アナリストeyes

xEV市場展望とLiBのあり方

2019年11月
理事研究員 稲垣 佐知也

二つの現実

我々は二つの現実を見る必要がある。一つは政策の現実、それに対応せざるを得ない自動車メーカーの現実である。当社はLiBやEVの現実(性能やコストなど)を考えた際、短期間での急激なEVの成長は非常に難しく、LiB、EVがハマるアプリケーションから電動化を進めていくべきであると継続して主張してきた。
しかし一方で自動車メーカーとしては強制力(罰則、罰金)のある政策、法規制がある限り、EV(またはPHEV)を生産せざるを得ない。LiBの限界、EVの製品としての限界は理解しながらも他に選択肢はないのも事実である。大量のEVを販売しなければならない、そのために膨大なLiBが必要である。現在の車載用電池市場の急拡大の背景である。
もう一つは市場の現実である。LiBの現実とも言えよう。LiBの性能はここ10年で急速に向上し、自動車に搭載しうるレベルにはなった。しかし、自動車として十分ではない。EVは車種によって自動車としての魅力は十分にあるが、価格、使い勝手(充電インフラ、充電時間)、走行距離、資産価値(中古車価格)などのバランスを考えると、既存の内燃機関車(ICE)と比較してEVでなければならない理由はない。つまり、自動車購買の選択肢としてICEがある限り、現実にはICEを選ぶ消費者がまだまだ大多数である。一般ユーザーにとってxEVは必須ではない現実がある。

当然、自動車メーカーもこの状況は理解している。実際、自動車メーカーからは「EVを生産するのは良い。しかし、どう販売すべきかが分からない」といった声が聞こえる。本音であろう。それでも生産したからには販売しなくてはならない。現状では製品の利益率は下がるが、売り先としてはフリート市場を始めとした法人市場(リース、企業向け含む)などが挙げられている。今後は、主に街乗りが想定されるシェアリングなども候補先の一つになろう。中国では自動車価格を下げるため、10-20kWh程度のLiBを搭載したマイクロEVなど、小型のEVで台数を稼ぐ方法などが考えられている。
自動車会社ではどうにか販売先を見つけ、EVを「消化」していくことに注力せざるを得ない状況になる。しかし、上記のアプリケーション先のみでは限界がある。恐らく、欧州大手自動車メーカーがEVやPHEVを販売し始めてから1-2年後、2020年~2021年頃に一つのターニングポイントを迎えると考える。無理をしてEVを生産し、価格を下げ、利益が圧迫され、自動車会社、電池業界にとっても持続可能なビジネスではないことに気が付くのではないか。
xEVを販売していくためには、まずこの二つの現実を理解し、そしてその間にあるギャップをいかに埋めていくかが必要になってくる。

現行LiB/EVの適材適所、CASE/MaaSにおけるEVのビジネスモデルとは

このギャップをいかに埋めていくか?ここにxEV市場、そしてLiB市場にとって健全な成長に向けた鍵があると考える。
まずは適材適所。①高級車(プレミアムセグメント)、②商用車、③シェアリングカー(リース/レンタル)でこそ、まずはEVを目指すべきである。これらの用途は現状のLiBの現実に沿った使い方ができ、イニシャルコストは掛かるものの、数年でオペレーションコストが相殺できたり、EVの不便さを感じることなく使用できる。

次に、自動車の発展/進化自体を注視して行くべきであろう。EVというのは自動車の一つの形態に過ぎず、自動車産業を全体的にリードしてくのは「CASE」や「MaaS」といった概念となり、EVはその中で捉えるべきと考える。
例えば、今後自動車は所有するのではなく、シェアリングされるものと予想されている。実際、自動車各社も自動車単体の売り切りではなく、自動車自体を一つのツールとし、そこから得られるサービスでのビジネスを模索し始めている。自動車を利用してのサブスクリプションサービスなども想定される。
一例として、ネット接続されることで基本料金や、付随サービスにて収益を得られるであろう。EVを運転していく中で得られる様々な行動情報などはデータとして販売できるとみる。

販売形態としてはEVまたはLiBのリースも考えられる。近年、xEVの普及により、LiBのリユース、リサイクルの必要性も叫ばれつつある。LiBのリユース、リサイクルにはまだ様々な課題が残っているものの、その中でもLiBの回収がまず解決すべき課題としてあげられている。EVとして顧客に販売されてしまえば、その先はどこに行くか分からず、回収に困難を極めるが、リースの場合、所有はメーカー(またはディーラー)に残るため、確実に回収ができる。回収ができれば、リユース、リサイクルとしての価値も出てくるため、LiBコストを長期間に渡って分担できるようになる。

EVをCASEやMaaSの中で捉え、EVの販売単体だけで利益を上げたり、LiBのコストを自動車のイニシャルコストだけに負わせるのではなく、長期的なビジネスモデルの中で収益を上げ、コストを分担していくことも重要ではないだろうか。
自動車業界も電池業界も利益を確保でき、持続可能なビジネスになりうると考える。

多次元で業界を展望し、真に必要な電池とは何か模索すべき

EVのビジネスモデルは自動車メーカーが考えるべきことであり、LiBメーカーの仕事ではない。しかし、近年のLiBメーカーによる車載用電池の急激な設備投資を見ていると、LiBメーカーは政策や自動車メーカーしか見ていないように思われる。実際、LiBメーカーと話をしても、「自動車会社の計画では」といった声を聞くことが多い。
確かに、直接の顧客の声は大事である。無視もできないであろう。しかし、実際に自動車を買うのは一般ユーザーであり、現状、EVは一般ユーザーにとって必須ではない。現に自動車メーカーの人間ですら、EVを好んで購買するというのは僅かである。そうした製品が本当に政策通り、自動車会社の目標通りに伸びていくのであろうか。「二つの現実」がある限り、現状のEVが本当に受け入れられるのかどうかを見ていく必要がある。
LiBメーカーであっても、自社の事業性を判断するためには、ユーザー市場を注意深く見ていく必要があり、自らも市場を創出していく努力が求められる。

今一度、立ち止まって考える必要があろう。今後もLiBを大量生産し、消費していく時代が続いていくのか?高容量LiBだけが市場に求められているのか?現状、利益を得られ、持続可能なビジネスモデルと言えるのか?

現行のLiBが大幅に改善され、発展するか、革新的な電池が現れない限り、EVの限界は目に見えている。その間、自動車自体の進化、発展は続き、自動車の形態、使用のされ方は更に多種多様になっていく。
その時、本当に必要となる電池とは何であろうか?