アナリストeyes
中古車市場の変化から見た第三者機関の必要性
主任研究員 種谷 謙一
我が国の中古車市場では、オートオークションが業者間取引の中核を成している。中古車というのは、消費者が車両を乗り換える際や車両を売却する際に初めて発生するものであるが、消費者に対して販売する事業者にとっては、消費者のニーズに応えることが可能な商品を用意しなければならない。オートオークションというのは、中古車を売却したい事業者から車両を集め、中古車を仕入れたい事業者がそれらの車両をセリによって落札するという事業モデルである。
本来、中古車を消費者に販売する事業者では、中古車が発生する自動車ディーラー等から相対取引によって車両を仕入れることが常であった。そのような中、日本では1967年にオートオークションが誕生し、自動車ディーラー等の中古車売却事業者にとっては販路の開拓、仕入れを行う中古車販売店にとっては仕入車両の幅を拡げるという役割を担うことで、中古車市場を形成してきた。
オートオークションを開催する企業では、出品手数料、成約手数料、落札手数料といった、手数料を参加事業者から得る対価として、取引場を提供している。しかしながら、単に取引場を提供するだけでなく、業者間取引で発生する苦情等の問題を調整することや、車両の客観的評価による商品内容の明確化といった役割を担っている。
例えば、現在普及しているインターネットオークション等において、出品している商品と落札後に手元へ届いた商品に差異がある場合や瑕疵が発見された際、落札した消費者は直接出品をした事業者に対して返品等の申しつけを行なわなければならない。しかしながら、商売というのは往々にして消費者と販売側の事業者における情報の非対称性を利用して行なわれることも多く、結局は消費者側が泣き寝入りをしなければいけないことも少なくない。多少お客様を騙しても、自身の利益に繋げたいとする販売事業者は残念ながら存在する。そのような中、現在オートオークションが担っているような役割を果たす機関が間に入ることで、取引上のトラブルを軽減させるだけでなく、流通市場の健全化に繋げることが可能となる。
現在はオートオークションを通じた業者間取引のみならず、在庫共有システムという取引形態も中古車市場で確立されつつある。これは、各中古車販売事業者が在庫を持つ小売用車両について在庫共有システムへ登録し、そのシステムの会員となる事業者がその登録車両を購入することが可能となる仕組みの、相対取引の補助を行なうシステムである。車両を登録する事業者にとっては、小売機会を損失することなく、商品の在庫回転率を早めることが可能となるため、日々価値が下落する中古車の在庫リスクを軽減させることで価値が見出されている。この場合も、在庫共有システムを運営する事業者ではオートオークションと同様に苦情発生時の調整等の役割を担っており、車両の客観的評価を行なう事業者も存在する。
また、事業者が消費者へ中古車を小売する際、車両評価を行なうことが多くなっている。販売を行なう当事者が車両を評価したのでは、「販売したいがために良いことばかりをアピールされ、結局は騙されるのではないか」という消費者心理を生むこととなる。そのため、評価については第三者機関である車両評価会社が実施することが多い。
このように日本の中古車市場では、取引の流動性を高めるだけでなく、流通の健全化や消費者保護といった観点から、第三者機関ともいえる事業者の役割が増しつつある。
かつての中古車市場では、販売時における走行メーターの巻き戻しや事故歴の隠蔽などは日常茶飯事であり、消費者の中で「中古車というのは信用できない商品である」との認識を持たれやすい状況であった。しかしながら第三者機関が確立することで、このような認識は薄まり、結果として堅調な市場を形成するに至っている。
我々が行なっている産業調査という仕事も第三者機関として各業界と対峙し、俯瞰的に業界動向を取りまとめ、業界に対する問題提起や時流の紹介などをさせてもらっている。情報交換と称し、普段直接お会いさせていただいている方々に対して直接の利益を提供できなくても、業界発展のために少しでもお役に立てるような活動を今後も続けていきたいと考えている。
研究員紹介
種谷 謙一(主任研究員)
2003年矢野経済研究所入社。主に自動車流通業界の調査研究を担当し、特に中古車市場、自動車リース市場に精通。