アナリストeyes
国内IT産業とトランプ新政権~わき上がる不安と期待
ICT・金融ユニット
理事研究員 忌部佳史
国内企業のIT投資は強気に推移
ICT・金融ユニットでは、10月31日に『2024 国内企業のIT投資実態と予測』を発刊した。
同レポートでは国内の民間IT市場規模について、2023年度は前年度比106.3%となる15兆500億円と推計している。その後も前年度比105.6%(2024年度)、105.0%(2025年度)と続く予測となっており、当面は企業のIT投資は強気で進展すると見込んでいる。その一部はプレスリリースとして発表しているので、興味ある方は参照して欲しい。
同レポートではIMFなどの経済予測を参照しつつ、また日本や米国の政治動向など不確実性は確認しつつも、大きく環境が変わることはないだろうという視点から予測を行っている。企業に対するアンケート調査においても経済環境を不安視する意見はほとんどなく、IT投資に対する姿勢は積極的だったこともその裏付けとして得ている。
とはいえ、である。同レポート発刊直後に決した米国大統領選、つまりトランプ政権誕生による影響はやはり読み切れない。
トランプ政権が日本のIT産業に与える影響
現時点では、トランプ政権が日本のIT産業に直接的に与える影響は小さいとみている。AI熟練人材のビザ発給削減や対中規制強化の枠組みのなか、トランプ政権下のAI産業は米国の内向きの開発―例えば防衛産業など―に投資が集中する可能性がある。そうなると、日本のIT業界からすれば、米国AIベンダとの共同開発、国際連携といったアプローチがとりにくくなり、いわばAI技術の“輸入”が停滞する可能性がある。これは国内ITベンダのAIに対する知見の縮小、成長鈍化を招くことにつながりかねず、最先端技術へのアクセスが停滞することによる国内IT事業への悪影響は多少起きると考えられる。
しかし、米国のクラウドサービスは引き続き日本を優良な顧客として取り扱うことは変わりなく、もともと米国へ輸出するものは少なく、国内需要をメインとしているのが我が国のIT産業である。トランプ政権の影響はやはり限定的と考えるのは自然であろう。
しかし、国内ユーザ企業の業績へ与える影響、それによるIT投資控えという側面では、深刻な影響を受ける産業分野がでてもおかしくない。トランプ次期大統領は世界からの輸入に対し、一律10%の関税率をかけることを主張している。当然、日本からの輸出にもマイナスの影響を与える。
また、対中国への強力な規制強化はサプライチェーンに対して複雑な影響を与える。これまで米国が中国から調達していた物資等を、日本を含めたアジアや中南米等へ振り替えるならば日本にもプラスではある。しかし一方で輸出先を失った中国が米国以外の市場に思い切った低価格で輸出攻勢をかけ、その結果、日本の製造業がシェアを奪われる可能性もある。
この辺りは産業セクターごとに検討する必要があり、当社の各産業のレポートにも影響が報告されていくことだろう。
こうした世界経済における構造的な変化をうけ、IT業界としては、国内ユーザ企業の業績悪化→IT投資の減少といった可能性は意識しておく必要があるだろう。特定産業への依存割合の大きいITベンダは注意が必要ということだ。
そして最も何が起きるかわからないと不安や期待を掻き立てるのは、イーロン・マスクの存在だ。トランプとイーロン・マスク、いかにも破壊力抜群の組み合わせである。何が起きても不思議じゃない、と思っていても、さらにそれを超える世界観を打ち出してくるに違いない。
政府効率化省のトップに据えるといったニュースが流れているが、どのような規制を破壊していくのだろうか。どのように構造を変えていくのか。変革のメイン舞台はどこだろうか。自動車?宇宙?まさに目が離せない状況となった。
変化は衰退を招く契機にも、新しい機会を生む契機にもなる。ビッグデータやAIなど、ここ数年で登場したテクノロジーは着実に社会に組み込まれている。この流れは不可逆で誰も留めることはできない。それであれば、先を目指して進むしかないではないか。我々も引き続き、ITの変革を、社会・経済の刷新の最前線を追いかけたいと思う。