山積する課題のなか、ICT機器の導入・普及により介護DXが加速
~科学的根拠に基づき、自立支援と重症化の予防を進める科学的介護への転換~
1.市場概況
介護保険制度は介護が必要な高齢者を社会全体で支える仕組みとして2000年に創設された。介護保険制度では利用者の選択権が尊重され、ケアマネジメントの手法が取り入れられたことで、集団ケアから個別ケアへの転換が進んだ。その後、介護保険制度は3年ごとに改正が行われている。
日本では総人口の減少が見込まれるなか、高齢者人口の増加に伴い、介護サービスのニーズは拡大していく見通しである。一方で、介護サービスでは慢性的な人材不足を課題として、処遇改善による賃金アップや、長期雇用を促進するための施策、外国人人材の確保などの様々な施策が行われ、徐々にその効果はみられている。しかし、高齢化による介護ニーズの増加スピードに、介護人材の供給は追いついていない状況にある。
このような課題のなか、2021年4月から科学的介護情報システム(LIFE:Long-term care Information system For Evidence)の運用がスタートし、エビデンスに基づく介護として、科学的介護の推進やDX化を進めることで生産性の向上を図るなど、これまでの介護サービスの提供方法の転換が求められている。
2.注目トピック
科学的介護の推進やICTの活用が求められる
従来の介護サービスでは、介護に携わる人の経験や知識、スキルに頼る部分が多く存在した。科学的介護では、科学的根拠に基づき、自立支援と重症化の予防を進めることとなる。2021(令和3)年の介護報酬改定では「科学的介護推進体制加算」が新設され、介護サービス事業者側が利用者のデータを科学的介護情報システム(LIFE)に登録し、データ分析結果のフィードバックをケア改善に役立てることで、一定単位の報酬加算が行われる。エビデンスに基づいた高いサービスの提供を目指すこととなった。
また、見守り機器やインカム等のICT機器の導入を条件に、一部の施設サービスでは、夜間の人員配置基準の緩和等の制度の見直しも実施されている。2022年には介護ロボットやICT機器、介護助手を導入することで人員配置を緩和し、介護サービスや職員の業務負担に悪影響がないことを確認する実証実験も行われ、職員の負担軽減に一定の効果があることが示唆されている。今後の介護サービスにはICT化が不可欠であることから、政府はシステム化において補助金を創設し、介護サービス事業者のICT化を後押ししており、業界全体としてDX化が求められている。
3.将来展望
介護保険制度の動向は、市場環境に大きく影響を与える。制度改正の方向性として、エビデンスに基づく介護が重要視され、政策への対応を進めるうえでのICT化は必要不可欠であり、LIFEを始めとするシステムや見守り機器等ICT機器の需要は高まる見込みである。
ICT化は介護サービスにおける働き方改革や生産性向上でも大きく寄与するものと考えられ、介護人材確保に向けた施策の1つとなる。
この他にも介護サービス事業者では、介護従事者の待遇改善や教育・研修の充実、地域との連携強化など、多方面での取り組みが必要となる。また、介護サービス分野でのM&Aが増加しており、大手企業の影響力が強まる一方で、地域の特性に合わせた介護サービスを提供する地域密着型の小規模な事業者も重要な役割を果たす見通しである。
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調査要綱
2.調査対象: 介護保険制度関連データ、介護保険関連企業、医療・介護人材サービス企業
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、ならびに文献調査併用
<市場に含まれる商品・サービス>
介護保険対象の居宅サービス、施設サービス、地域密着型サービスおよび居宅介護支援等
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