市場は「リサイクルブーム」、目指すべきはブームの先を見据えた最適な仕組み作り
~2023年の世界の車載用LiB廃棄・回収重量は23万3,800tの見込~
1.市場概況
BEVやPHEV市場の拡大に伴い、車載用リチウムイオン電池(以下、LiB)の生産拠点拡大・生産能力増強が世界の各エリアで打ち出されている。そのため、増え続けるLiBに対して、リユース・リサイクルの仕組みを導入する必要に迫られている。
政策面では、EUで成立が確定した新電池規則に「リサイクル材使用の強制化」が盛り込まれており、また米国ではIRA法(インフレ抑制法)の電動車への補助金条件の1つに、「米国、FTA締結国、または重要鉱物協定締結国で抽出加工やリサイクルされた重要鉱物の使用」が含まれている。さらにLiBに使用されるニッケル(Ni)、コバルト(Co)、リチウム(Li)といった資源価格の高騰もあり、資源の「価値」と「確保」の両面でリサイクルの必要性が再認識された。こうしたことを背景に、LiBのリユース・リサイクルへの関心度は高まり続けている。
2.注目トピック
車載用LiBの廃棄・回収状況
2023年の車載用LiBの世界廃棄・回収重量は23万3,800t(見込)と推計する。地域別に構成比をみると、2023年は中国が93.9%を占めている。この要因は、政策主導でBEV・PHEV市場が他国に先行して成長したことにより、LiB廃棄・回収量の増加も先行していることが挙げられる。
なお、車載用LiBの廃棄・回収量の拡大時期は、当初の想定よりも更に後ろ倒しになっている状況にある。例えば、日本ではBEVやPHEVの販売台数が少なく、中古車が輸出されている。中国では政府が主導するトレーサビリティシステムがうまく機能していないことや、国の認定を受けたホワイトリスト企業以外に使用済み(廃棄)LiBが流入しており、想定よりも回収量が少ない。欧州においてはxEV廃車が行方不明となる「missing vehicle」問題が起きている。さらに米国では車載用LiBの回収ルールの定めがなく、個別にしか回収が実施されていない状況にある。このような状況が、車載用LiBの回収量拡大を妨げる要因となっている。
3.将来展望
LiBのリユース・リサイクルは、カーボンニュートラルと経済合理性、新旧2つの価値観が物差しとされており、今後を展望するに際しては複数の変数が絡む状況にある。
EUの新電池規則は製品のライフサイクル全体でのCO2排出量を対象としており、リサイクルプロセスにおけるCO2低減が価値として、存在感が今後高まる可能性がある。
しかし、CO2低減のためのリサイクルプロセスはコスト上昇の側面を有するため、上乗せとなるコスト分を消費者が幅広く許容出来るまでには価値観の変化を含め、長い時間が必要となると考える。また、いずれはリサイクル源が市中からの使用済み(廃棄)LiB中心になる事を含め、LiBリサイクルには多岐にわたる視点を持った取り組みが重要になる。
足元のLiBリユース・リサイクルに対する注目度の高まりは加熱気味の感も否めない。時間の経過と共に現実を踏まえ、冷静、かつ最適な在り姿を改めて考えるフェーズがこの先数年で訪れる可能性がある。
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中国におけるLiBリユース動向(概要)
中国におけるLiBリサイクル動向(概要)
調査要綱
2.調査対象: リチウムイオン電池(民生小型、車載、ESS用)のリユース、リサイクル事業、技術
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、ならびに文献調査併用
<リチウムイオン電池のリユース・リサイクルとは>
本調査におけるリチウムイオン電池(LiB)のリユース、リサイクルとは、廃棄や交換等で不要となった使用済みLiBを新たに別の用途で二次利用するリユース、並びに使用済み電池からCo、Ni、その他金属材料を抽出し、LiBの正極材の原材料やその他用途で再利用するリサイクルを対象とする。
なお、車載用LiBの廃棄・回収重量、LiBのリユース容量・リサイクル回収量は各地域におけるLiBを搭載したxEV(HEV、PHEV、BEV)の生産台数をベースに、LiB製造工程における工程内スクラップの発生重量は各地域におけるLiB生産能力、ならびに今後の設備投資計画をベースに、本調査で得た定量情報および定性情報を加味して算出した。
※参考資料
リチウムイオン電池劣化診断機器・サービス市場に関する調査を実施(2024年)
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3618
<市場に含まれる商品・サービス>
民生用小型リチウムイオン電池、車載用リチウムイオン電池、ESS用リチウムイオン電池、※参考事例としてのニッケル水素電池のリユース、リサイクル動向含む
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