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地域包括ケアと医療ICT~生涯カルテへの展開~

2016年8月
理事研究員 早川 賢

2025年、700万~1千万人といわれる「団塊の世代」がそろって75歳以上の後期高齢者になる。約5人に1人が後期高齢者という社会の到来まであと10年を切った。

高齢化の進展に伴い糖尿病などの生活習慣病・慢性疾患が増加、疾病構造が変化する中で、病気と共存しつつ生活の質(QOL)の維持・向上を図る必要に迫られる。

一方、国の財政は悪化の一途をたどっており、社会保障制度の改革は急務だ。そこで医療や介護提供体制に選択と集中のメリハリをつけ、医療・介護のケア施設と在宅とを住み慣れた地域で効率的に活用する仕組みとして「地域包括ケアシステム」の構築が注目される。

このシステムでは、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることを基本コンセプトの一つとしていることから、在宅での医療・介護に力点が置かれている

在宅ケアを推進していく上で、日常療養の支援、退院支援、急変時の対応、看取りといった態勢作りが必要とされているという。

この態勢を構築するためには、在宅に関わるさまざまな職種―医療系では医師、歯科医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士など、介護職種ではケアマネージャーやホームヘルパーなど、その他保健・健康関連職種などが連携していく必要がある。

産業的には、この多職種連携におけるICT導入振興にあらためて関心が寄せられている。

地域包括ケアシステムに関わる医療・介護・生活支援といった機能は、多くの地域において縦割りに構成されており、その提供態勢が一体的でないということは地域包括ケアシステムを構築する上での問題となっている。

そうした中、地域における多職種・多施設による連携ケアには、職種・施設間での正確・迅速・有用な情報共有が前提であり、その実践ツールとしてこれまで様々な医療連携ネットワークシステムが開発されてきた。

11年以降、医療情報の地域連携ネットワークの稼働件数は急増し、15年には207件を数え、ほぼ全ての都道府県でネットワークが稼動しており、導入が進んできた。

しかし、費用負担の問題もあり、普及というには道半ばであり、まだ相当に導入余地が残されていると言えるであろう。

他方、クラウド上でのシステム展開が可能になったことで安価となり導入施設の裾野は拡大方向にある。施設外での医療情報の保管が認められたことも後押し要因となっており、今後、中小規模の施設を含めさらなる導入、稼働の拡大が見込まれている。

地域包括ケアシステムは在宅医療・介護を起点とした情報システムであるが、今後、ウェアラブル機器などを通じPHR(個人医療情報)が普及、拡大していく中、さまざまな健康データの集積・活用が期待されている。

時間軸を拡張することで利用者本人の健康、医療、介護など誕生から死去までの人生全体をカバーした「生涯カルテ」への展開が今、目指されている。

株式会社共同通信社「Kyodo Weekly」2016年7月18日号掲載