太陽光発電分野の新市場として立ち上がる太陽光発電所セカンダリー市場
~新電力や投資家の関心が高まり、2018年度の市場規模は450MWに達すると予測~
1.市場概況
日本国内の太陽光発電所は、FIT(再生可能エネルギーの固定価格買取)制度による売電価格の低下や運営に適した土地の減少などにより新設の動きが鈍化している。しかし、2012年7月のFIT制度開始後に計画された太陽光発電所が、毎年のように新たに稼働を開始している。そして、太陽光発電所のストック数の増加に伴い、新たな市場として太陽光発電所セカンダリー市場が形成されてきている。同市場は、既に稼働している太陽光発電所の売買取引(太陽光発電事業の譲受を含む)を行うもので、「中古不動産取引の太陽光発電所版」と言える。
太陽光発電所セカンダリー市場の市場規模(当該年度に取引されたあるいは取引される予定の稼働済み太陽光発電所の発電出力ベース)は、2016年度が200MW、2017年度が前年度比150%の300MWの見込みである。これまでに出力数十MWクラスの大型太陽光発電所の取引例が出てきている。
稼働済み太陽光発電所の取引を行う主なプレイヤーとしては、発電事業者や金融機関、機関投資家、個人投資家、インフラファンドなどが挙げられる。太陽光発電所セカンダリー市場の拡大と同時に、稼働済み太陽光発電所の取引を支援するサービスが開発されている。代表例として、買主と売主の取引仲介サービスをはじめ、太陽光発電所の設備の技術的な評価や資産価値を評価するサービスなどが挙げられ、太陽光発電所のEPC(Engineering, Procurement,Construction)会社やO&M(Operation & Maintenance)サービス会社、金融機関などが参入している。
2.注目トピック
太陽光発電所の適切な点検・メンテナンスによる資産価値の維持・向上
太陽光発電所セカンダリー市場への関心が高まる中、太陽光発電所の価値の維持・向上に寄与する点検やメンテナンスの重要性が増している。一部のO&Mサービス会社は、太陽光発電所セカンダリー市場の拡大を見据えて、既存の点検やメンテナンスの品質向上に加えて、改修サービスなどの取り組みを開始した。
稼働済み太陽光発電所の取引にあたり、買主は発電設備の発電能力や状態などが一定の水準にあり、かつ適正価格で取引可能な物件を求めている。これに対し、売主はできる限り良い価格条件での販売を目指す。価格の設定において、太陽光発電所の価値が判断基準となるが、その価値は発電パフォーマンスや設備トラブルの状況などの影響を受ける。そのため、発電設備の発電能力を最大限発揮し、かつ良好な状態を保つことが重要となる。
屋外に設置されている太陽光発電所は、様々な気象条件に直面する上、鳥獣の侵入などのリスクを抱えている。稼働開始当初は問題が無い場合でも、稼働年数が増えるに従い、太陽光パネルやパワーコンディショナー(PCS)など太陽光発電所を構成する設備が、故障や部品の劣化などに見舞われる恐れがある。
発電パフォーマンスに直結するトラブルは、太陽光発電所の取引にあたり評価が下がる要因となるため、早期発見と早期対応が望ましい。大規模災害の被災などで設備が深刻なダメージを受けている太陽光発電所であれば、必要に応じて改修工事を行うなど資産価値を回復する取り組みが求められると考える。
3.将来展望
太陽光発電所セカンダリー市場の市場規模(当該年度に取引されたあるいは取引される予定の稼働済み太陽光発電所の発電出力ベース)は、2018年度に450MW、2020年度には
800MWに達すると予測する。新電力事業者や投資家を中心に、稼働済み太陽光発電所を購入する動きが継続的に発生し、買主サイドの需要を踏まえて、太陽光発電所の売却に関心を示す所有者や発電事業者が増える可能性がある。
太陽光発電所のストック数の増加に従い、物件の母数が増えることも市場規模拡大に寄与する。FIT制度の開始後、早い段階で事業計画認定(設備認定)を受けた太陽光発電所は売電価格の条件が良いため、引き合いが集まるとみられる。運営・管理のコストが低い太陽光発電所は、新電力事業者が購入に関心を示すと考えられる。
同時に、取引仲介やデューデリジェンス、資産価値評価などの取引支援サービスのニーズが増加すると予測する。これらのサービス以外にも、例えば太陽光発電所の資産価値を高める改修サービスへの関心が高まる可能性がある。取引支援サービスの市場が成長した場合、企業の新規参入の動きが続き、競争が激化する見通しである。
今後の太陽光発電所セカンダリー市場に大きな影響を与えうるプレイヤーとして、インフラファンドが挙げられる。インフラファンドは、発電所などのインフラ施設・設備に投資し、そのリターンを投資家に分配する。太陽光発電所を新設する動きが鈍化する中で、インフラファンドが稼働済み太陽光発電所に投資するケースが増えると考える。
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【ショートレポートに掲載されているオリジナル情報】Aパターン
売主サイドの動向
取引支援サービスの動向
アフターFITを見据えた取り組み
調査要綱
2.調査対象: 太陽光発電所セカンダリー市場向けサービス(取引仲介、資産価値評価など)を展開している企業
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談、電話・e-mailによるヒアリング、ならびに文献調査を併用
<太陽光発電所セカンダリー市場とは>
本調査における太陽光発電所セカンダリー市場とは、稼働開始後(稼働中)の太陽光発電所を取引(売買に加え、太陽光発電事業の譲受を含む)する市場を指す。
市場規模は、当該年度に取引された(される予定の)太陽光発電所の発電出力ベースで算出している。なお、市場規模には、稼働開始前の太陽光発電所(例:工事中など)の取引は含まれない。
<市場に含まれる商品・サービス>
稼働済み太陽光発電所の売買取引仲介や資産価値評価、デューデリジェンスなどのサービス
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