アナリストeyes

容器の減量・減容化で軟包装を環境配慮につなげる考えは過去のものに

2019年4月
主任研究員 船木 知子

近年、海洋汚染の主要因としてマイクロプラスチックの問題がクローズアップされており、欧州を始めとする多くの国々においてプラスチックごみの削減に向けた規制が強化されるなど、環境配慮は国際的な課題となっている。国内で展開する包装材料メーカー各社も、この動きと無関係ではいられなくなった。

2018年1月にはEUが「循環型経済における欧州プラスチック戦略:A European Strategy for Plastics in a Circular Economy」(以下、EUプラスチック戦略)を採択し、2030年までにEU域内における全てのプラスチック包材をリユースまたはリサイクルすることを目指すとした他、使い捨てプラスチックを削減し、化粧品や合成繊維などに使われる海洋環境に有害なマイクロプラスチック(原則として大きさ5ミリ以下の微小なプラスチック粒子)の使用を制限する方針を打ち出した。

同年5月には使い捨てプラスチック10品目と漁具を対象としたEU全域に亘る新たな規制が提案されたが、この中には食品容器や飲料容器、ストローなどとともに、箱・包装、軽量プラスチック袋が含まれている。同年10月には同じくEUで2021年より食器、ストロー、マドラー、綿棒などの使い捨てプラスチック製品を禁止する法案が可決された。

海洋プラスチックごみ問題では、多くの場合はプラスチックボトルやストロー、レジ袋などがクローズアップされ、パウチ類などの軟包装に対しては現段階では消費削減や市場規制、製品デザイン要求といった具体的な規制が打ち出されているわけではないが、EUプラスチック戦略では全プラスチック包材のリユース・リサイクルが謳われている他、イギリスの冷凍食品大手のIcelandでは2023年までに全商品で軟包装を含むプラスチック・パッケージを全廃し、完全リサイクル可能な紙・パルプ素材へと転換することを発表するなど、規制に向けた動きは始まっている。

一方、日本国内において、軟包装メーカー各社はこれまで、環境問題に対しては「小さくたたんで捨てられる=ゴミの容量削減」というメリットを前面に打ち出し、びん、缶、プラスチックボトルなどの成形容器よりも薄肉軽量で容器の減量化・減容化につながる環境配慮型の包材としてアピールする戦略を取ってきた。しかし、世界的規模で使い捨てプラスチック廃止への取組みが進む中、その戦略の転換が求められている。

強度やバリア性、易開封性など異なる性能のフィルムを複合化することで高機能化を実現してきた軟包装は、PETボトルや金属缶、食品トレーなど単一素材の容器とは異なりリサイクルが難しい。さらに、軟包装はこれまで使用後にプラスチックごみとして廃棄されており、廃棄のしやすさが利点でもあったことから回収・リサイクルルートも確立されていない。このことが、軟包装の環境配慮を難しくしている。

しかし、「使い捨てプラスチックの禁止」が即プラスチックフィルムを使用した軟包装の廃止につながるわけではない。先述のEUプラスチック戦略では今後のビジョンとして、堆肥化可能なプラスチックと生分解性プラスチックについてライフサイクル評価を実施し、そうしたプラスチックの適用基準の策定を行う予定とされている。

今後、EUに限らず多くの国々においてプラスチックごみの削減に向けた規制強化が進む中で、世界中の企業が、限りある天然資源の使用を削減し、環境負荷が低い代替素材への切り替えを行っていくことが予測されるが、これらの材料を上手く利用することで軟包装を「使い捨てプラスチック」ではなく生活の利便性向上とサスティナブル社会の実現を両立する製品として訴求することができるようになる。

「生分解」「植物由来」の材料として古くから使用されているのが紙であり、原料(循環型の原材料調達)から包材製造バイオマス度向上とCO2排出削減、廃棄(生分解性)までライフサイクル全体での環境適性が高い。反面、パルプから解繊されたミクロン単位の細かい繊維が絡み合った紙は通気性が高く、スナック菓子や乾燥食品の包材として使用する場合には中身が湿気たりフレーバーが飛ぶというデメリットがある。これに対し、製紙メーカーにおいて、紙にバリアコーティングを施して酸素透過率及び水蒸気透過率においてPVDCコート(Kコート)OPPやEVOHに匹敵する性能を実現したバリア包材が開発されており、既に市場に出ている商品の包材としての採用が始まっている。

植物由来以外の環境配慮としては、リサイクルに適した単一素材(モノマテリアル)化や、再生樹脂からのフィルム製造などが挙げられるが、これらはパッケージコンバーターだけでなく、包装用フィルムメーカーでの取組みが進められている。

これまで国内市場においては、多くの企業が「環境対応」をCSRの一環として位置付けてはいるものの、通常の製品やサービスとしての展開まで広がらないケースが多かった。植物由来材料や再生材料などはコストが高いことが多く、食品、トイレタリーといった中身での採用が難しかったためである。しかし、2015年9月に国連サミットにおいて持続可能な開発目標(SDGs)が採択されたのに続き、2016年5月のG7伊勢志摩サミット、2017年7月のG20ハンブルグサミット、同年12月の国連環境総会(UNEA3)、2018年6月のG7シャルルボワサミットなど、多くの国際会議でも地球温暖化防止や海洋プラスチックごみ問題など環境問題が議題に上がるなど、国の枠を超えて環境問題解決に向けた認識の共有や連携の確認、行動計画への合意が行われている。グローバル規模で消費者の環境に対する意識が大きく前進する中で、包材メーカーには現代の要請に対応した「環境配慮」を自社製品の価値としてアピールし、新たな製品開発と提案のチャンスにつなげることが求められている。