アナリストeyes

医療関連ビジネスは何処へ向うのか

2012年7月
主任研究員 小林 裕

医療周辺業務のアウトソーシングは過去20年以上にわたり成長を続け、一大サービス産業としての地位を確立している。民間企業は病院経営そのものには参画できないが、病院経営の効率化・合理化に資する周辺サービス提供が可能とし、各種代行業務などを推進させている。

当初はコスト抑制を目的とした下請けの視点でアウトソーシングを活用する病院が多かったが、徐々に企業側のサービス提供体制も変化し、それぞれに専門性を高めると同時に、複数業務を請け負う複合的なサービス等を行うようになってきた。近年ではPFIの形態で長期間にわたる業務を特定企業が担うケースなども誕生。大手総合商社等が多面的なコーディネート力を発揮する領域にもなっている。

弊社が市場規模を推計した同主要業務として、医療事務代行、滅菌代行、医療廃棄物処理、病院・福祉施設給食、臨床検査の5つがある。本5分野のアウトソーシング事業は1995年に合計約9,900億円であったものが、2011年には1995年比で約1.5倍の市場となっている。

しかし、長きにわたり右肩上がりを持続してきた同アウトソーシングサービスも、ここ1~2年市場の伸びは全体的に鈍化している。委託率が飽和ぎみな業務も多数見られ、事業としての旨みは減る方向にある。病院数は減少の傾向、国民医療費も増加抑制を強いられており、従来の枠組み通りに進めても成長は望みにくいビジネスとなっている。

今後は、病院の経営全般への関与、総合力・調整力などでの差別化、あるいは医療本質部分の人材ビジネスとしての展開は大いに注目される。実際に医師、看護師、薬剤師などの専門職を充足させるニーズには恒常的で、それに応える人材紹介業は2005年頃から台頭している。さらに、医療機関を顧客と捉える視点を一歩進め、最終ユーザーである、患者ニーズをどう捉えるかが肝要となってこよう。とくに「患者アメニティ向上」はキーワードとしてクローズアップされることになる。

ベッドサイド情報端末導入等を合わせた病室環境整備、患者向け情報サービス、共有スペースである売店、食堂、カフェなどの充実はアメニティサービスの一例である。大規模病院ではコンビニエンスストアの導入がもはや一般的、院内コンビニ店舗数は10年間で約20倍の躍進ぶりだ。また、直近ではタブレット情報端末の院内活用は有望テーマのひとつに浮上している。アメニティ分野は病院の設備投資に依存するのではなく、患者の室料負担、院内消費等に期待する形が基本となる。病院の収入源である診療報酬などとは一線を画する消費者目線のサービスが要求される。

少し医療よりのトレンドワードでは「予防医療」が筆頭に挙げられる。予防医療の中核サービスである健診から派生するビジネスは要注目。すでに住民健診、職域健診、人間ドックなどを合わせると健診関係で1兆円に近い市場となっている。周辺では、保健指導部分のソリューションなど新規ビジネスの範囲は広がる。健診結果をもとにしたエビデンスのある食事指導、運動指導、サプリメント斡旋など医療・健康ビジネスとしての拡大が期待される。

現状、わが国医療行政では国民皆保険制度の堅持を題目に唱えている節があるが、医療財源問題を背景とし、国民皆健診をベースに方向転換をする可能性もあると考える。すべての国民が等しく健診を受けることを前提とし、健診受診情報をICカード等に記録、これを健康保険証と合体させるような展開はあり得ると見る。現在行われている健診は受けることのみが目的化しており、医療(治療)との橋渡しがなされていない。医療保険者運営単位の変更、健診未受診者に対するペナルティ、健診経過と医療(治療)の連携など、おこりうるダイナミックな動きをどう読み解くかが、医療関連ビジネス機会の創出に不可欠ではないかと認識する。

研究員紹介

小林 裕(主任研究員)

矢野経済研究所入社以来、医療関連の周辺ビジネス、ニュービジネスなどの調査研究実績多数。
臨床検査分野の業界レポートも担当している。