アナリストeyes

日の丸半導体産業の最後の砦『パワー半導体』

2012年5月
主任研究員 池山 智也

2012年に入ってから経営再建中だったエルピーダメモリの会社更生法申請、ルネサスエレクトロニクスの財務体質悪化が報じられ、国内半導体メーカーの先行きは非常に厳しい状況にある。また、2011年から続いている円高、アジアメーカーの台頭により、国内主要エレクトロニクスメーカにおける2012年3月期決算は巨額の赤字となった。さらに、これまで日本が優位とされていたゲーム産業についてもスマートフォンを中心としたオンラインゲームの普及によりハードウェアの必要性が薄れてきており、任天堂も連結決算開始後で初となる最終赤字に転落している。

このような状況の中で、国内半導体メーカーのシェアが高く、技術的にもリードしている分野がパワー半導体である。パワー半導体は直流から交流、交流から直流に変換するために使われるインバーター/コンバーターで必要となる半導体デバイスであり、ダイオードやパワーMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの種類がある。弊社が2011年に実施したパワー半導体の調査結果では、ワールドワイドの市場規模は前年比10.3%増となる156億7,000万ドルに達し、半導体世界市場の伸び率1.3%を大きく上回る。さらにメーカーシェア上位10社中に日本メーカーが5社入っており、特に耐圧600V以上の用途で使われるIGBTにおける日系メーカーのシェアは60%近くに達する。

パワー半導体が現在注目されている背景には、環境規制や省エネと密接な関わりがあるからである。特に日本メーカーがリードしている耐圧600V以上の領域は、白物家電や新エネルギー(太陽光発電、風力発電)、ハイブリッド車や電気自動車、電鉄などのインバーター/コンバーターで必要であり、今後も世界的な需要拡大が見込める。すでにIGBTモジュールでトップシェアである三菱電機は2011年から断続的に設備投資を行い、2012年にはパワー半導体の前工程の一部を海外企業に委託してコスト競争力を高める。富士電機でも中国の深センに組立・試験ラインを新設する事を発表し、今後の中国市場における需要拡大に対応する。

さらに今後期待されるのが次世代パワー半導体への日本メーカー各社の取り組みである。現在使われているパワー半導体はSi(シリコン)で量産されているが、Siよりも電力変換損失が小さく、材料物性に優れたSiC(シリコンカーバイド)を使ったパワー半導体の製品開発が進展している。SiCを使う事により従来のSiパワー半導体よりも耐圧を高める事が可能になり、スイッチングロスを大きく低減出来る。また、高温動作が可能であるために、IGBTモジュールで必要となる冷却機構の簡素化に繋がり、モジュール自体の小型化やコストダウンに繋がる。2011年から2012年にかけてSiCを使ったIGBTモジュールの製品発表が相次いでおり、6インチSiCウェハの量産体制とコストダウンが進む2015年以降には、新エネルギーやハイブリッド車、電気自動車でも採用が進む可能性が高い。SiCやGaN(窒化ガリウム)などの次世代半導体材料を使ったパワー半導体は、欧米メーカでも研究・開発がされているが、SiCトランジスタを使ったフルSiCモジュールを量産しているメーカーは1社も無い。このため次世代材料を使ったパワー半導体の製品開発競争がさらに激化する事が予測され、デバイスだけでなくモジュール化の周辺技術も合わせた総合力が必要となる。このために、パワー半導体メーカーでだけでなく、様々なメーカーとの連携によるオールジャパン体制によって次世代パワー半導体の実用化を進めることが望まれる。

研究員紹介

池山 智也(主任研究員)

調査担当分野は半導体デバイス全般。これまで車載用マイコン、MEMSセンサパワー半導体などのマーケット資料を作成。