今週の"ひらめき"視点

次世代放射光、新たな産学共創スキームが東北の可能性を拓く

18日、当社にて「放射光で広がる未来のモノづくり~光イノベーション都市・仙台の可能性~」と題したオンライン・セミナーが開催された。主催は仙台市、現在、同市は2024年度からの運用を目指して東北大学に建設中の「次世代放射光施設」を中核とする “リサーチコンプレックス” の形成を進めており、セミナーはその利活用促進の一環である。参加企業は先端素材、電子材料から創薬、食品、化粧品、環境エネルギーまで多岐にわたった。次世代放射光施設に対する産業界の関心は高い。

さて、次世代放射光施設とは何か。国内では物質内部の構造解析を行う硬X線向け放射光施設 SPring-8(理化学研究所)が稼働中だ。身近なところでは低燃費タイヤ、ニッケル水素電池、医薬品、ヘアケア製品などの開発に貢献している。一方、次世代放射光施設は軟X線領域で高輝度な放射光を発生させることができるため、軽元素の電子状態やその変化を見ることが得意であるという。関心のある方は “次世代放射光” で検索いただくとして、要するに、太陽光の10億倍の明るい光で、これまで見えなかったナノの世界をはっきりと見ることが出来る世界最高水準の計測施設、である。国からは量子科学技術研究開発機構(量研/QST)、地域からは仙台市、宮城県、東北大学、光科学イノベーションセンター、東北経済連合会が参画、これに民間企業を加えた官民地域3主体による大型事業である。

このプロジェクトで特筆すべきは産学連携の新たなスキーム、“コアリション” であろう。Coalitionの語源は「共に育つ、1つになって成長する」、つまり、産業界と学術界が一体となってイノベーションを目指すということだ。施設側は「放射光をどう利用するかではなく、こんなものを見たいという課題を教えて欲しい」と産業界に呼びかける。これに東北大や光科学イノベーションセンターをはじめとするトップクラスの研究者が対応する。コアリションへの加入は一口5千万円、10年間にわたり年間200時間の利用権が与えられる。加入企業は2021年9月時点で約100社に達している。地域の中小企業には一口50万円で施設を共同利用できる東北経済連合会の「ものづくりフレンドリーバンク」も用意される。中小企業にとっての敷居も高くない。

東北経済連合会は次世代放射光施設の経済効果を稼働後10年間で1兆9千億円、雇用創出は宮城県内だけで1万9千人と試算した。同連合会は国際リニアコライダー(ILC、直線型衝突加速器)の誘致も進める。福島では2020年に開所した「福島ロボットテストフィールド」(RTF) の運用が本格化しつつある。1次産業分野でも農林水産省の「スマート農業実証プロジェクト」が東北全域で展開される。今、先端技術が東北の潜在力を引き出しつつある。
復興は未だ途上だ。とは言え、復興は過去の再生ではない。震災とコロナ禍を乗り越えた、その先の未来に向けての “東北の挑戦” を当社も微力ながら応援したい。


今週の“ひらめき”視点 11.14 – 11.18
代表取締役社長 水越 孝