今週の"ひらめき"視点

民主主義は大丈夫か。社会に巣くう「ギレアデ」的なものの再点検を!

マーガレット・アトウッドの新作「誓願」(鴻巣友季子訳、早川書房)を読んだ。本作は1985年に発表された「侍女の物語」(斎藤栄治訳、早川書房)の続編で、キリスト教原理主義にもとづく家父長制の全体主義国家、「ギレアデ共和国」の時代を生きる3人の女性の物語である。
自然災害が頻発し、経済が破綻し、極度の出生率低下によってアメリカ合衆国は破綻、ギレアデはその混乱に乗じた軍事クーデターによって建国される。「人々は不安になっていた。そのうち怒り出した。希望のある救済策は出てこない。責める相手を探せ」(本文より)、そんな社会の空気が陰湿な管理監視国家を誕生させる。

1月6日、米連邦議会がトランプ支持者によって占拠された。襲撃には武装した極右団体や反政府私兵集団の姿もあった。まさに小説を彷彿とさせる前代未聞の事態だ。これに対してバイデン氏は「民主主義はもろい」としたうえで、「常に警戒する必要がある」と国民に呼びかけた。
はたして民主主義を後退させたい者たちからの攻撃は止まない。ミャンマーの民主主義は一夜にして崩壊した。香港では民主派の元議員47人が政権転覆容疑で起訴された。アフリカではイスラム過激派の活動が勢いづく。新疆ウイグル自治区の人権侵害も深刻だ。ロシアの反体制指導者ナワリヌイ氏の解放も実現しない。

今、世界のあちらこちらで、「疑似ギレアデ前」の状況が生まれつつはないか。気候変動、経済格差、テロ、パンデミックという不安の中、弱者にぶつけられる怒り。異論の排除。権威への無批判な忠誠。拡散する陰謀論。隠蔽、改ざん、粉飾の常態化。不正、癒着の蔓延。人種や女性に対する根強い偏見。これらはすべてギレアデ的な国家を迎え入れるための準備作業のようなものだ。
2月28日、フロリダで開かれた保守系政治団体の集会にトランプ氏が登場した。取り沙汰されていた新党旗揚げを「フェイク」と切り捨てたうえで、自身の弾劾に賛成した共和党議員の排除を主張した。支持者の間では「3月4日に議会を再襲撃する」とのデマも拡散した。ギレアデの強権的な愚民政治は腐敗と醜聞の果てにやがて崩壊してゆく。現実はどうか。他人事ではない。


今週の“ひらめき”視点 2.28 – 3.4
代表取締役社長 水越 孝