新常態下で、病院経営はどのような環境対応が必要になるのか
~さまざまな観点から病院の今後を予測~
1.調査結果概要
「二次医療圏が機能していない。このことは、わが国の医療経済・政策学研究者にとっては共通認識だ」と著名な医療経済・政策学研究者が述べた。これは以前から指摘されてきたことだが、政府はこのことを真正面から取り上げ、議論したことがない。
医療圏の問題については、政府が医療圏の作成を行うことを決めた時点から大きな課題だった。特に東京都などでは大学病院が狭い範囲にひしめき、一般病院などとの棲み分けも十分できない状態で策定されている。また、地方においては二次医療圏内に病床を有した医療機関が1施設しかないことから、その病院の病床区分が二次医療圏内の区分となる事態が生じている。加えて、地方では人口減少が年々深刻化し、産業基盤も脆弱となり、地域の病院の外来・入院患者も減少しつつある。このままでは地方自治体の経済的な補助も先細りしてしまう。
さらに地域によっては、公立病院改革によって複数の公立病院が統廃合され、これまでの医療圏が大きく変化してしまったところもある。そのため、実際の患者の流れが大きく変化し、医療圏の作成時に想定した患者の流れと大きく異なってしまったところもある。これで困るのは、その地域で生活している住民である。病院が新しくなっても容易に利用することができない。何のための公立病院改革なのかと地域住民の不満が高まることになる。
このような状況下で、都道府県別に地域医療構想に基づく新たな医療提供体制の作成が行われている。地域医療構想を策定する単位である『構想区域』は、医療計画で用いる二次医療圏を原則としている。しかし、厚生労動省の指導の下に作成を推進したとしても、2025年までに理想的な医療提供体制を構築することは不可能に近い。民間の医療法人としても、容易に病床数を削減することはないだろう。そのため、2025年時点では、医療機能において必ずしも急性期に該当しない病床も実際には存在することになることが予測される。
2.注目トピック
医療法改正の経緯~2025年に必要とされる病床数とは
政府は1985年の医療法改正で都道府県が病院を適正に配置することができるようにするため地域医療計画を策定することになった。ところが、そのことが全国各地で駆け込み増床を誘発することとなり、結果的に過剰病床が増加した。その後も政府は病床数の適正配置を検討してきた。その結果2015年6月、政府の社会保障制度改革推進本部『医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会』は、2025年までに高度急性期病床・急性期病床を計24.1万床削減できるとの目標値を盛り込んだ報告書をまとめた。これにより都道府県は報告書の数値を参考に地域医療構想を策定することになった。
目標値は、レセプトデータなどを用いて都道府県ごとに必要病床数を推計し、積み上げたものだが、都道府県が民間病院に病床削減や病床転換を求めることは容易ではない。それは、民間病院にとって収入に直結することとなり、経営問題だからだ。その上、国にも地方自治体にも、民間病院に対して病床削減を強制する権限がない。
報告書では、病床機能の分化や効率化を進める必要性を強調した上で、一般病床と療養病床を合わせて134.7万床ある2013年の病床数を、2025年には115万~119万床に減らすとした。削減幅は15.7万~19.7万床と、現状の1割強に当たる。機能分化を進めない場合、2025年の病床数は152万床程度と予測した。
病床機能別では、病床機能報告制度で2014年7月までに報告された123.4万床のうち、高度急性期は6.1万床、急性期は18万床、慢性期は6.7万~11万床が削減できると算出した。その一方で、在宅医療の充実を図ることで新たに29.7万~33.7万人に対応できるとしている。回復期病床も現在の11万床から37.5万床に拡大できるとした。
2016年度末には、全都道府県が地域医療構想を策定した。その結果、現時点での医療機能ごとの病床数(2015年度病床機能報告)と、地域医療構想による構想区域(341区域)における2025年の『病床必要量』を比べることができるようになった。病床は『高度急性期』『急性期』『回復期』『慢性期』の4区分で報告された。ちなみに、地域医療構想における2025年の病床の必要量は合計で119.1万床となった。その内訳は、高度急性期が13.1万床、急性期が40.1万床、回復期が37.5万床、慢性期が28.4万床となった。
オリジナル情報が掲載された ショートレポート を1,000円でご利用いただけます!
【ショートレポートに掲載されているオリジナル情報】BCパターン
独自の二次医療圏の構築
デジタル化の課題への対応
これからの病院という場
調査要綱
2.調査対象: 行政当局、医療機関、製薬企業、医薬品卸、学識経験者、業界紙関係者等
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、ならびに文献調査併用
本調査では、新型コロナウイルス感染症の拡大によって経営が悪化した病院の状況に加え、その根本的課題、また将来の少子高齢化における病院のあり方について分析を行った。
<市場に含まれる商品・サービス>
病院経営
出典資料について
お問い合わせ先
本資料における著作権やその他本資料にかかる一切の権利は、株式会社矢野経済研究所に帰属します。
報道目的以外での引用・転載については上記広報チームまでお問い合わせください。
利用目的によっては事前に文章内容を確認させていただく場合がございます。