アナリストeyes

【地域活性化】写真の町 北海道東川町

2016年1月
理事研究員 池内 伸

全国で人口減少、少子高齢化が進み、特に地方では深刻な状況になりつつある。そうした中、北海道・東川町は30年にわたりさまざまなアイデアや取り組みを継続し、成果を挙げてきた。

大雪山の麓にある東川町は自然に恵まれているものの、特にめぼしい観光資源もなく、人口8千人規模の小さな町である。しかしこの町は北海道でも数少ない人口増加の自治体で、1994年に7千人を切った人口は、2014年までの20年間で千人近く増加した。

東川町の成功は、80年ごろからの地域活性化のムーブメントとなった「一村一品運動」がきっかけだった。当時多くの自治体が物産品や景観を一品として取り上げる中で、東川町は「写真」を提案し、85年に「写真の町」を宣言した。そして世界でも例のない試みとして、写真写りの良い町づくりを目指した。

最初の年には「東川町国際写真フェスティバル」を開催した。著名な写真家から新人まで、幅広い写真家が集う一大イベントとして開かれ、それ以降、写真に関わるイベントや集いを次々と開催してきた。

東川町が全国的に注目されるようになったのは、94年に全国の高校生を対象として始めた「写真甲子園」だ。参加は当初、約170校だったが、今では約500校に増えた。町民全体が協力し、キヤノンなど大手企業が特別協賛するなど、全国的な写真の一大イベントとなっている。単に写真の技術を競うだけでなく、写真のコンセプトや意図をいかにプレゼンテーションできるかも審査対象となる。

本戦の3日間は、参加する高校生が東川町民の家でホームステイをして、住民と学生が交流を深めている。このときホームステイを体験した高校生は、卒業してからも東川町を訪れることが少なくないという。

この他にも「写真少年団」、2人の大切な瞬間の思いを形に残す「新・婚姻届」、まちづくりに協力する「株主制度」、町で生まれた赤ちゃんに椅子を贈る「君の椅子」、子どもの写真などを記念ラベルにできる地元産米入り「米缶」など写真に関連する多くの企画を実施している。一つ一つが「写真の町宣言」という理念でつながっており、東川のファンになり、支援者になり、東川に住むといったストーリーが構築され、実践されている。

特筆すべきは、こうした企画を発案・実行しているのが自治体の人材だという点である。

地域活性化が成功しているとされる地域をみると、外部の企業や人物が何らかの形で関わっていることが多い。今の時代には単なる思い付きやブームに乗るだけのイベントでは長続きせず、自治体だけの企画・実行力では限界があるといわれていた。しかし東川町はあくまで自治体が中心となって企画・実行しており、それを現在も継続している点が注目されている。

日本のどの地域でも東川町のような取り組みができるとはいわないが、今や自治体も企業並みの企画力、実行力がないと本当の地域活性化につながらないことは明らかである。東川町の成功が地方自治体にとって、特に、これといった資源を有していない自治体にとって、大きな見本となることは間違いないであろう。

株式会社共同通信社「Kyodo Weekly」2015年12月7日号掲載