アナリストeyes

停電対策としてのスマートコミュニティ

2018年11月
主席研究員 浅野 求

大規模地震による大規模停電

2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震では、苫東厚真火力発電所の発電設備が損傷して緊急停止した。それを引き金とする複合的な要因が重なって、地震発生18分後には北海道電力管内の全域で停電(ブラックアウト)することとなった。震源地に近い発電所における設備損傷の影響が、北海道の電力系統全体に波及した大規模停電である。震源地から離れた地域においても、電力系統が繋がっているため影響を受けて停電し、復旧までに1日以上を要している。北海道内において、何故、震源地から離れた地域まで停電しているのか、理解に苦しむ方々も多かったのではないかと想像される。

このような広域で長時間のブラックアウトは悪条件が重なったことにより発生した稀なケースであるが、大規模災害時には強制停電や計画停電等での対応が必要になることは、東日本大震災後に多くの地域で経験されている。

自家発電システムによる停電対策

ここで、停電対策として有効となるのは自家発電システムである。工場やビル等では常用自家発電システム、コージェネレーションシステム、非常用発電システム等が導入されており、また、住宅では太陽光発電システムや家庭用燃料電池(コージェネレーションシステム)が多く導入されてきている。

住宅用の太陽光発電システムの多くはFIT制度により導入されており、通常時は余剰電力を電力会社に売電しているが、停電時は発電電力を自家消費できる。蓄電池も併せて設置していれば、昼間の発電余剰分を夜間に利用することもできる。ただし、停電時に自家発電システムとして運転するためには、当然ながら電力系統と切り離して使用しなければならない。電力系統の送配電線は使用できないため、停電時の自家発電は自家消費として使用するほかなく、地域で分配して使用する等の方法はとれない。

電力自営線を使用したスマートコミュニティ

この課題を解決して、停電時においても地域に自家発電の電力を供給し、自立的に地域で運用するシステムとして、電力自営線を使用したスマートコミュニティ(あるいはスマートシティ)が全国で構築されている。電力自営線方式は、大手電力会社の送配電線(電力系統)を使用して電力を供給するのではなく、スマートコミュニティの事業者が自ら設営し維持管理している送配電線で電力供給する。スマートコミュニティ内に自家発電システムを設置して、電力自営線を使用して地域に電力供給する方式であれば、電力系統が停電時でも地域内で自立的に電力供給が可能である。すなわち、災害に対して強靭なスマートコミュニティが構築されている。

ここで、電力自営線による自家発電システムの電力供給は、電気事業法では特定供給として規定されており、もともと、コンビナート内等において自家発電した電力を他の工場や子会社等に供給することを認める制度として存在していた。従来の特定供給の制度では、供給者の発電設備により需要の100%を満たすことが必要であり、電力会社等のバックアップは不可とされていた。しかし、東日本大震災後の電力需給逼迫を受けて2012/10に規制緩和され、需要の50%以上を満たす供給であれば許可されるようになった。これは、コージェネレーションシステム等の分散型電源の導入促進を図るための措置であり、常時は供給域外の電源からの託送受電によるバックアップを得ながら供給できるようになった。

また、旧特定電気事業の制度もあり、これは自らの発電設備や送配電設備(自営線)を用いて特定地点に電力供給を行う事業であるが、2016/4の電気事業法改正により、特定供給や特定送配電事業の制度に移行した。特定送配電事業は、自営線による特定地点への電力供給であり、特定供給の形態における発電事業のない形態である。

このように、東日本大震災後の規制緩和や電力自由化の進展により、現在では様々な形態での電力供給が可能になってきている。地域や事業者の特徴を活かして、再生可能エネルギー等を導入しながら、常時は省エネルギーやCO2排出削減に貢献し、非常時(停電時)は自立的に電力供給できるスマートコミュニティが構築されてきている。

トヨタ自動車のF-グリッド構築

上記の電力特定供給の例として、トヨタ自動車のF-グリッドが2013/2に構築されて運用されている。F-グリッドは、宮城県の第二仙台中核工業団地において、トヨタ自動車東日本の本社工場の自家発電システム(コージェネレーションシステム)から、周辺のトヨタグループやその他の企業の工場等にも電力と熱を供給する先進的なスマートコミュニティ事業である。電力の供給は電力自営線で行ない、熱の供給は熱導管で行なっている。なお、F-グリッドのFはFactoryの意味である。このスマートコミュニティでは、エネルギーの需給を行なう各社が協同組合を構成しており、災害時には地元自治体の役場にも電力供給するシステムとなっている。

自動車会社では、災害時に自社工場のみのエネルギーや電力が復旧しても、自動車生産の再開はできない。サプライヤを含めて地域や工業団地としてBCPを考える必要があった。東日本大震災を経験して、グループや地域で協力し合うことの必要性が認識されるようになった。

スマートコミュニティ事業の展開

現在では、多くの地方自治体や事業者が国(経済産業省や環境省)の補助金等を活用して、上記のような電力自営線を使用するスマートコミュニティを構築してきている。スマートコミュニティが事業として成立するためには、そのエリアでエネルギー需要密度が高いことが条件であり、大都市部の再開発事業、地方部の駅前施設や官公庁施設、工業地帯の隣接工場等が対象となる。

従来は個々の建物・施設において省エネやBCPが考えられてきたが、条件の整ったエリアでは、近隣の建物・施設が協力してサステナビリティを高める方が有用であり効率的である。今後、建物・施設の所有者、事業者においては、条件の整ったエリアに立地していること自体が、一定の社会的責任を負っていることになると考えるべき時代に移行してきている。自家発電システムが「自助」であるならば、スマートコミュニティは「共助」、電力系統は「公助」とも言える。