2023年度のガーデニング・家庭菜園の市場規模は前年度比99.1%の2,321億円と微減
~アーバンファーミングの広がりやホームセンターの都市型店舗の出店等が追い風となり、2024年度の市場は同100.6%と増加基調に転じる見込~
1.市場概況
2023年度はコロナ禍の特需等の反動が続いたことで、ガーデニング・家庭菜園の市場規模(生産者・メーカー出荷金額ベース)は前年度比99.1%の2,321億円と前年度を下回った。ガーデニング・家庭菜園市場は成熟しており、従来、60~70代のシニア層が主力顧客となり市場を支えてきた。しかし、近年、この層の高齢化が進展し、市場は縮小傾向にあり、30~40代の若年層や人口のボリュームゾーンである50代における新規顧客の開拓が課題となっている。
そういった中、苗の生産者・メーカーは、長期間開花し対候性のある花品種の提案や、比較的少なかったダークカラー系の花の品種開発、育ちやすさや生育の強さを特色とした苗やメロン、スイカ、ハーブ類等の栽培品目の提案等を行い、新規顧客獲得や従来のユーザーのニーズに向けた商品化が展開されている。
また、資材メーカーでは、インテリアグリーン(室内で育てられる観葉植物)やベランダ等の限られた空間でも栽培できるプランター菜園など、現代のユーザーニーズに沿った新規顧客獲得への取り組みが展開されている。
余暇における庭いじり等の総人口は減少しているものの、特に若い世代はガーデン菜園や、都市部の遊休地や屋上、ベランダで行うアーバンファーミング(Urban Farming、都市農業)に関心を持っているとみられる。これらを入口に本格的なガーデニング・家庭菜園市場に流入することが期待される。
また、コロナ禍以降、多くは贈り物として利用されていた観葉植物や鉢物が自宅に飾るものとして定着したことで、これらの植物や関連資材の需要は継続している。ホームセンターの都市型店舗の出店等も続いたことに加え、一部で商品価格の改定が進んでおり、生産者・メーカーの売上高も横ばいから増加傾向にあり、2024年度のガーデニング・家庭菜園市場規模は同100.6%の2,334億円を見込む。
2.注目トピック
都市部で広がるアーバンファーミングの動き ~社会課題解決や生物多様性保全にも貢献~
コロナ禍における生活スタイルの変化、気候変動の顕在化、生物多様性が失われていくといった社会的な課題において、新たなライフスタイルとしてアーバンファーミングが消費者の注目を集めている。
アーバンファーミングでは、農地がなくても、誰もがベランダや貸農園、コミュニティ菜園等で植物を育てることが出来る。遊休地の少ない都市の中心部でも、ビルの屋上やベランダで生産が行われている。アーバンファーミングは、海外から始まったムーブメントで、土地の区画貸ではなく、参加者が共同で植物の世話や収穫を行うコミュニティ農園の形態をとっていることも多い。また、作物を育てて食べるだけでなく、イベント等、活動を通じたコミュニティが形成されていることが特徴である。
アーバンファーミングについては、「地域活性」、「食農教育」、「環境貢献」、「食糧自給」、「生物多様性」、「ウェルビーイング」につながるといった6つの良い点があるとされる。日本では、コロナ禍において、2020年から2021年にかけて旅行等のレジャーが制限されたこと等によって、貸農園のユーザーが爆発的に増えた。ただし、行動制限が解除されるにつれて、その伸びは落ち着きを見せている。また、コミュニティで一つの菜園を共同管理するスタイルもコロナ禍前後から登場している。貸農園は郊外の遊休地の活用として盛り上がったが、コミュニティ菜園については、2022年頃から大手町や渋谷、お台場、新宿といったような都内エリアでも、様々な規模でアーバンファーミングが行われている。
3.将来展望
ガーデニング・家庭菜園市場は、コロナ禍の特需等の反動が続いたものの、花や植物の潜在的な需要は存在すると考える。
苗の生産者・メーカーでは、花卉苗や野菜苗などの省力化や猛暑への対応といったニーズに応えた提案を行い、新規ユーザーから長年ガーデニングに取り組む層まで需要の掘り起こしを進めている。
資材メーカーでは、省スペースで栽培可能な商品の提案や、インテリアにもなじむデザイン性を備えた鉢や資材の展開などが行われている。また、有機肥料や食品原料の酢を使った殺虫殺菌剤等に加えて、厳しい生育環境下でも収穫量増加や品質向上を実現するバイオスティミュラントといった分野も市場を形成しつつある。
2024年度は、春先の野菜価格の高騰や食品を含む消費財全般の物価高によって、家庭菜園にも注目が集まり、初心者にも育てやすい品種や収穫してすぐに料理などに使えて便利なハーブ類等に対する需要も高まっている。このような新規顧客の獲得に向けた取組み等によって市場は微増傾向で推移し、2029年度のガーデニング・家庭菜園の市場規模は2,394億円(2023年度比103.1%)になると予測する。
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園芸向け芝刈機・草刈機・刈払機の動向 ~みどりの食料システム戦略と家庭園芸工具の電動化~
調査要綱
2.調査対象: 植物取り扱い企業(種苗メーカー、花卉卸売市場、流通業、ホームセンター、ガーデンセンター、フラワーショップ、貸し農園等)、ガーデニング資材取り扱い企業(資材メーカー、園芸資材小売店等)、業界団体等
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、電話・e-mail等によるヒアリング調査、ならびに文献調査併用
<ガーデニング・家庭菜園市場とは>
本調査におけるガーデニング・家庭菜園市場は植物分野と資材分野に大別され、植物分野とは、花壇用苗物、野菜苗・果樹苗、花木、球根、芝・グランドカバープランツ、鉢物等を対象とし、資材分野とは、鉢・プランター、家庭園芸用農薬、家庭園芸用肥料、家庭園芸用培養土、芝刈機・草刈機・刈払機、ガーデニング関連商品*を対象とする。なお、家庭菜園向け野菜苗・果樹苗の市場規模は、ガーデニング・家庭菜園市場規模の内数である。
*ガーデニング関連商品とは輸入ブランドガーデニンググッズ(グローブ、ウェストエプロン、その他ブランド物)、ガーデンファニチャー、ウッドデッキ・トレリス等のウッド製品、園芸関連機器(噴霧器、散水用品)、園芸金物類(移植ゴテ、スイーパー草抜き、ガーデンハンマー、ハサミ等)などを示す。
<市場に含まれる商品・サービス>
植物(花壇用苗物、野菜苗・果樹苗、花木、球根、芝・グランドカバープランツ、鉢物等)、ガーデニング資材(鉢・プランター、農薬、肥料、培養土、関連グッズ、ガーデンファニチャー、園芸関連機器(噴霧器、散水用品、金物、工具関連)、芝刈機・草刈機・刈払機)
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