2024年の国内養液栽培システム市場は前年比100.7%の80億5,900万円の見込
~資材価格高騰による需要の減少も落ち着き、市場規模はほぼ横ばいで推移~
1.市場概況
国内の農業は担い手や後継者などの労働力不足、生産者の安定収入が課題となっている。これに加えて、食に対する安心や安全への意識の高まりから、消費者が減農薬作物を求めることによるコスト上昇などといった課題を抱えている。
こうしたなか、解決策の一つとして、養液栽培が普及している。養液栽培は土壌病害などによる連作障害を回避できることで、地理的環境等による栽培不適地域における栽培を可能にしたり、装置化・システム化により耕起(土を耕すこと)や除草、土壌消毒などの作業が不要となるため、労働時間の短縮につながる。また周年栽培が可能となり、効率化などによる生産量の増大が可能となる。
2023年の国内の養液栽培システム市場規模は、システムメーカー出荷金額ベースで前年比92.4%の80億600万円であった。これは各種資材価格の高騰が製品の値上げにつながり、既存生産者の追加設備投資が難しい状況が続いていることが要因である。
2024年に入り、資材価格の上昇も落ち着きつつあり、新規参入する生産者の設備投資も期待されることから、2024年の同市場規模は前年比100.7%の80億5,900万円を見込む。
2.注目トピック
環境に配慮した農業への取組みが進む
農林水産省は、みどりの食料システム戦略において、「2050年までに化石燃料を使用しない施設への完全移行を目指す」という目標を掲げている。その中で、農林水産省は2027年度より実施する全ての補助事業への「クロスコンプライアンス」の導入を決定し、2024年度より試行段階に入り、補助金の受給にあたり環境負荷低減の取組みを義務化する。
また、施設園芸機器・資材メーカーや食品事業者などは、みどりの食料システム法に基づく基盤確立事業実施計画の認定を受ける例が増加しており、施設園芸に関する計画の認定も進んでいる。このように国が先導役となり、環境に配慮した農業の実現に向けた取組みを生産者や施設園芸機器・資材メーカーが進めている。今後も農業施策が牽引して、農業における環境への配慮の取組みが進むと考えられる。
3.将来展望
2025年の養液栽培システム市場規模は、前年比101.0%の81億4,300万円になると予測する。資材価格の上昇も一服するとみられ、特に異業種から参入する事業者は初期投資が大きくても扱いやすい養液栽培システムを導入する可能性が高く、今後、市場は堅調に推移していく見通しである。
また、養液栽培システムは肥料のコントロールがしやすく、植物へ適量の肥料を与えることが可能なことに加え、水耕栽培・固形培地栽培では排液循環システム等が普及することで、肥料の無駄削減が可能となる。これらは、みどりの食料システム戦略の目標である化学肥料削減に繋がることから、今後は同様の新技術の研究開発が進むと同時に、生産者への養液栽培システムの導入が推進されると考える。
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調査要綱
2.調査対象: 施設園芸関連資材メーカー[農業用ハウス、養液栽培システム、複合環境制御装置、施設園芸用ヒートポンプ、植物育成用光源、 被覆資材(農業用フィルム)、農業ICT、液体肥料、内張りカーテン、遮光剤・遮熱剤]、関連団体・官公庁等
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、電話・e-mail等によるヒアリング、ならびに文献調査併用
<養液栽培システム市場とは>
養液栽培とは、肥料を水に溶かした液(培養液)によって作物を栽培する栽培法である。養液栽培方式のうち、「水耕」とは培地を使わずに培養液の中や表面で根が育つ栽培方式であり、「固形培地耕」とは、土の替わりとなる様々な培地に作物を定植する栽培方式で、「養液土耕」とは、培地には土を使い、元肥(基肥)を施用せず、灌水と同時に液肥を供給する栽培方法である(出所:NPO法人 日本養液栽培研究会)。
本調査における養液栽培システム市場とは、養液栽培を行うための必要な機器類を含み、いずれの養液栽培方式においても、栽培品目は果菜類、葉菜類、根菜類、花卉類を対象とする。市場規模は養液栽培システムのメーカー出荷金額ベースで算出している。
<市場に含まれる商品・サービス>
養液栽培システム
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