アナリストeyes

矢野経済研究所における“孤高のビジネス”YPSデータとは

2024年2月
コンシューマー・マーケティングユニット
スポーツ&レジャーグループ
理事研究員 三石茂樹

言うまでもなく矢野経済研究所は「市場調査」を生業としている会社であるが、そのビジネスモデルは多岐に渡っている。過去本稿において「調査会社の仕事とは」というテーマで寄稿したが、私が担当しているスポーツ領域でも近年「地域のスポーツ資産を活用した地域創生」の実現に向けて自治体と連携し戦略立案、戦術実行をサポートするなど、時代の変化と共に「市場調査」という言葉の定義・領域はより広範囲に及んでいることを実感している。

そのような中、私が所属しているスポーツ関連部署において30年以上の長きにわたって展開しているのが「YPSデータ」である。これはYano Panel Surveyの頭文字を取ったものであり、簡単に言うと「国内主要小売企業の(POSデータを中心とした)実売情報を集計・分析したデータ」、更に言えば「いつ・どこで・何が・どれだけ売れたのか」を定量的に集計したデータである。取り扱っている商材は「ゴルフ用品」「テニス用品」「スポーツシューズ」の3カテゴリー。

私自身毎日のようにデータを提供頂いているパネル店からダウンロードされてくるPOSデータと睨めっこするような毎日を送っているのだが、近年感じるのはスポーツ用品の多スペック化と所謂“特注品、限定品の増加”である。イメージで言えば、20年前は1週間で処理するデータ行数が1万行であったとして、現在は10倍弱にまで増加している、といった具合である。ユーザーの嗜好が多様化したこと(産業側がそのように仕向けた面もあると思うが)により我々が処理するデータの件数も飛躍的に増加した。そうした地道なデータ集計からも様々な「気づき」がある。例えば「これだけゴルフクラブのスペック数が増えたら、果たして小売店の現場における販売員の負担はどれだけ増加しているのだろう」「メーカーの生産管理及び需要予測のロジックはどのように進化しているのだろう」「小売市場における在庫不足や在庫過多の要因は、商品構造の複雑化や多スペック化による生産リードタイムの長期化が根本的な原因なのではないか?」といった具合である。何よりも大切なのは、そうした「データ集計における気付き(妄想と言っても良い)」を業界関係者に対する面接取材で可能な限り可視化すること、定量調査によって生じた「何故?」を定性調査により可視化することにあり、それを行える「武器」を持てていることが当社におけるスポーツ領域調査の最大の強みではないかと私は考えている。テーマにあるようにYPSデータは私が所属するスポーツ部門のみで展開されており、社内でもそのビジネスモデルの実態は殆ど知られていないのではないかと思う。ある種「ブラックボックス化」されているような気もするが、今回は社外の皆様だけでなく当社の社員にもその中身と「ツボの部分」を知ってもらえればと思い取り上げた次第である。