生命保険会社・損害保険会社では業務効率化の側面でIT活用が進む
~特に生保は「既契約者対応」、損保は「保険金支払査定」において積極的にAIを活用~
1.調査結果概要
本調査では、大手保険会社のニュースリリースなどの公開情報を中心にIT技術を活用した保険会社の取組事例を取得し、次に当社独自で定義した業務の6分類毎に事例件数を集計し、傾向などを整理した。 業務分類はあえて生命保険会社・損害保険会社共通で定義しており、「1.商品・サービスの企画開発」「2.営業支援」「3.引受査定」「4.既契約者対応」「5.保険金支払査定」「6.業務支援全般」の6分類とした。
さらに集計結果をもとに、保険会社の関係者との意見交換を実施することで、それぞれにおけるIT活用の実態について分析し、総合評価を3段階(◎、〇、△)で作成した。
調査の結果では、まず生命保険会社では特に「4.既契約者対応」の業務領域で取組が進んでいた。生命保険会社では、保険契約者からの契約見直しや名義変更などの問い合わせに対する手続き対応や、問い合わせに対する照会対応などを行っており、日々の問い合わせ件数は膨大である。自動化で済む問い合わせはAIに任せ、人が対応すべき複雑な案件をオペレーターが対応するなど棲み分けを進めている。
次に、損害保険会社では「5.保険金支払査定」の業務領域、特に損害調査の領域でAI活用が進んでいる。損害保険領域では過去からの自然災害に伴う調査データなどの知見を蓄積している。その為、膨大な学習データとAIの画像認識の組み合わせが、損害調査への活用において親和性が高い。また、近年、自然災害が頻発化・激甚化しており、災害時における損害調査対応が必要となっていたことから、自ずと各損害保険会社で取組事例が増えたと推察する。
2.注目トピック
生成AIは書類作成支援など社内業務サポートとして導入が進む一方、顧客対応には現状不向き
生成AIは2023年ごろから瞬く間に話題となり、個人・法人ともにその活用に期待が高まっており、大手保険会社でも期待と注目を集めている。
生命保険会社・損害保険会社問わず、まずは社内の業務サポートとして生成AIの導入を進めている。現状では保険業界ならではの使い方ではなく、書類の作成支援や社内情報の検索、アイデア出しなど、社員の業務全般の支援としての生成AI活用から始めている状況にある。
一方、保険の契約内容の問い合わせなど保険業務特有の場面における生成AIの活用については、保険は金融商品ゆえ、生成AIのハルシネーション(実際には存在しない情報を生成する現象)を含め、情報精度が十分ではないこともあり、現状難しいようだ。
膨大な量のマニュアルや約款などを学習させ、例えば「顧客からの問い合わせへの回答を生成AIに作成してもらう」といった使い方が望まれるものの、現状では生成AIの回答は100%正しいとは言い難い状況にある、との意見が聞かれた。保険は金融商品ゆえ、顧客に誤った回答をして万が一にも顧客に不利益を被ることがあってはならない点で、顧客が関わる場面での利用は時期尚早とみる。また、利用する保険会社の社員側でも、生成AIの回答は間違える可能性があることを前提として認識しておくなど、使い方のリテラシーを高める必要があると考える。
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調査要綱
2.調査対象: 大手生命保険会社、大手損害保険会社
3.調査方法: 当社専門研究員による文献調査、ならびに直接面談(オンライン含む)併用
<保険会社におけるIT活用動向とは>
本調査では、大手保険会社のニュースリリースなどの公開情報(2019年1月~2024年2月)を中心にIT技術を活用した保険会社の取組事例を取得した。次に、生命保険会社・損害保険会社での違いや共通項など分析するために、当社独自で定義した保険会社の業務を6分類したうえで、業務分類毎に事例件数を集計し、傾向などを整理した。
さらに集計結果をもとに、保険会社の関係者との意見交換を実施することで、ニュースリリースでは見えてこない生命保険会社・損害保険会社、それぞれにおけるIT活用の実態について分析した。
当然、生命保険会社と損害保険会社では性質が違う業務があるものの、生保と損保のIT活用実態について、なるべく平準化した言語を用いて分析すべく、本調査ではあえて業務分類を生命保険会社・損害保険会社共通で定義している。業務分類は、「1.商品・サービスの企画開発」「2.営業支援」「3.引受査定」「4.既契約者対応」「5.保険金支払査定」「6.業務支援全般」の6分類とした。
なお、IT技術の活用に関して、紙の申込書類をWebでの申込に変えたといった、いわゆるデジタル化の動きに関しては除外した。
<市場に含まれる商品・サービス>
保険会社におけるIT活用動向
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