2050年カーボンニュートラルに向け、半数以上の自治体が2030年度における温室効果ガス排出量の削減目標を設定
~再生可能エネルギー由来の電力の利活用拡大に向けて、「屋根置き太陽光発電」の導入を実施または検討している自治体は9割超に~
1.調査結果概要
本調査は共同通信社の協力により、2022年9月末までに2050年のカーボンニュートラル(二酸化炭素排出実質ゼロ)を表明している229自治体(ゼロカーボンシティを表明している19都道府県、210市区町村)に対してアンケート調査を実施し、地域における温室効果ガス排出量の削減や再生可能エネルギーの普及に向けた自治体の方針や課題を分析した。
2030年度における地域の温室効果ガス排出量の削減目標の設定状況(単数回答)を尋ねたところ、「すでに目標がある」55.0%、「目標を設定する予定」35.4%となり、合計90.4%の自治体が2030年度における温室効果ガス排出量の削減目標を設定、もしくは設定を検討しているという結果であった。本調査結果から、自治体では、2050年のカーボンニュートラルという長期目標に対して、マイルストーンとして2030年度における地域の温室効果ガス排出量の削減目標を設定する動きが広がっていることがうかがえる。
2023年から2030年にかけて温室効果ガス排出量を削減していく上で、中心的な施策となるのが再生可能エネルギー由来の電力の利活用拡大である。地域における再生可能エネルギー由来の電力の導入・利活用状況について尋ねたところ(単数回答)、「屋根置き太陽光発電※1」を導入している自治体は全体の71.6%にのぼる。さらに、導入を検討している自治体(21.4%)を含めると9割超となることから、2030年までは再生可能エネルギーのなかでも「屋根置き太陽光発電」が先行して導入が進むと考えられる。
なかでも、屋根置き太陽光発電の導入拡大に力を入れている自治体では、新築物件だけでなく既築物件への導入支援策(例:補助金)を実施している。既築物件の屋根に太陽光発電システムを設置する場合、重量に対する建物の強度等の問題が懸念されるため、現地調査を踏まえ、太陽光発電システムの追加設置が可能かどうかを見極める自治体もある。
また太陽光発電技術に関しては、ペロブスカイト太陽電池等、軽量かつ柔軟性の高い素材を使用したフレキシブルな次世代型の製品開発が進んでいる。将来的に設置場所の制約を受けにくい次世代型の太陽光発電が登場すれば、新築・既築を問わず屋根置き太陽光発電の加速度的な普及を後押しする要因となり得るとみており、再生可能エネルギー由来の電力の利活用拡大において、屋根置き太陽光発電の導入施策の有効性が一層高まるものと考える。
※1. 屋根置き太陽光発電の特徴
建物の屋根に太陽光パネルを設置して発電を行うため、市街地や住宅地など地域を問わず導入することができる。加えて、他の再生可能エネルギーと比べ導入コストや計画から発電開始に係る時間、運転管理の負担を抑えられる。
2.注目トピック
再生可能エネルギーの促進区域は4割超の自治体が設定を検討中
2022年に入り、政府は地域におけるカーボンニュートラルの取り組みを促進する施策として「脱炭素先行地域の募集※2」を開始するとともに、改正地球温暖化対策推進法を施行した。
2022年1月から2月と同年7月から8月の2回にわたり、地域脱炭素移行・再エネ推進交付金の対象となる脱炭素先行地域の募集が実施され、合計46件(第1回26件、第2回20件)の事業が選定された。
脱炭素先行地域への応募実績・予定について尋ねたところ(単数回答)、「まだ応募したことは無く、今後応募するかどうか検討中」が22.7%、「まだ応募したことは無く、今後応募するかどうか未定」が50.2%となった。政府は2030年度までに少なくとも100ヶ所の脱炭素先行地域をつくるとしており、「今後応募するかどうか検討中」「今後応募するかどうか未定」としている自治体の応募を促す施策が必要と考える。
また、2022年4月に施行された改正地球温暖化対策推進法において、市区町村は地域の再生可能エネルギーを活用した脱炭素化を促進する事業を推進するための促進区域(再生可能エネルギーの促進区域※3)を設定できるようになった。
これに関連し、再生可能エネルギーの促進区域の設定状況・予定について尋ねたところ(単数回答、210市区町村対象)、回答が得られた207市区町村のうち、「設定するかどうか検討中」は40.6%、「今のところ設定する予定は無い」は52.2%となった。「設定するかどうか検討中」と回答した自治体では、「促進区域に関する先行事例を収集している」「促進区域を設定するメリット、デメリットを見極めている」といった回答も半数程度みられた。本調査結果から、現段階では促進区域の設定に対して慎重な姿勢を示す自治体が多いと言える。自治体自身がより主体的にカーボンニュートラルの目標に向けて積極的な取り組みや施策を推進していくべきと考える。
※2. 脱炭素先行地域とは
地域特性に応じた手法を活用し、2030年度までに地域と暮らしに密接に関わる分野の温室効果ガスの削減に取り組み、民生部門(家庭部門及び業務その他部門)の電力消費に伴う二酸化炭素排出の実質ゼロ、その他の温室効果ガス排出について日本全体の2030年度目標と整合する削減を実現し、またそれらの実現の道筋を2025年度までに立てている地域である。
※3. 再生可能エネルギー事業の促進区域とは
民間企業を誘致する等、災害時の電力供給などの地域貢献が見込める再生可能エネルギー導入事業のノウハウを外部から地域に呼び込むために、市区町村が事業の対象となる区域を設けることができる制度である。
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【ショートレポートに掲載されているオリジナル情報】BCパターン
8割近くの自治体が「蓄電設備の導入に係るコスト」を課題として認識
組織内での合意形成等、自治体内での連携体制の強化が課題に
調査要綱
2.調査対象: 2022年9月末までに2050年のカーボンニュートラル(二酸化炭素排出実質ゼロ)を表明している229自治体(19都道府県、210市区町村)
3.調査方法: インターネット、郵送、電子メールによる自治体アンケート調査
<カーボンニュートラルに向けた施策に関する自治体アンケート調査とは>
本調査は共同通信社の協力により、2022年9月末までに2050年のカーボンニュートラル(二酸化炭素排出実質ゼロ)を表明している229自治体(ゼロカーボンシティを表明している19都道府県、210市区町村)に対してアンケート調査を実施し、温室効果ガス排出量の削減や再生可能エネルギーの普及に向けた自治体の方針や課題を分析した。ここではその一部の分析結果を公表する。
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自治体における再生可能エネルギーの普及促進策
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