アナリストeyes
破壊的イノベーションが起きる場所
理事研究員 野間 博美
平成28年度版の中小企業実態基本調査によれば、従業員の構成について産業大分類別にみると、正社員・正職員の割合が高いのは情報通信業(74.1%)や運輸業、郵便業(71.6%)などであり、逆にパート・アルバイトの割合が高いのは宿泊業、飲食サービス業(49.4%)や小売業(38.2%)などである。このことから、宿泊業、飲食業、小売業は、パート・アルバイトなどの非正規社員に支えられてきた典型的な業種ということができる。
一方で、帝国データバンクが2017年7月に公表した「人手不足に対する企業の動向調査」によれば、非正社員に関して企業の29.4%が不足していると感じている。この結果は6カ月前からは0.1ポイント減少したが、1年前からは4.5ポイント増加しているという。業種別では「飲食店」「電気・ガス・水道・熱供給」「各種商品小売」などで高い結果となっている。上位10業種中7業種が小売や個人向けサービスとなり、消費者と直接的に接する機会の多い業種で人手不足の割合が高いとしている。このように、非正規労働者に支えられてきた接客の多い業界において、特に非正規労働者に関する人手不足が深刻な状況になってきていると言えよう。
こうした中、株式会社エイチ・アイ・エスのグループ会社、H.I.S.ホテルホールディングス株式会社は、「変なホテル」について、今後の開業計画を発表した。2015年3月にハウステンボスにて1号棟がオープンした「変なホテル」は、最新技術のロボットやシステムを活用することで、生産性を向上させた世界一のローコストホテル(LCH)の実現を目指している。フロントでは多言語対応のロボットたちがチェックイン・チェックアウトの手続きを行い、クロークではロボットアームが荷物を預かる。客室前では顔認証をするなど高度なICT技術を活用したホテルである。今後、東京都内をはじめ、大阪、京都、福岡など日本各都市に、訪日旅行者を含むレジャー層をターゲットとした都市宿泊型ホテルを計10軒開業する計画としている。
また、コンビニ大手のローソンは、2018年春に東京都内の店舗の一部で無人レジを導入すると公表した。都内の2、3店舗で0時から5時までの時間帯に限って導入するとしており、専用のアプリを立ち上げ、スマートフォンで商品のバーコードを読み込み、「LINEペイ」などで決済する手段をとる。決済後は、スマホに表示されるバーコードをレジに置かれるタブレットにかざして店を出るシステムという。
さらに飲食業界では、すかいらーくグループが、ファミリーレストランとしては初めてとなるセルフレジのシステム導入を開始している。利用客は、会計の際に無人のレジで伝票を機械に読み込ませ、クレジットカードや電子マネーで支払うことができる。昼食時など、混雑する時間帯の会計の待ち時間を短縮し、接客サービスを向上させる狙いがあるとしているが、マンパワーで対応せず、ICT化による効率化対応であることも間違いない。
以上のように、これまで労働集約的であったサービス業や小売りの店頭などにおいては、かつてのようにパートタイム労働者を潤沢に確保することが困難になってきており、今までのようなオペレーションで営業を継続することは困難になりつつある。こうした状況下で、一部で採用が始まってきているのがICTの先端技術の活用である。これらの業態はどちらかと言えばこれまでマンパワーに頼ることが多く、ICT化が比較的遅れていた業態である。皮肉なことに、今後の人手不足がこれらの業態のICT化の追い風になることは疑いようがない。
中でも中小企業の現場においては、賃金の条件も悪く、大手以上に人が集まらないことが予想され、最新の技術の活用は不可避になると予想される。無人レジは、店員のマンパワーを客が代替しているという見方もあるが、これは一過性のものであり、他社との競争環境の中で、次第に客に負担を転嫁しなくて済む方法が開発されていくであろう。接客におけるAIやロボットの活用などは、既に多方面で実験が行われている。
日本が強みとしてきた製造業などの現場では、過去時間をかけて自動化や効率化が図られてきた。しかし、外部環境の大きな変化は、これまでICTの活用が遅れていた小売りやサービスのような労働集約的な業態に対して、強制的な変化を要求することになるだろう。
破壊的なイノベーションとは、意外にこういった形で一気に進むものなのかもしれない。