アナリストeyes

日本は世界に先駆けて高齢者市場を確立する好機に恵まれている

2013年4月
主任研究員 亦野 一彰

今後、わが国の人口は減少する見通しであり、2010年の1億2,806万人から、2048年には1億人を割って9,913万人となり、2060年には8,674万人になるものと推計される。したがって、2060年までの50年間で、人口は4,132万人(当初人口の32.3%)の減少が見込まれる。これに対し老年人口(65歳以上人口)は2,948万人から3,464万人へと516万人(同17.5%)増加する。(国立社会保障・人口問題研究所データより)

現在、一般住宅以外の高齢者住宅・施設に居住する高齢者数は約140万人で、これは65歳以上高齢者人口うち5%にも満たない。特に「住宅系」の高齢者住宅の供給量はまだ少なく、広く普及していない。特別養護老人ホームには入居待機者が多数存在することや、民間の有料老人ホームも急増していることからもまだまだ足りない状況が顕著である。

高齢者住宅を市場としてみたとき、高齢者人口の絶対数の増大はマーケットの拡大を意味し、要介護人口や1人暮らし・夫婦2人暮らしの高齢世帯数の増大はニーズの拡大を意味する。しかも、その需要に対して絶対数は圧倒的に不足しており、これは大きなビジネスチャンスといえる。

ただ、サービス付き高齢者向け住宅のように国の制度的後押しで急速に成長しうるメリットがある一方、国の政策・制度が変わることで事業に支障をきたす可能性は常に内包している。そのため、介讃報酬に依存しないビジネスモデルを構築することが重要である。

わが国には多種類の高齢者住宅・施設が存在するが、各種制度におけるそれぞれの事業の位置づけによって、その取り扱いに格差が生じている。高齢者向け住宅においては、「住まい」と「介護」「医療」「生活支援」などの諸サービスが適切に組み合わされた上で、住み慣れた地域で柔軟性をもって提供されることが望ましい。

住まいの提案としては、以下の3つのタイプがある。
① 居住への担保性や資産性を求める高齢層には分譲型
② 経済性の優先や身体状況の変化等によりライフステージを替えたい高齢層は賃貸型
③ 子育て世代などと一緒の環境で生活を望む高齢層には多世代共住型

医療・介護などの事業運営そのものは、地元の医療法人や訪問介護事業者、有料老人ホーム事業者などとの連携・提携といった対応が考えられるが、長期にわたる安定運営や、マンション運営に見合ったシステムの構築は、売主・貸主たる事業者の課題となる。商品価値を高め、住宅事業者と医療・介護事業者がwin-win の関係を築きながら長期にわたり協力関係を維持していくことが必要となる。

また、看取りの場としての高齢者住宅が求められるようになる。認知症の方に関する専門的なケアをどう提供するかもポイントになる。自立者向けには住宅を提供するだけでなく、孤立化を防ぐという大きな目的を待った自立者向け住宅が求められる。

2012年8月、厚生労働省は国内の認知症高齢者数が推計で約305万人(2012年)に上ると発表した。2002年には約149万人だったので、この10年で倍増したことになり、団塊世代が75歳以上になる2025年には470万人に達すると予測されている。2010年における認知症の有病率は65歳以上で9.5%、85歳以上で27%といわれているので、65歳以上の方の約10人に1人、85歳以上の4人に1人が認知症になることになる。

世界的な傾向としても、病院での延命治療の末に死を迎えるよりも、自宅や高齢者住宅などの居住系サービス住宅で、家族や好きな人に見守られ最期を迎えたいとする人々が増えている。日本でも、最近では看取り・認知症ケア・医療連携と三拍子そろった施設が多くなっており、有料老人ホームのサービス内容は重度者に対して充実してきている。

高齢者住宅や施設の開発・運営業者は、入居者自らが何をしたいかを決定し、周囲がそれをサポートする住宅づくりを目指すべきである。

日本は世界に先駆けて少子高齢化する。それは世界に先駆けて高齢者市場を確立する好機に恵まれていることを意味している。業界各社はこのチャンスを逃すべきではない。そのためには高齢者という巨大で多様、また個性的な市場をよりよく知る必要がある。

高齢者の持つ能力と意欲とを活かす方策を創造することが重要である。

研究員紹介

亦野 一彰(主任研究員)

20年以上、住宅、非住宅、不動産開発関連の調査研究に従事。企業調査から商圏、消費者調査まで幅広い調査経験をもつ。