2023年度の医療情報システム市場規模は、前年度比3.2%増の2,974億円と推計
~クラウド型電子カルテの採用が進み、院内業務の生産性向上やミスの防止に寄与する電子カルテ周辺サービスの普及に期待~
ここでは、医療情報システム市場規模推移・予測、および中小規模一般病院向け電子カルテ市場規模推移・予測について公表する。
1.市場概況
医療情報システムは業務効率化や情報連携を図るシステムとして、医療施設(一般病院や一般診療所)に導入されている。システムは電子カルテや医事会計などの基幹システム、PACSやRIS、臨床検査システムなどの部門システムから形成されており、医療における大きな変革にIT化は不可欠なツールとなっている。
また、2010年に診療録の外部保存が解禁されたことで民間事業者側のデータセンター等での診療情報の保管が認められ、院内にサーバーを設置するオンプレミス型に加えて、クラウド型の電子カルテシステムの普及が進んでいる。
医療情報システムは多くのシステムで普及率が高まったことで、新規導入中心からリプレイス中心の市場に移り、コロナ禍以前の2019年度までの医療情報システム市場は概ね前年度比2%前後の推移となっていた。コロナ禍の影響による導入遅延などから2020年度の医療情報システム市場は前年度比3.2%減となったものの、2021年度以降回復傾向にあり、2023年度の同市場規模は2,973億5,900万円(同3.2%増)と2019年度市場規模よりも高い水準となった。
2.注目トピック
クラウド型電子カルテの採用は堅調に増加
クラウド型電子カルテのメインターゲットとなる医療施設は、一般診療所および、一般病院のうち中小規模病院(病床数300床未満)となっており、クラウド型システムは電子カルテの普及に貢献している。
一般診療所においては、新規開業の診療所におけるクラウド型電子カルテの採用率が急速に拡大している。2022~2023年に新規開業した全国のクリニック210件へのアンケート調査※では、開業時にクラウド型を採用した施設の割合は70.8%となっている。既存開業施設でも、クラウド型の採用が広がりつつある。
また、一般病院のうち、300床未満の中小規模病院においては、経営状態が厳しい中でも医師や看護師等の人材確保の観点から電子カルテ化のニーズが高く、初期費用や人的負担が抑えられるクラウド型電子カルテを採用する施設が増加している。さらに近年では、大規模病院向けクラウド型電子カルテの上市や大学病院におけるクラウド型電子カルテの採用もみられる。
以上のような状況の中、2023年度の中小規模一般病院向け電子カルテ市場規模を652億4,900万円と推計し、2026年度には706億3,700万円になると予測する。そのうちクラウド型が占める割合は2023年度12.0%(77億9,900万円)から2026年度は16.8%(118億3,700万円)に増加すると予測する。
※ 「新規開業クリニックに関する法人アンケート調査を実施(2024年)」(2024年9月24日発表)
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3601
3.将来展望
医療情報システムは、基幹システムや部門システムの多くでリプレイス中心の市場であることは変わらず、2024年度の医療情報システム市場は前年度比1.0%増の3,002億3,600万円と予測し、その後も同1.0%未満の低い増加率で推移する見通しである。
今後、市場成長率が低く留まる要因としては、近年市場成長をけん引してきた一般病院向け電子カルテの導入率が高まることで、電子カルテの新規導入件数が減少するとともに、導入案件の小規模化も並行して進行することが挙げられる。
医療情報システム市場のうち、電子カルテシステムについては前述のようにクラウド型の採用が加速しており、2026年度の中小規模病院(300床未満)向け電子カルテ市場規模は16.8%をクラウド型が占める見込みである。なお、電子カルテ導入率とクラウド型の割合の上昇から、2026年度頃には一般病院におけるオンプレミス型電子カルテの稼働施設数は減少に転じると予測する。
近年では、電子カルテ周辺サービスとして、電子カルテ入力の効率化・ミス防止を図るサービス(音声入力やバイタル測定機器からの自動送信など)や生成AIを活用した文書作成補助などのサービスが増加している。電子カルテの普及に伴い、このような周辺サービスも普及し、院内業務の生産性向上やミスの防止に寄与することが期待される。
クラウド型電子カルテについては、前述の電子カルテの普及に貢献することに加え、上記の周辺サービスとのスムーズな連携の観点でも期待がされている。なお、一般病院向けのオンプレミス型電子カルテについては、クラウドサービスとセキュアに接続するためのサービスもみられはじめており、オンプレミス型電子カルテを採用している医療施設についても電子カルテ周辺サービスの活用は広がるものと推測する。
オリジナル情報が掲載された ショートレポート を1,000円でご利用いただけます!
【ショートレポートに掲載されているオリジナル情報】Aパターン
2030年時点の電子カルテ導入率予測(一般病院、精神科病院、無床診療所別)
調査要綱
2.調査対象: 国内の医療情報システムベンダー
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、ならびに文献調査併用
<医療情報システムとは>
医療情報システム(EMR:Electronic Medical Record、EHR:Electronic Health Record)は、医療施設(一般病院や一般診療所など)における業務効率化や情報連携を図るシステム全般を指し、電子カルテ(オーダリングシステム含む)や医事会計などの基幹システム、及び放射線部門、臨床検査など部門システムより構成され、施設規模やニーズに応じて様々なレベルのシステムが構築されている。
<医療情報システム市場とは>
本調査における医療情報システム市場とは、基幹システム(電子カルテシステム、医事会計システム)や部門システム[医用画像管理システム(PACS)、放射線情報システム(RIS)+治療RIS、臨床検査システム、生理検査システム、手術情報管理システム、薬剤部門システム、栄養部門システム、診療情報管理システム、地域医療連携システム、リハビリ部門システム)、その他を対象として、メーカー・総販売元ベースで算出した。オンプレミス型、クラウド型いずれのシステムも含む。
<電子カルテ市場について>
厚生労働省の「医療施設調査」によると、医療施設の種類は一般病院、精神科病院、一般診療所、歯科診療所に区分される。
本調査における電子カルテ市場規模は、大規模一般病院(病床数300床以上)、中小規模一般病院(同300床未満)、精神科病院、一般診療所の種類別に算出した。
<市場に含まれる商品・サービス>
一般病院、精神科病院、一般診療所向けの医療情報システム(オンプレミス型、クラウド型)
出典資料について
お問い合わせ先
本資料における著作権やその他本資料にかかる一切の権利は、株式会社矢野経済研究所に帰属します。
報道目的以外での引用・転載については上記広報チームまでお問い合わせください。
利用目的によっては事前に文章内容を確認させていただく場合がございます。