アナリストeyes
アフターコロナ、ウイズコロナ時代の化粧品産業の展望
主席研究員 浅井潤司
日本の化粧品産業は、コロナ禍で未曾有の事態に直面している。経済産業省が発表した生産動態統計によると2020年の出荷金額は16.3%減少した。
化粧品産業において、過去2回(アジア通貨危機、リーマンショック)あった経済危機後の化粧品産業の変遷を見てみると、「市場構造の変革」と「新市場の創出」が起こった点がいずれも共通しており、今回も経済危機を契機に「市場構造の変革」「新市場の創出」など化粧品産業に大きな変革が起きるものと予測する。具体的に想定される事項は以下の通りである。
DX(Digital Transformation)化の進展
生産面では、製造情報のデジタル化が進み、企業間のサプライチェーン連携による生産の対応力が向上する。また個別企業においても全社レベルで製造情報の共有化が進み、リモートでの現場の見える化が実現する。
研究開発面では、量子コンピューターを活用することにより、化粧品開発期間が短縮する。また、計測デバイスの進化や個人データの蓄積が進むことで、AI(Artificial Intelligence)やビッグデータを活用したカスタマイズ化粧品の開発が進展する。
流通面では、EC(Electronic Commerce)がより一層台頭する。ECの中でも注目されるのがライブコマースであり、ライブコマースがメインストリームとなっていく。また、小売店舗でもオンラインカウンセリングなどデジタル化が進み、将来的に小売店は商品を購入する場所から特別な体験を提供する場所に変化する。
販促面では、余暇を過ごす手段としてSNSや動画サービスなどの存在感が高まり、口コミサイトやYouTubeなどのレビューの重要性が増している。そこで、インフルエンサーの発信する情報を活用するインフルエンサー・マーケティング、中でもフォロワーが相対的に少ないマイクロインフルエンサー・マーケティングが台頭する。マイクロインフルエンサーは、専門分野のエキスパートであり信頼性が高く、生活者と大きなオンライン・エンゲージメントを生み出すため、多くの企業がマイクロインフルエンサーと連携するケースが増加する。
D2C戦略で新規参入するメーカーの増加
DX化に関連して注目を集めているのがD2C(Direct to Consumer)である。D2Cはブランドの立ち上げから顧客への情報発信、広告、マーケティング、購入まで全てがデジタルで完結するビジネスモデルである。スマホの登場以降、SNSやウェブなど全てデジタルメディアで情報を収集するようになり、それが一般化してきたことで、デジタルだけで完結するようになった。さらにコロナ禍において非接触ですべてが完結するということでより一層注目を集めており、今後、D2C戦略で新規参入するメーカーが増加する。
マスク着用・テレワークを前提とした商品需要の拡大
マスクで口もとが隠れていることからリップメイクの落ち込みが激しくなる一方で、マスクでは隠れない目元回りのアイメイクは好調に推移する。また、マスク着用で肌トラブルを抱える生活者が増加しており、敏感肌化粧品のニーズが高まる。参入企業の商品開発は、マスク着用が前提となり、マスクによりメイクが崩れるという女性の悩みを解消するメイクアップ化粧品の需要が拡大する。
日本製化粧品の輸出金額のさらなる拡大
財務省の貿易統計によれば、2015年頃から化粧品輸出が大きく伸長し、2016年には初めて輸出額が輸入額を上回った。その後も好調に推移し、コロナ禍の影響を受けると見られた2020年は輸出額が過去最高額を記録、6,000億円を超え7,000億円も射程圏内に入っている。コロナ禍でインバウンド(訪日外国人客)は消失したが、インバウンドで日本製化粧品を購入した海外居住者において日本製化粧品を継続使用したいというニーズは高まっており、日本製化粧品の輸出金額はさらに拡大する。現時点での仕向け先は中国など東アジアが中心であるが、今後は経済成長が見込まれるASEANなど他のアジア地域への輸出比率が拡大する。
日本の化粧品産業はコロナ禍で未曾有の事態に直面しているが、これは従来のビジネスモデルを見つめ直す良い機会でもあり、新たなビジネスチャンスの機会でもある。コロナ禍を契機にビジネスモデルを強くして新しいビジネスを創出することが化粧品産業の次の成長につながる。ウイズコロナ、アフターコロナを見据えて、地に足のついた着実な事業活動を推進していくべきである。