2050年のソーラー水素世界市場規模は95億円に達する見通し
~「夢の技術」である人工光合成の社会実装が視野に入る~
1.市場概況
人工光合成は太陽光によるエネルギー蓄積反応(光エネルギーを化学エネルギーに変換するプロセス)を利用して、水から人類の活動に必要なエネルギーを人工的に生成するものである。近年、無尽蔵の太陽光エネルギーによって、水と二酸化炭素から水素や有機化合物などを作り出すことができる人工光合成の社会実装が視野に入ってきた。特に、光触媒において世界トップクラスの研究成果を有する日本において、実用性検証などの動きが活発化している。
第一期(2012~2021年度)の人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)では、NEDOプロジェクト「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発」において、社会実装の鍵を握る可視光応答型光触媒を数多く開発した。こうした知見をベースに、NEDOはグリーンイノベーション基金事業の一環として、プロジェクト「アルコール類からの化学品製造技術の開発」を2021年度にスタートさせ、可視光応答型光触媒の見かけの量子収率(Apparent Quantum Yield:AQY)を高めていくことで、数年以内に実用レベルの太陽光エネルギー変換効率(Solar to Hydrogen:STH)5%の達成を目指すという。また、本プロジェクトにおいて、㎡級の光触媒パネル製造技術、水素/酸素混合ガスの分離システム、大規模設備によるソーラー水素製造プロセスなどの開発を進めている。
2.注目トピック
人工光合成に関する論文数の動向(中国)
本調査において、複数の学術論文DBを利用して過去5年9カ月(2017年1月~2022年9月)の人工光合成に関わる論文について調査した。調査結果から人工光合成に関わる論文数をエリア別でみると、中国が43%でシェアトップとなった。
中国では、人工光合成に関する多岐に渡る研究がなされているが、なかでもグラファイト状窒化炭素系光触媒、ペロブスカイト量子ドット光触媒、グラフェンナノシート関連の研究成果を示した論文の被引用数が多い。また、光電気化学セル(PEC)や金属有機構造体(MOF)、共有結合性有機構造体(COF)、窒素還元などをキーワードとした論文も散見される。
3.将来展望
人工光合成の研究開発において、可視光応答型光触媒技術で世界をリードする日本では、2030年頃に国内でソーラー水素(水分解により生成される水素)のヘクタール級実証プラントが世界に先駆けて稼働する見通しである。その後、日照時間が長く条件の良い海外にも展開され、2035年頃には海外でソーラー水素製造プラントが本格稼働すると予測する。
水素の世界需要の拡大も見込まれており、再生可能エネルギー由来水素も供給が増えることから、ソーラー水素の世界市場規模(プラント引渡し金額ベース)は、2040年に6億6,600万円、2050年には95億400万円に拡大すると予測する。
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調査要綱
2.調査対象: 人工光合成の社会実装に取り組む研究機関・企業等
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、ならびに文献調査併用
<人工光合成とは>
人工光合成は太陽光によるエネルギー蓄積反応(光エネルギーを化学エネルギーに変換するプロセス)を利用して、水から人類の活動に必要なエネルギーを人工的に生成するものである。光化学ならびに光電気化学の領域であり、光子を直接化学反応に利用しない電気分解は人工光合成に含まれない。
本調査では、太陽光エネルギーを利用した水分解による水素や酸素の生成、および二酸化炭素の還元による有機化合物の合成という二つの反応を対象としている。
<市場に含まれる商品・サービス>
水分解により生成される水素(ソーラー水素)
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