仕入れが半減したということであり、国内の生産、販売への影響はこれから顕在化する。今、流行は欧州、米国、アジアへ拡散した。国境の封鎖や行動制限が世界に広がる中、世界規模で生産が滞り、市場が縮小しつつある。 “行き過ぎたグローバリズムへの反動” といった文脈を飛び越えて、世界は一挙に閉じつつある。
こうした中、12日、英国のボリス・ジョンソン首相が発表した対策が注目される。まず、「英国はイタリアより4週間遅れている、これから大規模な感染が予想される、多くの家庭で家族や親友が失われる」としたうえで、「英国は封じ込めではなく、ピークを遅らせ、ピークを50%に抑えることでリスクを最小化する。よって、当面、学校は閉鎖しない、イベント禁止は効果が小さいので行わない、渡航制限も追随しない」とした。そして、「新型ウイルスは感染しても多くの場合、軽症である。ゆえに高齢者や持病を持つ人など重症化しやすい弱者対策に集中する」との医療方針を示した。
こうした考え方は、人口の6割程度の人が感染し、免疫保持者となることで感染を収束させる集団免疫理論にもとづくという。ジョンソン氏は最高医療責任者と主任科学顧問を伴って、政策選択の根拠を示したうえで、「自粛行動は長期にわたって維持できない。ゆえに社会リスクを疫学的に最小化する」ことを国民にメッセージした。
集団免疫理論の採用には反対意見も根強い。「制御不能」となる事態を懸念する専門家も多く、「当面はしない」とした学校閉鎖は、「感染スピードが予想以上に速い」との理由でわずか6日後に撤回、方針転換を余儀なくされている。しかし、トップがその責任において選択した政策を、その根拠を明示したうえ国民に説明したことは、政策評価の基準を持つという意味において正しい。
ウイルスとの戦いはまだ第1コーナーを回ったばかりだ。各国の知見や経験を共有しつつ、最高レベルの専門家を交えたオープンな議論の中で、タイムラインを伴った総合的なウイルス対策を策定していただきたい。それこそが経済の不透明感と社会不安を払拭する最良のメッセージとなる。
今週の“ひらめき”視点 3.15 - 3.19
代表取締役社長 水越 孝