アナリストeyes

自粛生活で落ち込んだ消費意欲を取り戻すために何が必要か ―ジュエリー業界―

2020年7月
主席研究員 清水 由起

ジュエリーは政府の規定する“不要不急”の典型的な商品である。こういった非常事態においては消費の回復が最も後回しにされる。
そもそも日本のジュエリー市場規模は、バブル以降縮小傾向にある。東京オリンピック・パラリンピックの開催を控えて株価も上がり、少しずつ上昇ムードであったものの本格的な回復とまでは至らず、少しの景気後退要因で風向きが変わる状態であった。そこにきて今回の新型コロナウイルスである。多くの小売りや卸は顧客向け催事の中止や店舗休業、営業時間短縮によって、厳しい状況にさらに追い打ちをかけられている。
そして何よりも、6月下旬となった未だに収束の時期が見えていないことが、ジュエリー業界に暗い影を落としている。ましてや、感染拡大第2波への懸念が広がっており、消費者の生活には引き続き不安が伴う。自粛側に切ったハンドルをすぐには戻せないため、日本経済はこれから少なくとも2、3年は苦しい状況になるだろう。

不要な罪悪感なしに消費意欲を取り戻してもらうために

ジュエリーが“不要不急”と言われれば確かにそうかもしれないが、この“不要不急”という言葉はとても乱暴であり、その製品を作っている人、売っている人の生活を軽んじている。人が何のために生きているのか、何のために仕事を頑張るのかと考えると、おしゃれをして食事をし、大切な人と談笑する、そういったことが私たちを人間たらしめているように思う。
消費者にいかに不要な罪悪感なしに“不要不急”なジュエリーに対する消費意欲を取り戻してもらうか。

東日本大震災のあと、日本人のマインドセットが変わったと言われる。絆や繋がり、愛といったことに重きを置くようになり、ブライダルリングが例年以上に売れた。

今回の新型コロナウイルス感染拡大によって、日本の国民全体が外出自粛を強いられ、家族と過ごしたり、一人で自分自身を見つめ直す機会となった。学校にも職場にも行けず、以前にも増して絆の大切さを感じているはずである。災害の後にはストーリー性があるものにお金を使いたくなるという傾向があるため、東日本大震災の時のように、ジュエリーがその絆を確かめる商材となれば、需要は拡大していくだろう。

今回の災禍を受けて、資産価値のあるジュエリーまたは精神的な価値のあるジュエリーへと二極化するとみられる。現に、新型コロナウイルス感染拡大が始まってから金価格は高騰し、1月に4,566円/gであったが6月には6,500円/gになった。これは“有事の金”と言われるように、戦争や天災などのリスクが高まると金価格が高騰するからであり、それにつれて喜平チェーンや純金ジュエリーの人気が出ている。
一方、精神的な価値の部分では、“自分だけのオリジナル”“自分が製作したもの”や、サステナブルやエコロジーといった“社会的な意義”のあるものへのシフトが挙げられる。家族や大切な人との思い出の物、お守り的な物など、様々な「コト」が「モノ」より優先順位が高くなる。また、作り手を助けているんだと思えることも、罪悪感なく消費できる要因となる。

そして、今回の災禍によって資産や給与が減少する消費者が数多く出ている一方で、マスクや消毒関連企業はもちろんのこと、通販企業や食品宅配企業、医師、オンライン教育事業などで収入が増えた人もいるだろう。そういった人たちは、収束した後に爆発的に買い物をする可能性がある。現にゴールデンウィークから本格的に行動が自由になった中国では、アフターコロナ特需が訪れている。

人によって価値観が多様な時代になり、一概に贅沢品を不要と捉える必要はない。ジュエリー業界は、それを如何に新生消費者にアピールして取り込めるかがポイントとなる。